100話 金銀
更新遅れて申し訳御座いません。
風が治りましたので今日から更新再開します。もう数話で完結致しますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
あんな者を喚び出して世界でも壊すつもりなのか、その問いは胸の中だけで囁く。なんせ元凶であるケテルも覚醒した悪魔も媒体となり見受けられないからだ。
召喚酔いでもしているのか動きを見せない終焉竜をそっとしておいて、周辺の悪魔狩りをしていたジャンヌと無事だったジルコート、エリュテイアを呼び戻していると。
「サキさん、アイさん。皆さん無事だったんですね」
ビフレストの掌に乗りセシルがやって来た。
「良かったぁー。セシルこそ無事だったんだね」
「私はなんとか。ロイさんは一命は取り留めましたが、動ける状況じゃありませんので後方へ送られました」
「そうか、無事とは言い難そうだが良かった」
「…今はアレをどうにかする事が先決ですね」
「これで轟神竜を喚ぶ」
アイテムボックスから取り出した轟神竜の珠をセシル達に見せると、ビフレストが口を開いた。
『ほう。それならば勝機はある。無我を喚んだのはお主だろ?』
「無我?創初竜の事か?」
『創初か。中々に良き名だな。その創初を喚び出したお主と召喚獣である銀竜に騎士は恩恵を受けているはずだ』
「確かに普段より力が増してる気がします」
「言われてみれば…でも言うほどでもないわよ?」
『それで良い。それが要となろう。さぁ、轟神を解き放つのだ』
俺は頷いて珠を放り投げると、白い雲から雷が起こって珠は砕かれるが次に地響きを上げて落ちた落雷から轟神竜が姿を現す。
『やっとこさ喚んだか。儂は待ちくたびれていたぞ』
「本当なら喚ばずに済みたかったが。アレを任せていいのか?」
『構わん、儂に任せてもらおう。だが骨が折れる故、ソナタ等も手伝って貰おう』
「ジル、エリュ、頼めるか?」
「「もちろん」だ!」
『微力ながら支援させて頂こう』
『賢界王、頼もしい申し出だ。では行こう』
「ジャンヌ、マスター達を頼んだわね」
「御意。ジルさん、無事を祈ります」
頷くジルコートは轟神竜を筆頭に、終焉竜へと飛び立った。
「頼んだぞ」
俺は手にするクリストファーの剣を強く握り締めた。
「ここ最近あんなんばっか相手してるよな」
「仕方ないじゃない赤、正念場だと思って気合い入れないと。それに…」
「それに、なんだ?」
「黒や紫達の仇を討たないと、ね」
「それもそうだな」
『お喋りはそこまでだ』
轟神竜に言われて口をつぐんだジルコートとエリュテイア、四人の前には巨蛇の終焉竜が身体をくねらせて宙を舞っていた。
20メーターの轟神竜に対して終焉竜の全長は600メーター、いや700に近い巨体は離れて見ていても圧倒的な差ではあるが。
『千年ぶりか。終焉よ』
『貴様、またしても我の邪魔をするか。稲妻(轟神)め』
『数万年前も千年前も、今回も懲りずに悪さを働くとは。老いぼれは大人しくしていれば良いものの』
『言っていろ。我とて役割を果たさねばならんのだ。邪魔伊達はさせぬ』
『どうせろくでもない事だろうに』
『それは神が決めることだ』
『来るぞ』
先手を打ったのは終焉竜だった。
吐き出した毒を帯びたブレスは広範囲に拡散して正面に立つモノ全てを飲み込み腐蝕させてゆく。
ジルコート達は前以て轟神竜に攻撃手段を聞いていた為、終焉竜の懐へと駆け寄って各々がブレスを浴びせる。
ビフレストは幻影召喚を行って竜種を作り出し手駒を増やして更に追い討ちを掛けていくも、終焉竜の鱗は強固で轟神竜の魔法すら弾いていた。
「見かけ通り固いのね」
『おかしい…これ程の守りを持っているはずがない』
『魔王に感謝しなくてはな。もう貴様の力では我の身体は貫けんぞ』
「コノヤロー、魔王を取り込んだ時に奴の力も奪ったのか!」
『魔力は防げても斬撃はどうでしょう』
「庭師か!!」
様子を伺っていたズクは、魔法はもちろん魔力の塊であるブレスを弾いてしまう鱗に対して自身の鎌を突き立てると、ほんの少しだが傷を負わすことが出来たのだ。
これを見た轟神竜は具現化させた鎚の形状を槍状に換えて手にし、終焉竜に向けて振りかざした。
『これなら通るな。魔王の力に溺れていると足許をすくわれるぞ』
『こ、小癪な真似を!』
貫いた槍はその巨体故、致命傷にならず轟神竜を振りほどく終焉竜。ジルコートとエリュテイア、喚んだ竜種は爪撃を行い、ビフレストは大剣を呼び寄せ、ズクは鎌で斬りかかって行く。
