13話 悪魔将
邪竜神は竜達に釣られて飛び上がっていき、その勢いで猛烈な暴風が吹くもアイがそれを防いでくれた。
俺は俺の役割を果たす為、アイの横を抜け悪魔へと走り寄っていく。
『顕現せよ!シュヴェーラ!』
2本の片手剣を手にして残りは宙を舞わして悪魔へと放った。
悪魔は4本の腕を背中から前へと出し、前で腕を組んでいた2本と4本それぞれに異形の剣を握らせた。
『面白い戦い方をしますね』
そう言って飛ばした6本の剣を弾き返した。
「まだあるぞ」
俺は両手に握った剣を突き出したものの、そのモーションも止められてしまう。
『それも止めましたよ?』
悪魔は余裕だと言わんばかりに煽ってきた。
「それなら」
と、弾かれた剣6本を再び突き立てる。
『それしきの攻撃ではワタクシに届きませんよ』
此方は8本、悪魔は6本だがその全てを見切られてしまう。
「だとしても!」
俺は舞わせている6本に腕が付いているかの如く振るい回し、悪魔はそれぞれの腕で受け止めていたが、握られた2本の片手剣に対処出来まいと力の限り薙ぎ払った。
「貰ったぁ!」渾身の力で振るった剣、それはガキンッと硬いものに触れた音と、手に伝わる衝撃で通らなかった事を理解してしまう。
『スミマセンね。ワタクシの翼は鋼より硬いので』
「クッ!」
またしても全て受け止められてしまったが、それでも押し通す。そのまま次々と攻撃を繰り出し、悪魔はそれを防ぐ。押しているように見えるが悪魔の口許は緩んでいる…奴は面白がっているのだ。
「腹立たしいな」
『おや、なんの話ですか?』
「笑いを堪えているだろ」
『バレてしまいましたか。こんな楽しいことなど久々でつい』
「チッ!」
防ぐと同時に攻守を入れ換えてきた悪魔の剣が右腕を掠める。
一瞬怯んだ俺に次々と剣を立ててくる。
『もう終わりですか?なら勝利をもらいましょうか』
踏み込んできた悪魔は片側3本の腕が大振りになった。その反対側から背後に隠して舞わせていた盾を叩きつけた。
『なっ!』
よろけて突き出た悪魔の腕を斬り落とした。
「残りは4本か」
『あ、あな、貴様!よくもワタクシの腕を!』
「4本も残っているだろ」
『人間風情が調子に乗るな!!』
片側1本と反対側3本に鋼の翼。
(まずはこれらを斬り落とす!)
狙いをつけたのは片側の残り1本の腕。
反対側は此方の剣を捌くので精一杯のようなので、ここぞとばかりに踏み込んで残りの腕へ斬り立てたが、悪魔は口から黒い弾を放って俺を吹き飛ばす。
咄嗟に出た片腕で弾を防いだものの、ダイレクトに当たり腕が折れた感覚を感じる。
「クソがっ!」
『いやーすまないねぇ。ワタクシこれでも悪魔なもので』
「見た目からして既に悪魔だろ」
もう一撃飛んで来るも、2発目は盾が間に合い事なきを得た。
『しぶとい。しぶといしぶといしぶといしぶとい!!さっさと死になさい!ワタクシに勝利を味あわせなさい!!』
「断る!」
折れた腕から剣を離し他の剣と共に舞わす。
キレた悪魔はがむしゃらに剣を振るい力押しでくるのを受けきるが、再び黒い弾を放ってくる。1歩下がり、握っている剣を振り上げ弾き上げた。
その隙を突いて悪魔は俺の腹へと一振りしてくるが盾で防ぎ、動きを止めた悪魔の肩へ長剣を飛ばし貫いた。
『ガァッ!どこまでも忌々しい人間め!』
貫いた長剣が抜けない。俺が干渉出来ないようにされてしまったのだ。
だが他の剣は自由に動く。その1本だけが動かなくなってしまった。
『不思議という顔をしてますね!ワタクシに勝利するまでこの剣は返しませんよ!』
肩に刺さったままの長剣をそのままにし、剣を振るってくる。
