10話 渓谷
「エルフって肉大丈夫なんだ」
「え?普通に食べるよ」
「なんか意外ね」
「ミィも肉食だしね」
「それとこれは違くない?」
昼食を取ろうとハイレーンに何が良いか聞いた所「肉が良い」との事、エルフは野菜オンリーのイメージがあったので、肉を食べるなんて意外だと思ったが普通に肉も食べるらしい。
一休憩した後、さらに順調に草原を進んでいくと右正面にサイクロプスが歩いているのが見える。
「またサイクロプスがいる」
「アイツ等は放っておけばいいさ。此方から仕掛けなければ何もしてこない」
「でもハイレーン襲われてたよね」
「あの時はミィが魔物に怯えて逃げ出したのがサイクロプスのいる方向だったの」
「わざわざそっちに逃げなくても」
「無我夢中だったんだと思う」
白虎のミィよ、いつか実力を見せてくれることを切実に願ってるぞ。
「サキ、あの時魔法使ってたよね?」
「転移魔法のことか?」
「それそれ」
「唐突にどうしたんだアイ」
「いやさ、ぶっつけ本番で良く出来たよねって話」
「まぁな。そうだ、ハイレーンさ。転移魔法覚えない?あの戦い方は転移魔法を駆使すれば更に高みを望めるぞ」
「私が?」
「エルフって魔力高いよな?俺だと短い距離を2回しか移動出来ないんだよ」
「んー確かに魔力は多いけど使ったことないよ」
「すぐ馴れるさ」
俺は教わった転移魔法の要である空間認識と集中力の重要性をそっくりそのまま自分の言葉で教えた。
「あたかも自分が「なんだアイ?どうした?気のせいだ」
「まぁいいけど」
コツを教えるとハイレーンはあっという間に転移魔法を獲得してしまった。
「才能だな」
「しかもスゴい連続で使用してる」
「やだこれ!スゴい楽しい!」
「はしゃいでるぞ」
「ねぇ楽しそう」
「アイは覚えないのか?」
「そのうちね。攻撃魔法で手一杯ってのもあるし」
こうして転移魔法を獲得してはしゃいでいたハイレーンは魔力が空になるまで飛び回り頭をふらつかせていた。
「おいおい。無理し過ぎだろ」
「ごめん、気持ち悪い」
「ほら吸収剤だ。エルフにも合うだろう」
「ありがとう」
と、ミィがシャーシャーと唸り始め、向いてるほうに目をやるとバジリスクが走って此方に向かってきていた。
またもや逃げようとしていたミィにハイレーンが遂にキレる。
「いい加減にしなさい!次逃げたら置いてくからね!!」
「ニャ…ニャゥ」
「行きなさい!強化魔法神速の後、0距離でライジングボルト!」
「ニャァー」
ミィが強化魔法でその脚を速めてバジリスクに一直線に向かっていき、目の前で雷魔法が炸裂した。
「コォーー!!」
まだ生きているが吹っ切れたミィは強かった。仕留めきれてないと分かると今度は、全身に電気を纏い突進をかましてバジリスクにトドメを刺した。
「ミィちゃん強いじゃん!」
「普段はあれが普通なんだけどね」
「おい、まだなんか来るぞ」
仲間か?鳴き声を聞いたのか白と黒の何かが走ってくる。
コカトリス…しかも六体いや六羽か、生意気にも小隊を組んできている、風に見える。
「こいつら一夫多妻制か?羨ましい」
「バカなこと行ってないでミィちゃん助けに行くよ!」
ハイレーンはまだクラクラするらしく残ってもらい、アイとミィちゃんの所へ駆けていく。
「アイとミィは右の三羽!行けるな?」
「当然!ねぇミィちゃん」「ニャァ!」
「よし任せた。アゲート!」
俺は転移して拵えで先頭の一羽の首を貫き、その勢いでもう一羽の頭を切り落とすと残った一羽が睨んできている。
「石化か!」
遅かった。眼から出た紫の光弾を弾いたつもりが腕に石化を喰らってしまった。
