17話 背徳
周囲の蟲を退治し終えた俺達は曲がった先にいる何者かが来るのをその場で待っていた。
爆発音が響いていたのが次第に止み始め完全に音がなくなったその時。
「羊竜?」
「あれが?超可愛い」
「サイズは可愛くないけどな」
最初に姿を現したのはジルコートと同じサイズの羊竜でその後を続くように同じ格好をした双子、その後ろを真っ赤なローブを着た女性が歩いてくる。
「あら、召喚士?こっちのドラゴンフライは倒してくれたの?」
「ああ。この道を選んでしまったのでな。俺はサキ、こっちはアイ。それと銀竜のジルコートだ」
「銀翼の覇軍ね、噂は聞いてるわ。私は召喚士のアーシェよ。宜しくね」
「その赤いローブでまさかとは思ったがアーシェって背徳の赤じゃないか」
「やっぱり。貴女が有名な召喚士なのね」
「あら、知っててくれて光栄だわ。カルテス、デポルラポル、お疲れ様」
羊竜と双子を解除するアーシェ。それに続くように俺もジルコートを解除し話を続けた。
「もしかしてギルドの討伐依頼出来たのか?」
「ええ、この渓谷が通れれば商人が喜ぶみたいで依頼されたわ」
「そうだったのか。そのお陰で俺達は楽できたな」
「フフ、お互い様よ。私も後半分もなんてやってられなかったわ」
「しかし羊竜を使役しているとは、噂以上の実力者だな」
「あら、貴方達もドラゴンと契約しているじゃない。同じことよ」
「それもそうだな」
有名なSランク召喚士と言えどもパーティを組んでこないとは余程の実力者であるように見える。
彼女が一人で渓谷に来ていた事に驚いたが更に驚いたのはその見た目であり噂を聞いたときはもっと歳上だと思っていたが、20に届くかどうか、いってても21、2歳くらいの見た目をしている。もちろんエルフではなく人間である。
それに背徳と云う称号、何故その様な言葉があてられたのかが不信感を募らせる。
悪いとは思いながら少し警戒しアーシェと共に街を目指した。
それから2日後の昼前、何事もなく目的としていた街へと着いた俺達はギルドへと向かい、アーシェは報酬を受け取って俺は廃村の情報を伝えた。
アーシェからは報酬の半分を渡すと言っていたが断った。
名前に反して良い子のようだ。俺が単なる警戒し過ぎただけなのか。
新たな情報を手に入れ、ギルドを後にする。
「暇ならお食事でもどう?奢るわよ」
アーシェからお誘いがかかり、俺達三人はオススメだという店に案内され昼食を取りながら、アーシェが語り始めた。
背徳の称号は過去に犯した罪への罰として自らが推した名だそうだ。
当時からアーシェには召喚士としての才能があり、それに目を付けた悪魔がアーシェを取り込み、数々の人を苦しめたとか。
しかし、苦悩の日々が続いていたと。
その時に羊竜と出合い、苦悩するアーシェに優しく語りかけ心を洗い流してくれて更にはアーシェに囁き続ける悪魔を葬りさってくれた。
デポルラポルはその時の名残で、双子の下級悪魔だったそうだ。
悪魔を葬りさった後、双子にどうするか聞いたら着いて行きたいと力になりたいと言われ、現在でも共に行動し信頼できる仲間だと。
更に後二体契約している召喚獣が居ると聞かされたときには驚き、何と契約してるんだと尋ねたが機会があれば見せると言われてしまった。
この話を聞き、アーシェという人物を知らずに疑いの目を向けていた俺は恥ずかしくなってしまった。
実際のアーシェは素直で優しい子だったのに。
「だからね、私には仲間と呼べるのはこの子達だけなの。他の人と一緒に冒険したのは1度もないわ」
「そうだったのか」
「…ねぇ、アーシェが良かったら私たちと一緒に冒険しない?ね、いいよねサキ?」
「もちろん!俺も大歓迎だ」
少し悩んだアーシェは。
「ごめんなさい…凄い嬉しいんだけど、今はまだ…」
「やっぱ急には無理だよね」
「でもね、次会ったときはまた誘ってほしいわ!その時まで必ず自分のやることを終わらせとくわ!」
「もちろん!約束だからね」
食事を終えた後、アーシェは用があるから先を急ぐらしく、また会う約束をしアーシェと別れ宿へ向かった。
「良い子だよね」
「ああ」
「あんな辛いことがあったなんてね」
「ああ」
「…ねぇ」
「ああ」
「泣いてるの?」
「ああ…!って泣いてねーよ!」
「嘘だぁ。目赤くなってるよ」
「見るんじゃねーよ」
一夜を明かしたアイの目に宿屋の窓から太陽が射し込む。
「まぶしい…あっ!寝過ぎた」
隣に目をやると布団にくるまって目覚める気配がないサキがいる。
「サキ!もう出る時間過ぎてるよ!」
バシバシと頭ら辺を叩いて無理くり起こす。
「疲れてたんだろうな」
「全くだね。準備出来たよ」
「良し、行くか」
俺達は準備を整え部屋を出て受付に行くと。
「サキ様、アーシェ様からお預かりした物が御座います」
「?なんだこれ?なんか言ってました?」
「此方を渡してくれと頼まれただけでして」
「そうでしたか。有難う御座います」
受付から小さな木箱を受け取りその中身を見てみると、[次の所で役立つはずよ]と書かれた紙と見たこともないコの字の鍵らしきものが入っていた。
「鍵?」
「鍵だよな?」
「次の場所って…古代遺跡ってこと?」
「うーん、じゃあこれは太古の鍵ってことか」
「だとしたら凄くない?これがないと入れない所もあるってことでしょ?なんかワクワクしてきた」
「そうだな。じゃあ目指すとしますか」
俺達は街を後にし、当初の目的地であるクインテットへ進むのだが、その途中の森の奥深くに古代遺跡がある。
どうやらそこが最近キナ臭いらしいとギルドから聞いたのだのだが、その入口は飛んで行かないと入れないみたいで、滅多に人が訪れないと言っていた。
それにこの鍵、とんでもない物が眠っているのかもしれないと期待値は最高潮になり、テンションが上がってしまった。
「何か見つけるまで帰れんな!」
「そのつもりよ!お宝は見つけたもん勝ちね」
「冒険者らしいことしてるな」
「冒険者だもん!冒険しないと」
「確かにな。だがキナ臭いと言うことは忘れるなよ」
「りょーかい」
街から3日歩いた先に広大な森が広がっていた。
道を反れ、地図を頼りに道なき道を進んで行く。