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15話 煉獄騎士

 


 真っ直ぐと斜めに作られた街道、結局は同じ場所に繋がっているのだが、真っ直ぐ行けば近い。

 しかしその道は廃村を抜けなければならない道だった。


「いくら近道とはいっても、出るんでしょ?ゴースト…」

「怖いのか?」

「怖いに決まってるじゃん!ダンジョンで何度酷い目にあったか!」


 火竜との戦闘の後、更に2日経ち俺達は目指している街へ少しでも早く着きたいと、分かれ道を真っ直ぐ進むことにした。

 日が傾き始めたころ廃村についた俺達。


「この村って…」

「ああ。悪魔によってだろうな」

「ほんと最悪な連中よね」

「確かにな」


 この村の家々は明らかに年数による崩壊ではないと判る壊れ方をしていた。

 数件ポツポツと健在な家がある程度で今晩は比較的まともな家を借りることにした。


「なにソワソワしてんだ。アンデットなんてダンジョンでしか見ないだろ。噂だよ」

「そんなの分かんないじゃん!」

「いいから早く寝ろよ。起きてると変な物見るぞ」

「最低!もう知らない!」


 ふてくされたアイは頭まで寝床に潜った。


 夜中、何かの気配に目を覚ます。


「アイ、起きろ。何かいるぞ」

「だから言ったじゃん!ほんと最悪!」


 俺達は割れた窓から外を見ると、ボーンサージェントと呼ばれる骨の魔物が無数、月に照らされ映し出された。


「アイ、あの家に火を付けてくれ。暗過ぎる」

「はいはいはいはい!フレイザ!」


 炎が燃え上がり、周囲が明るくなったことによりさっきは確認出来なかったボーンサージェントも明るみになった。


 奴等は徐々に俺達の元へ集まってきており、多分裏手も囲まれているのだろう。

 ならば俺達は先手必勝と無数に湧いた骨共に斬りかかる。

 一体一体は非力で、その手にした武器も此方の剣に当たるとすぐに朽ちるのだが数が多く多勢に無勢とはこのことだろう。

 それでも何十ものボーンサージェントを駆逐する。


「ほんとうに数だけは多いんだから!」

「ほんとだな。まだまだ来るぞ」


 二時間ほど骨共を捌いていたが、そろそろ体力がヤバい…アイも限界に近い。


「もういい加減にっ!」

「いつまで来やがる!」

「だから嫌だったのよ!」「!?アイ!右だ!」

「え?あっ!しまっ」


 アイにボーンサージェントが錆びた斧を振りかざし、まさに叩きつけようとしたその時。


『騒がしい』


 黒い影がそれを突き飛ばし、アイは事なきを得た。

 突如として現れた黒い影は凄まじいスピードでボーンサージェントを無双しつくし、やがて終わりが見えてきた。


「これで終われよ!」


 最後の一体を斬り伏せる。

 黒い影の助けによりあっという間に片付き、お礼を言おうと近付くとその姿がハッキリと見えた。

 1本のクレイモアを持ち、全身に真っ黒い鎧と兜に外套を羽織った騎士、人に見えるが鎧の隙間からは黒い瘴気が漏れていた。


「助かった。お前、人ではないのか?」

『我は静粛たる夢を見る為、邪魔な者を斬っただけ』

『貴様等も叱り』


 そう続け、剣の先を向けてきた。

 アイが何かを思い出したように言ってくる。


「ナイトメア、貴方ナイトメアね? 」

「初めて見た。お前が悪夢とやらなのか?」

『如何にも。そう我等は呼ばれている。さて、そろそろ夢を見たい。貴様等も眠るがいい』


 そしてヤツの剣が振るわれた。

  ナイトメアが斬りかかって来るのを俺も剣を構え応戦したが間に合わない。


「クッ!速すぎる」


 結構離れていたのにも関わらず、構えるより早く俺の肩を剣が掠めていった。

 すぐさま振り向いたがヤツの姿はなく、横から金属音が聞こえた。

 ナイトメアはアイに斬りかかっていたが、その速さを見ていたアイは防御に徹底することでその一撃を防いだのだ。


「速いけど一撃は軽いわ」


 確かに軽いのだが速さが追い付かなければやられる一方である。


 ナイトメアの速さに追い付かず、所々を斬られてしまうがギリギリの所で回避あるいは弾き返せるようになってきた。

 アイの守りが貫けないと判ると俺のみへと標的を変更した。

 下手にアイに動いて貰うわけには行かないのが現状、更に言うなれば防戦一方だ。


「アイ!少し引き付けてくれ。アイツを喚ぶ」

「りょーかい!早くしてね」

「頼むぞ。アゲート!」


 俺は一旦戦線を離脱し、ナイトメアは俺が消えたことにより標的をアイへと変える。

 家の屋根へと転移した俺は召喚獣を喚ぶため、口上を唱えた。


『煉獄に鳴り響かすは夢幻の歌、永久に眠る魂を呼び覚ませ!目覚めよ、煉獄騎士 ジャンヌ!』


