11話 蛇神竜
光りの中から現れたのは漆黒の鱗、蛇の様に長い身体に翼を持った上級竜種が五体。
「アンピプテラ…」
「神話の竜でしょ!?なんでいるのよ!」
東方竜とも西竜とも違って手足は無く、蛇に翼を生やした姿であるアンピプテラは神話に登場する神に背き、最後には追放されたと伝えられている。
「こんな化け物を五体も喚べるとは…」
戦う前から力の差は歴然であると思い知らされる。
「サキが弱気になってどうするの!?やるんでしょ!?」
「サキ、アイ。私もやるわ」
ハイレーンは瀕死のヒールラントに回復魔法を掛け始める。どうやら上級回復魔法も得ているようで、みるみる傷口が塞がっていく。
「ハイレーンよ、助かった」
「ヒールラントだな。力を貸してもらうぞ」
「逃げないと言うならば力の限り協力させてもらう」
「ヒールラント、エリーはどうしたの?」
「やられた…」
「エリーってウォードックのことか?」
「ああ。俺はアイツの仇を討ちたい!」
「良い覚悟だ、ならば行くぞ!」
俺はアイテムボックスから雷竜達から貰った珠を取り出して放り投げると、珠から黄色と黒の煙が発せられ二体の竜が現れる。
『早き喚び出しだなイカヅチの』『逆に待ちかねたぞコクウンの』
「あれに対抗出来るか?」
『容易い。のぉイカヅチの』『この勇姿を目に刻むがいい』
頼もしい限りだ、俺とアイは顔を合わせ互いに頷き召喚口上を唱えた。
『降臨せよ!銀竜 ジルコート!』
『おいで!黒竜 ノワルヴァーデ!』
これで四人と四体の竜、そして白虎だがこれで万全とは言えない。
俺はもう一体の召喚獣を喚び出そうとしたとき、闇に染まった空から真っ白な翼を羽ばたかせ俺達の前へと出る一体の竜が降臨した。
『「白」』
「今回だけ、力を貸します」
「ありがたい!」
これで五体の邪竜に五体の竜をぶつけられる。
勝機が見えてきた俺達は、奴等の進行を食い止めるべく剣を振るう。
黒竜にはアイ、雷竜にはハイレーン、雲竜にはヒールラント、白竜には白虎、銀竜には俺がサポートに回る。
戦闘の際に生じる被害を抑えるべくジルコートの[シャインフィールド]で辺り一体を光りで包みこみ、白竜の防御魔法により俺達全員の身体に光りの壁が出来た。
雲竜と雷竜は我先にと蛇神竜に向かって行きそれぞれ魔法を射ち放い、それに続くようにエルフ二人も魔法を射ち二体の蛇神竜を牽制している。
白竜は魔法で全身を強化して得意ではない白兵戦へと持ち込むようだ。
近接戦闘向きではない白竜より更に苦手な蛇神竜に対して尾で薙ぎ払い漆黒の鱗に牙を立て、0距離からブレスを浴びせている。
それでも耐えられる耐久力を持っているようで、お返しとばかり氷の矢が白竜を襲うが光りの壁に阻まれ砕け散る。
逆に白竜からの光魔法を受けた蛇神竜がついに落ち、そこへ白虎が雷を纏った体当たりを繰り出し遠吠えと共に上空から雷をぶつけた。
「キィャーーーーーーーー」その叫びを間近で聴いてしまった白虎がその場に倒れこんだ。
死衣の叫び…最後に道連れをしようとしたのだ。
倒れた白虎の元へ白竜が舞い降り、白虎が白い光りに包まれると何事もなかったかのように起き上がった。
[ディレンション]、回復系の最上位魔法、人間には到底使うことが出来ない蘇生魔法だ。
損傷が激しい、または身体を維持する血が足りない、死んでから時間が経っていると蘇生は出来ないが先のような状態なら後遺症を残さずに蘇生出来てしまう。
白虎は自分の身に起こったことが理解出来ずに戸惑っているようだが。
蛇神竜は叫び終ると赤い粒子となって消えて行き、早々に勝敗が決した二体はそれぞれ他の者へと可戦する。
一方でアイとノワルヴァーデは苦戦していた。
闇魔法を得意とするノワルヴァーデに対し、蛇神竜も闇を基本としている為である為攻撃が効き辛いのだ。
魔法、ブレスによる攻撃を最低限にあまり得意としない接近戦を仕掛けているのだが、それは向こうも同じでアイとノワルヴァーデには白竜の防御魔法が掛けられているので魔法がその壁に阻まれ互いに苦戦を強いられた状況となっている。