しかし明らかに動きが鈍っている。今なら斬り落とせると思い、悪魔の攻撃を弾き返し、上がりきった腕を3本目掛け振りあげた。
『グアァッ!』
俺も腕が振り上がった体勢になっている時、腹から痛みが込み上げてくるのを感じた。
『隙ありです』
残りの1本に腹を貫かれてしまい、とどめと言わんばかりに黒い弾を放って俺の身体を飛ばすと悪魔は笑いだした。
『腕ならまた生やせばいいのです!ハァーハッハ!ワタクシの勝利は約束されていたんですよ!』
「なら…その約束は破られたな」
『はぁ?何を言っ!!!』
意識が遠のく中、残りの気力で悪魔の背中に5本の剣を突き刺した。
『ガハァッ!』
「油断したな、悪魔め」
『人間に…ワタクシが…』
最後の1本であるバスターソードを上から叩きつけた瞬間、スタミナがなくなったのだろう、全ての剣が消えていって残された悪魔は左右二つに割れて倒れていった。
勝ったのか…三つ首はどうなったんだ…
ぼやけていく視界に映ったのは空から落ちてくる白竜だった。…なんだなにがおきて………そして意識が途絶えた。
…
…
…身体が動かない。
頭が痛い…なんだ?何があったんだっけか?
…
「あっ!悪魔は!?」
と叫びながら起き上がった。
「ビックリしたぁ。もう大丈夫なの?」
「え?」
「傷よ。サキ、刺されてたんだからね」
「そうだ、思い出した。…大丈夫みたいだ」
「良かったぁ。皆心配してたんだよ」
「心配かけたみたいだな、すまんな。それで悪魔と邪竜はどうなった?」
「二体とも倒したよ。ほんとギリギリの戦いだったよ」
俺は無事だった宿の一室に寝ていた。
目を覚ましたのはあの戦いから二日過ぎた夕方、目を覚ますまでアイが付き添ってくれていたみたいだ。
傷を負って瀕死の俺を、回復魔法が使える者が数人集まって行う転生の儀で癒してくれた。転生と言っても、死人を生き返らせられる訳ではなく、瀕死の状態から救うというものだ。
「皆は無事なのか?」
「ええ。あの二人組は街の復旧を手伝ってるよ」
「そうかそうか!良かった。そういえば白竜は?白竜が落ちてくるのが見えたぞ!?」
「あの子も大怪我をおったけど少し手を貸しただけで自力で回復したよ。サキにありがとうって伝えてって言われた」
「そうだったんか。こちらこそありがとうだよ」
「ジルも消えるときマスター、マスターって泣いてたよ」
「悪いことしちゃったな。後で謝っとかないと」
「それじゃもう少し休んでな。食べ物取ってくるから」
食事をしながら色々と聞かされた。
白竜はアイや街人から回復魔法を受け、少し回復したところで自力で治したみたいだ。
その頃には俺も転生の儀が終わっており、瀕死の状態から回復していたのだが白竜によって腕や胸部の骨折を治してくれたらしく、役割を果たした白竜はアイ達に挨拶をしていき幻影竜を引き連れ飛び立っていったそうだ。
悪魔が倒れた所には水溜まりが二つ出来ていたので、死を確定できたみたいだが新たに判ったことは何もなかった。
「しかし俺も爺ちゃん竜の勇姿見たかったなぁ」
「かっこ良かったよ!あれこそまさにサンダードラゴンって感じ!」
「私達の勇姿も見て欲しかったな」
「そうだぞサキ君!かなり苦戦したが最後には倒したからな」
「ニァー!」
「そうね!聞かせてあげましょう!!私達の勇姿を!!」
「フニャァー!!」
エルフのコンビとミィも交え、病み上がりの俺を寝かす事なく朝まで語られ続けた。
[ネツァク]
勝利を司るデビルロード。
6本の腕を持つ剣士。その剣術の実力は確かであり華麗であるが、戦いの最中、綺麗な勝利を飾る為相手に実力を合わせてしまうこともしばしば。
翼は鋼より硬く、盾として活用できる。
アンピプテラと契約している。