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98話 融合竜・創初竜

 


『精霊王まで墜ちたか』

『青、あれ見て』

『分かっておる。蒼よ、全力を尽くさねばなるまい』

「敵機に対し分析を開始します。07単騎での勝率は42%。換装による最適化を行った場合は2割増加。よって敵召喚獣[ミトラ・マズダーラ]は07のみで構いません」

「バルディエル、アレを引き付けるというの?」

「計算上最も効率性が宜しいかと」

「ならアナタを信じるわ。頼んだわよ」

「了承しました。銀竜[ジルコート]。これより戦闘モードへ移行します…魔力の増大を確認。回避を推奨します」


 バルディエルはミトラが撃とうとしていた魔法を先に察知した為、此方へ放たれた魔力砲を全員回避することが出来た。

 ミトラの攻撃を回避しつつ、背部のミサイルを全弾射ち尽くすと同時にフルチャージされたエネルギーライフルのトリガーを引くバルディエル。

 ミトラは防壁を張ってそれらを防ぐのに気を取られ、左右からジルコート達が抜けていくのを許してしまった。


「不覚!」

「外部装甲のパージを確認。ガヴィアンテパックスタンバイ、換装完了。各部作動良好。これより近接戦闘へ移行します」


 今までは背負ったバックパックのみ変更していたバルディエルだったが、今回の換装では装甲までも新たな形で取り付けられた。

 元々細身だったバルディエルが更に細くなり、背中には左右二基づつのバーニアノズルを搭載した独立可動式スラスターの初めて見るパックを装備。

 このガヴィアンテパックは完全な近接戦闘特化型であり、武装も両手剣と腰部にマウントされたプラズマソードのみでライフル等の飛び道具は一切積んでいない。

 それ故に、ミトラを翻弄する程の機動性を見せつけてくれる。


「速いが動きが単調だぞ、機械兵!」


 回避と攻めの繰り返しで動きを読んだミトラは、バルディエルの隙を見つけて突きを繰り出したものの。


「!?誘い込まれた!?」


 バルディエルはわざと隙を作りミトラの攻撃を誘導したのである。

 上から降り下ろされたバルディエルの実体剣はミトラを切り裂くも。


「ただでは、やられん!」


 同時に横へと払ったミトラの剣もまたバルディエルの腹部中央まで切り裂く。

 深傷を負った両者はその場に膝を突き、バルディエルは爆破、ミトラは粒子となって消えて相討ちという形で幕を閉じた。




 アルカンシエルへ向かったタルタロスと冥庭竜のズクは、複数のブレスを避けながら距離を詰めて行き、目前へと迫った二人は剣と鎌状の腕を振りかざした。


「唸れイクシオン!」

「その首、貰います」


 ガキンッ!と、二人の得物は見えない壁に阻まれてアルカンシエルに届くことはなかった。


「コイツ…何時の間に」

「常に防御魔法を張っているとでもいうのですか」

「下だ!ズク!!」

「!!」


 呆気に取られてしまったズクの真下から鋭く鋭利な尾が迫り、タルタロスのお陰でギリギリの所で横へ回避に成功するも、避けた側から振るわれた掌の攻撃を受けて弾き飛ばされてしまって城壁へ叩きつけれてしまったズクとタルタロス。


「クソ、痛ぇ」

「申し訳ありません。しかし、これはチャンスでは?」

「確かにな」


 怪我の巧妙なのか、ズク達の前には鎮座したケテルの横顔があった。

 ケテルは気付いているのかいないのか、それとも興味がないのかズク達を見下ろすことはなく、ただ真っ直ぐを見ていた。


『冥庭竜、奈落の王、アルカンシエルは私達が相手をするわ。アナタ方はケテルを』

「この声は銀竜からか」

『承知しました。お任せします』

「おい、良いのか?銀竜達に勝てるとは思わなんだが」

「それでもやるしかありません」

「それもそうか…よし、行こう」


「良いわよね?皆」

「今更だな!散開して叩くぞ!白、着いてこい」

「赤、命令ですか?」

「白は赤の援護をお願い」

「銀がそう言うならやりましょう」

「けったいな奴だな」


 エリュテイアとブランはアルカンシエルの右舷へ、ジルコートとノワルヴァーデは左舷、残りの三竜が正面から飛び込んでいく。

 三方向から攻めることによってアルカンシエルの攻撃を拡散させる事には成功しているも、此方の攻撃は防壁で塞がれて届かず、ジルコート達は次第に避けるだけで精一杯になってきていた。