アイは多種多様な魔法を繰り出し、そして蛇神竜も同じ様に多種多様な魔法を射ってくる。
魔力の違いにより、アイの魔法はどれも蛇神竜に大きなダメージを与えられず魔力も後数発で切れるだろう。
しかし、アイの魔法で隙が生まれたのを見逃さなかったノワルヴァーデが蛇神竜の翼を牙で捕らえ、振り回すが蛇神竜もノワルヴァーデの肩に噛み付いて反撃に出てくる。
白竜の防御魔法は魔法耐性が強い分、物理による攻撃は無効としない。
その二竜はバランスを崩して家々へと落ち、先に家から飛び出したのは蛇神竜のほうだった。
「ノワ!!」
『蛇の咆哮は道連れを誘うから気を付けて』
白竜から念話が聞こえて身構えるアイに向かってくる蛇神竜。
まだノワルヴァーデは出てこない…が白竜が蛇神竜に飛び掛かり突き飛ばした。
「あ、ありがとう。ホワイトドラゴン」
「気を付けて。その防御壁は接近されたら意味ないですから」
ノワルヴァーデも崩れた家から飛び上がる、どうやら無事なようだ。
『白。ありがとう』
『大丈夫そうですね。黒』
二竜は視線を突き飛ばした蛇神竜へ向けて混合したブレスを放ち、力添えとばかりにアイも炎の渦を放って黒焦げとなった蛇神竜は力尽き消えて行き、白竜の援護によって助けられ決着が着いたアイは剣を下ろし深く息を吐き出した。
此方は殆どジル任せ、ジルコートの魔法による攻撃は蛇神竜を追い詰めるが、蛇神竜も連続魔法を放ってジルコートに魔法を射たす時間を与えないつもりのようだ。
俺はジルの援護に徹し、ハンドガンで実弾を射ち出して鱗を貫いてはいるものの効いてる様子がない。
「やはり眼を狙うしかないがどうしたものか…ジル!叩き落とせ!!」
ジルコートが蛇神竜にのし掛かり地面へと叩きつけた。
蛇神竜が土煙から顔を出した瞬間、その眼に弾をありったけくれてやったが上に乗っているジルコートを跳ね退け飛翔してしまう。
「致命傷にもならねーのか!?」
弾はもうなく、後は魔力弾で応戦するだけだが悪魔が残っていると思うと中々魔力を使う考えには至らない。
そうこうしていると白竜から道連れに気を付けろと念話が届く。
どうやら一体を沈黙させたようで二体目も白竜、黒竜、アイによりその後すぐに倒された。
「やるな。アイ!さすがだ!」
「白竜とノワのお陰よ!」
そう叫び合った俺達。
雷竜雲竜とエルフ二人もそろそろ片付くだろう、此方もジルが畳み掛けており決着も時間の問題だ。
と考えていると、突如三体の蛇神竜が天高く舞い上がり闇夜に消えた。
『ワタクシの可愛いアンピプテラ達を相手取り、ましてや勝るほどの実力とは恐れ入ります。ですが余興は終わりにしましょう。アンピプテラの真の力をお見せします』
薄暗い街の大通りから悪魔がそう言いながら歩み寄ってくる。
「やはりお前達悪魔が元凶か!!」
歩みを止めた悪魔が空を見上げる。
『ええ。もう十分な力を得ることが出来ました。仕上げにこの街を頂こうかと思いましたが、このような邪魔が入るとは』
此方を向き直し、話を続けた。
『これで終わらせましょう。ワタクシは世界に出るのです』
空が赤い光りに満ちて三体の蛇神竜の影が映し出され、その三体は絡み合い一つの何かへと姿を変え地上に降り立った。
『どうですか?驚いたでしょう。これこそが真の力、真の名。ワタクシのアジ・ダハーカ』
「バカな!三体を融合させたとでも言うのか!?」
俺達の前に降り立ったのは三つ首を持った黒紫の巨竜だった。
[蛇神竜]
アンピプテラ。蛇に翼を生やした姿をしている。上級種に位置し、主な攻撃方法は豊富な魔力による多彩な魔法攻撃。
現代では神話でのみ語られている。
[邪竜神]
アジ・ダハーカ。
?級。三つ首に4枚の翼、その巨体を支える太い脚、どんなものでも切り裂ける爪とそれを振るえる腕を持つ。尾の一振りで街は薙ぎ払われ、羽ばたいた衝撃で全てを吹き飛ばす。