 ナイトメアがアイに斬りかかろうとしたその間に魔法陣が現れ、ナイトメアが足を止める。

 そこから現れたのは黒く輝く鎧を身に纏い両手剣を持った女の騎士。その召喚獣はアイの方に目を向けると舌打ちし、タメ息をついた。


「あらアイさん。まだ生きてたのですか?」

「相変わらず酷い言いようね、ジャンヌ。でも今はあの敵を倒してからにして」

「貴女の命令は聞きません。マスターはどこ?」


 とキョロキョロしている召喚獣ジャンヌにナイトメアが斬りかかるが、その刃はジャンヌの剣により止められた。


『ぬ?我を止めるとは貴様何奴?』

「貴方みたいな魔物に名乗っても仕方ないっでしょっ!」


 と言いきる前にツバ迫り合いをしていたのを薙ぎ払った。

 後退りするナイトメアに追い討ちをかける為、ジャンヌは前へ踏み込み横払いをし、それを防いだナイトメアは瓦礫の中へと飛ばされた。



「ジャンヌ!俺では手が負えない。お前に任すぞ」

「マスターァ!私に何もかも全てお任せて戴きたいです!常に側に置いて下さい!こんな女より役に立つはずです!これからは1日中一緒に居させて貰えるだけで何も望みません!マスターは私がお守り「いいから早く行け」

「御意!」


 俺はアイの元へと飛び降りた。


「強いのは分かってるわよ。でも性格がどうしても…」

「…俺もだ。我慢してくれ」


 二人でタメ息を付きながらぼやいた。

 瓦礫の中から起き上がったナイトメアにジャンヌの一太刀が再び向かっていく。

 瓦礫の山は消し飛び、そこに残ったのは二人の騎士だった。

 ナイトメアさえも凌駕する速度で周りに砂埃を巻き上げながら全ての方向から剣筋を立て、ナイトメアは防ぐのでいっぱいになっているのだろう、反撃に出てこないでいる。

 見ている者の目には攻めるジャンヌに守るナイトメアもその剣は幻影のように捉えることが出来ない。


『華奢な身体で我を超える速度とは』

「貴方が遅いんじゃないの?」

『愚弄されても仕方なし』


 ナイトメアは剣を弾くと、1度下がりジャンヌの横を走り去ろうとした。背後を取る気だったのだろうがジャンヌの横に来た瞬間、半回転したジャンヌに斬り飛ばされる。

 ナイトメアもとっさであったが辛うじて防ぐことが出来たのだが、衝撃が大きく凄まじい速度で弾かれた。

 奴を遠くへ押しやったジャンヌは脚力でサキの所まで一っ飛びしてきた。目をキラキラさせながら。


「マスター!やりましたよ!ちゃんと見ていましたか!」

「ああ、偉いぞ。良くやったな」

「あぁぁ、そのお言葉、身に染みます!」

「とどめはいいのか?」

「あんな輩、いつでも刺せます。ん?この傷はどうしたんですか?」

「これか?ナイトメアの速度に付いて行けなくてな」

「アイツですか!?アイツが。アイツがマスターを傷ものに。アイツガァー!」


 そう叫び飛ばしたナイトメアに向かっていってしまった。

 起き上がるナイトメアの眼に映ったのは鬼の形相のジャンヌが跳んでくる瞬間だった。

 ジャンヌの一太刀がナイトメアの防ごうとした剣を砕き、その鎧へと突き刺さり、剣を身体から抜こうと後ろへ下がるナイトメアだったが、すでにその背後にはジャンヌが居る。

 背中合わせで立っていたジャンヌが一振りすると、剣に付いていた液体を吹き飛ばす。


 ナイトメアの身体は無惨にも斬り刻まれ、頭部のみが原型を残す様となっていた。


『ようやく深き眠りに「うるさいですね!!」


 喋りだしたナイトメアの頭部を一突きして完全に消沈させる。


「あの子の前でサキをバカにしたら殺されるかな?」

「間違いなくな」

「早く解除してね」

「ああ」


 マスターと叫び駆け寄ってくるジャンヌに一言礼を言い、駆け寄られる前に解除した。


「すまんなジャンヌ、ご苦労様」

「マスター酷いですー私がど…


 と消えていった。

 ジャンヌは一癖も二癖もあるので中々喚び出すには勇気の決断が必要だ。


 辺りは静寂に包まれ、俺達は朝日と共に出発しようとそれまでは休むことにした。






  [悪夢]

 ナイトメア。見た者により姿が変わると伝えられる。その力は単体で竜種を相手取ることが出来るようで、人間が出会ってしまえば抗うことなくしてにして地に伏せられてしまう。



  [煉獄騎士ジャンヌ]

 魔法は一切使わず己の肉体と剣のみで敵を翻弄し、斬り伏せる。

 攻めのみではなく守りも固く、俊敏力も高い。

 魔法が使えないためなのか役に立たないと前の召喚士に契約を破棄され、地上をさ迷っているところをサキに拾われた。仔犬の如し構ってちゃんは正直困惑している。

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