14話 火竜
俺は銃がなくなっていることに気付きアイに聞いてみたが知らないと答えられた。
どうやら戦いの最中落としたみたいでホルダーだけが残っていた。
「いくらしたと思ってんの!?なんで無くすかな!」
そして怒られた。
あれはこの国じゃ手に入らないだろうと諦め、アイはアイで盾にヒビが入り限界だと言っているので新たな盾を買うべく俺達は武器屋に来ていた。
ここでは珍しくもない普通の盾しか置いていない。
「もっと強度のあるやつないの?」
「うちはこれしか扱ってないんだよ。すまないねぇ」
「他に盾売ってる店ない?」
「大通りから入ったところに1件あるよ。あの肉屋の先を曲がったとこだ」
「あっちね、ありがとう」
二軒の武器屋がある方は被害がほとんどなく通常に営業してたが、二軒目表通りとは違って随分薄汚れた所だった。
「いらっしゃい。若いオナゴが珍しいな」
「盾を探してるんだけどいいのない?」
「盾か。大きさはどのくらいだ?」
「私くらいの大きさを「あーないない。そんな大きいのなんてもっとデカイ街へ行きな」
そこへ話を聞いていた老人が歩み寄る。
「お前さん方、盾を探しているのか?」
「はい。私の身長と同じくらいの盾を探しているんだけど」
「ならワシの家においで。古いもんだが見てみるといい。なぁに、すぐそこだ」
老人に誘われるがまま彼の家を訪れた。
「ちょっとまってな」
…
「ほれ、これだ。年代物だがこの街に売っている盾よりは良い物だ」
そう言って老人が持ってきたひし形の大きな盾は古そうに見えるがよく手入れがされて傷は有るものの錆は一つもない。
裏面の中央には青い石がはめ込まれていたおり、若き頃国王軍の騎士に属していたときのものだそうだ。
「サキ!凄く良い盾よ」
「これはスゴいな」
「あのお爺さん。この石はなんですか?」
「そこに魔力を溜めておけるんだよ。余裕があるときに溜めておけば戦闘で魔力を使い果たしたときでもこの石から魔力を貰えばいいだけだ。どうだ?便利だろ?その盾はお前さんにやろう」
「え?でもこれはお爺さんの大切なものなんじゃ?」
「なに。街を守ってくれた英雄にケチケチなどせんよ」
歯痒くなり、照れてしまったアイ。
お礼を言うと今度は。
「お前さんにはこれをやろう。何十年も前のだが使えるだろう」
取り出したのは随分と古い形をした銃であり、俺が使っていたのよりも少し大型で2発の弾薬を直接砲身の後ろに込めるタイプの二連銃だった。
「それも当時護身用として貰ったものだ。遠慮せず持ってくといい」
「お爺さんの故郷ってこの国じゃありませんね?」
「その黒髪、多分お前さん方と一緒だ。ワシもこーなる前は黒々とした毛が生えていたからな」
「やはりそうでしたか。大先輩からの贈り物として頂戴致します!有難う御座いました」
「ハハハッ!こちらこそ街を守ってくれてありがとうな」
こうして思わぬ収穫があった俺達は復旧作業を行っているエルフ二人の元へ行き、日が暮れるまで瓦礫を片付けた。
本来の目的地であったクインテットに行くにはこの先の街を経由した方が早いと聞いた。
出発予定は明日、エルフ達二人はこの街へ残るそうだ。
~翌朝~
「元気でね、また逢える日を楽しみにしてるね」
「うん、ハイレーンも元気でね」
ハイレーンとヒールラント、ミィに街の人々と別れを告げ、次の街へと旅立った。
「どうした?感傷に浸ってるのか?」
「ちょっとだけね。また二人旅かぁ、と思ってさ」
「嫌なのかよ」
「一人でサキのおもりが大変なだけ」
「お互い様だな」
悪口を言い合い進んで行くと、辺りの緑が段々と白くなっていく。
「雪だ。今年は始めて見るな」
「寒いわけよね」
薄く道に積もった雪の上を歩いていると、その雪が無くなってあちらこちらに水溜まりが出来ていた。
「なんでこの辺雪がないの?」
「急になくなったな。気温が高いのか?」
「ねぇ!あそこ燃えてる!」
アイの指差す方向に火柱が上がっていた。
「なんだあれ?行ってみるぞ!」
「うん!早くしなさい。サキオジサン」
「まだまだ若いもんには負けんよ」
火柱が上がった所へ近付くと、魔獣を貪っていた大きな影が。
「火竜だ」
街から出て半日、さほど遠くない距離に竜がいるなんて珍しく、しかも火竜は好戦的で人間も魔物も分別なく襲う中級種の竜だ。
「ファイアドラゴン!?」
「あれはマズイだろ!ヤツは人間も襲うぞ。ほっとくと街へ行ってしまうかもしれん」
アイは新たに手に入れた盾を構え、剣を取り出し先行する。
「まだ万全じゃないんでしょ?先に行くよ」
「そんな先走るなよ」
俺達に気付いた火竜が咆哮を上げる。
「グォォォッ!!」
近付くアイに向かい炎のブレスを吐き付けるも、そのブレスは盾に阻まれアイにはダメージもすす汚れもない。
「この盾スゴいよ。物凄く性能が良い!うん!スゴい!」
語彙力…
ブレスを吐き終わった火竜にアイが水魔法[ウォーターハザード]を唱えて滝のような勢いでぶつけ、水圧により後方へ吹っ飛んでいく火竜に対して2射目は雷魔法の矢[ボルテイル]を射ち、火竜を追い詰める。
「濡れた体には効くでしょう!」
「やるな」
それでも倒れない火竜、距離が開いた俺達に低空飛行で距離を詰め、大きく口を開け放ち火を吹く動作を開始した。
俺はアイが交戦している最中に喚び出したシュヴェーラをその口の中目掛けて放り込むと、幾本も刺さった口を反射的に閉めた火竜は口の中で爆発が起こった。
「あの剣って爆発したっけ!?」
「違うだろ。ブレスを吐き出す直前だったからだろ」
そのまま力尽きた火竜は倒れたが、安心は出来ないので首を斬り落とし一段落する。
「でもなんでこんな所にファイアドラゴンがいるんだろうね 」
「普段は山の火口付近を根城にしているんだがな」
「でも消えないってことは召喚獣じゃないんでしょ?」
「ああ。悪魔と契約しているヤツ等も倒されると消えてたから違うだろうな」
食いぶちを求めて来たのか、他の何かの影響か定かではないが俺達は前へ進むことにした。
[火竜]
ファイアドラゴンと呼ばれる中級種。
4メーター程の身体に朱色の鱗をもつ。竜の中でも好戦的で、特に縄張りに入った者は容赦なく襲う。
魔法は使わないが、ブレスによる炎攻撃は強力。たまにエサとなる魔獣の肉すら灰にしてしまい、食事にありつけないこともあるそうだ。