…ダメージを与え始めてどれ程時間が過ぎただろうか、ズクの鎌は折れ、ビフレストが幻影召喚した竜達は倒されてしまってジルコート達も限界が近付いていた。
「もう、そろそろ倒れても良いんじゃないかしらね」
『この程度、貴様等の方が先に落ちそうではないか。どれ、そろそろ』
終焉竜は接近してきた轟神竜に向けてブレスを浴びせ、防御魔法を展開してブレスを防いだ轟神竜に対して牙を立てて防壁ごと噛み砕き、再び開いた口の中には轟神竜の姿はなく、牙についた血が月明かりに映るだけだった。
「そんな…」
「テメェ!!」
『グァッハッハッ!要の稲妻もこの通り、次は貴様等だ』
「…もうこれ以上は…」
轟神竜もやられ、倒す手立てがなくなったジルコート達は世界の終焉を考えてしまっていると。
『諦めてはなりません』
何処からともなく全員に響き渡った声。
振り返ったジルコートの眼に飛び込んできたのは、黄金に輝く鱗を持つ金竜[アウル]の姿であった。
「アウル!!どうして?」
「金!オメェ、銀と同化したんじゃねーのか?」
「あの時ジルコートに与えたのは私の全ての魔力だけです」
「あー、だから銀から金の魔力を感じるのか」
「エリュテイア、今はそれどころではないはずです。ジルコート、今こそ私の全てを貴女に託します」
「アウル…それじゃあ…」
「もう魔力がない空の身体です。それにこれから先を生きる息子や貴女達の世界を終わらせる訳にはいきませんから」
「…」
「コイツの覚悟無駄にさせるなよ!銀」
「赤……わかったわ…アウル!お願い!」
「良い覚悟です」
『何をするか知らぬが!許すわけないだろう!!』
会話するジルコート達に口を開けて迫ってくる終焉竜、邪魔をさせまいと間に入るビフレストとズクは牙の餌食になってしまうも、終焉竜は止まることなく突き進んでくる。
「私の魂を受け取りなさいジルコート。希望とともに」
「アウル。貰い受けます、貴女の命を」
『やらせぬぞ!』
「邪魔すんじゃねぇー!!蛇擬きが!」
エリュテイアは自ら終焉竜の口の中へ入り燃え盛る岩を咥内へ浴びせ、飲み込まれるまでの数秒間出来うる限り足止めを行い、『後は頼むぜ、銀竜さんよ』と言い残し暗く深い胎内に消えて行く。
ビフレストとズク、エリュテイアのお陰でジルコートとアウルは本当の意味で1つとなって、終焉竜の前に8枚の翼を拡げて立ち塞がった。
『グッ!!銀了竜だと!!?』
「もう貴方に、遅れはとらない!」
白金竜改め銀了竜となったジルコートは10メーターを超える身体を手にし、8枚の翼が織り成す速度域は全竜種を凌駕する。
そのスピードを生かして終焉竜を翻弄して行き、更に鋭く切れ味を増した爪撃で胴体を斬り刻む。
『な、何故だ!何故この我が追い詰められればならん!?稲妻も居ないというのに!!』
「もう終わりにしてほしいわね」
『グッ!調子に乗るな!』
ブレスを吐き出した終焉竜に対して、全面に展開させた防壁で守りを固めてブレスの中を突っ切るジルコート。
『阿呆が!』と叫ぶ終焉竜は轟神竜と同じように噛み砕こうとしたが、その攻撃を逆手に取ったジルコートは、光魔法を目眩ましに使い、怯んだ終焉竜の目前へ上がって爪を振るい眼球を突き刺した。
もがく終焉竜だったが、突き刺さった腕は抜けることなく対には眼球を繰り出し、ポッカリと開いた穴目掛けて最上級光魔法を撃ち込んだ。
悶絶する終焉竜、構うことなく撃ち続けるジルコート…そして。
『これで終わりと思うな……我は何度でも蘇る』
「お断りね」
『…………次こそは…』
次と言い残した終焉竜は地上へ落下して召喚獣同様に粒子となって空へと消えていった。
墜ちた衝撃で城周辺は崩壊したが、ジルコート…いや、皆のお陰で打ち勝つ事が出来たのだから素直に喜ぼう。すまんな、何処に居るか分からん王様。
『あーぁ、敗けちゃってるじゃん笑 私達が美味しい所持ってこうとしたのになぉー』
『…楽出来ると思えばいい』
『それもそうだねぇー、アハハハハ』
[終焉竜]
ヨルムンガンドと呼ばれた神と巨人の間に産まれた巨蛇。
全長666メーターを有し、鱗はケテルを取り込んだ事によって魔法を弾く強化装甲となった。
かつて轟神に二度敗北(一度は相討ち)し、復活の期を探っていた所にケテルが訪れて魂だった終焉竜と、肉体を与える代わりに力を貸して欲しいと言われ契約を交わすことになり、本来なら後数千年掛かる肉体の再生も召喚獣になったことで数百年で済んだらしい。
[銀了竜]
テラニウムドラゴンとも呼ばれる白金より眩い輝きを放つ鱗に8枚の翼を有する最上級種の竜。
10メーターを超す巨体にも関わらず、竜種一の圧倒的なスピードを誇り、攻撃防御に関しても大竜と遜色ないくらい向上している。