勢いついた残りの一羽が宙を舞い襲いかかってくる。
「チッ!油断した!」
が、ハンドガンを取り出し魔力弾を打ち出した。1発で後ろへ引き去り、2発目で地面に脚を着き、3発目で転げ、4発目で絶命した。
ミィは雷魔法で片側の一羽を弾き飛ばし、アイは先頭の一羽に盾を構えて叩き返し、よろけたコカトリスに追い打ちで片手剣を振るい、更に盾を使い叩き倒した。
まだ元気な一羽にミィは爪を立て飛び掛り、瀕死の三羽相手にアイは水魔法の槍を浴びせてまとめて倒し終わりを迎えたようだ。
「え?なにサキ、やられたの?」
「ああ、石化を受けたよ」
「うわぁーどうすんのこれ?回復アイテムなんて毒消ししかないよ」
「あ、それなら私が」
そう言ってハイレーンが俺の石化した腕に手をかざし、状態異常回復[リコンディション]を唱えてくれた。
「おお、治った。ありがとう」
「いえいえ」
「コカトリスは石化のスキル使ってくるからね。私の里では皆使えるの」
「そんなコカトリス多いの?」
「え?美味しいじゃない。あの鶏」
「なるほど」
「じゃあ血抜きしましょ」
さっきまでクラクラしてたハイレーンがテンション高めで血抜きしてコカトリスの肉を俺達のアイテムボックスへしまう。
ミィも本調子になったお陰で、更に順調に進むことができ、街の目と鼻の先にまでやってきた。
草原を抜けた俺達はクレバスの街へやってきた。
1本の長い長い大通りの左右に家や商店が建ち並ぶ美しい街だ。
「こんな街並み他じゃ見ないね」
「人の街ってこんなキレイだったんだ」
「いや、ここが特別綺麗ってだけなんだよ」
「だよねぇ、この国じゃ此処だけかもね」
「ハイレーンの仲間は何処にいるか分かんのか?」
「多分宿屋だと思う。ウォードック連れてるから街に居ればすぐ見つかるよ」
「ウォードックか、可愛いよな」
「あのつぶらな瞳にモサモサの毛並みが最高ね」
「アナタ達…」
ウォードックはウルフタイプで人になつっこい魔獣である。
サイズも人間女性並みで何より顔付きが可愛いが戦闘では白兵に長け、近距離魔法も多用する種である。
そのエルフを探して聞いて回っていると、どうやら既に街を出たようだ。
渓谷の方に歩いていくのを見た人も居たので調査に向かったのだろう。
「どうする?私達も向かう?」
「今日は遅いし翌朝にしましょ。それにあの人なら大丈夫」
「なら宿を取るか。そう言えば仲間の名前はなんて言うんだ?」
「ヒールラントよ」
「そうか」
「じゃあ宿を探しましょ」
俺達は薬類や食糧を買い、宿で1泊し明日の朝渓谷に向かうことにした。
夜中、外が騒がしくて目を覚ました。
窓を開けると、何人もが叫んでいる声が響き渡っていた。
「早くこっちへ連れてこい!」「この怪我じゃ長く持たんぞ!」「おい、しっかりしろ!」
一人の男が抱えられていた。しかしその男は。
「私のことはいい!早く逃げるんだ!」
と叫んでいたその男の元に窓から飛び降りたハイレーンが近付いていく。
「あれがヒールラントか?」
ハイレーンが周囲に何かを説明して慌てた様子で散って行った。
男はハイレーンに支えられ何かを話しているようだったので俺もその元へ駆け寄って行く。
声を掛けようと思った次の瞬間、赤い光りが天に放たれ爆発音と共にその巨体が映った。
「はやく…逃げるんだ」
息を絶え絶えにその男が言う。
[コカトリス]
白と黒のデカイ鶏。
オスしかいない。魔法は全く使ってこないが石化のスキルを持っている。
クチバシと爪はバジリスクよりデカく、その攻撃も威力を増している。