『このままでは…』


 アルバスが嘆いていると、飛翔する悪魔達を片付けた召喚獣の竜種が次々と集まって攻撃に加わり、更に遠くから近付く二つの影があった。


「待たせたな、嬢ちゃん達」

「遅くなってすまない。遅ばせながら加戦するぞ」

「紫!!」


 二竜の姿を見たジルコートは安堵の表情を見せた。

 遅れてやってきたのは竜胆竜のベナフと灰簾竜のムアンの紫竜親子、先程集まった竜達を含めて十四体もの数でアルカンシエルに挑む事が出来る。

 劣勢だったジルコート達は物量で押し始めていた…しかしそれも束の間、アルカンシエルの十もの首を1つたりとも落とすことが叶わず、味方側が次々と墜とされて行き、カルテス、ニエーバも消失してベナフも叩きつけられてしまう。


「クソ!良いとこ無しかよ!」

「無事か?ベナフよ」

「親父…ああ、なんとか」

「突破口は俺が作る。銀の嬢さんに念話を送れ」

「は!?どうやって作るんだよ!?」

「いいから早くしろ」


 ムアンに急かされたベナフは味方にその旨を伝えてムアンに続くと、アルカンシエル目掛けて高速で近付いて行く。


「せめて、せめて1つだけでも!」


 ムアンに反応した1つの首がブレスを放ち、それを回避して前面に防壁を集中させて互いの防壁がバチバチとぶつかり合う。


「全霊でも届かないのか!?」

「手伝います」

「白のお嬢さん!」


 ブランもまた、防壁を展開させて二竜で一点集中を狙うと、その箇所だけ穴を開けることに成功する。


「今だ!飛びこ」

「親父ー!!」


 ムアンに立てられた牙は、全身に大穴を開けて無情にもアルカンシエルの喉奥へと押しやられてしまう。

 ムアンの血を浴びたブランも同様、他の首から逃れる事が出来ずに血が滴る中飲み込まれた。

 それでも竜達は二人が命懸けで開いてくれた可能性へ飛び込んで魔法、ブレスを放ち続けた。

 何体もの竜が牙の餌食にされてしまったが、その犠牲のお陰でようやく1つの首をもぎ取り、続けて2つ目もと意気込んでいると。


『なんと無慈悲な』

「嘘でしょ…」


 切り取ったはずの首が再生されるのも目撃したアルバスとジルコートは絶望を感じた。


「再生持ちとは、な。親父達の犠牲は無駄だったって言うのか!!」

「…紫…白、ごめんなさい…」

(我を喚ぶように伝えよ。銀竜ジルコートよ)

『誰なの?』

(我は創初竜と呼ばれる者。主に伝えるのだ。)

『創初…わかったわ』


 ジルコートに呼ばれた俺はアイテムボックスへ手を入れて遺跡で入手した竜の珠を取り出した。


「これであの惨状が変わるのを期待しているぞ!頼むぞ」


 放り投げた珠は空中で弾けて空に広がる雲を裂いて星の海まで届く青い火柱を上げた。


『汝の願い、聞くまでもなかろう。任せてもらおうぞ』


 宇宙(そら) から俺達を見下ろす超弩級の竜、創初竜はアルカンシエルに視線を向けていた。



「これが創初竜…圧巻だな」

「何を呆けていいるの!?まだ終わっていないわよ、紫」

『其奴の言う通り、見とれるのも分かるがな』

『創初…』

「青、黒まで」

「堅いこというなよ銀。これで俺達の勝ちは決まりだろ!紫の親父さんの仇も取れるってもんだ」

「赤の嬢ちゃんよ、嬉しい事を」

「それよりも私達は逃げなくて良いのかしら?」

「あ?何ってんだ銀…ヤベ!!下がるぞ!!」


 エリュテイアが焦る理由、それは遥か上空から接近してくる隕石群が目に入ったからだ。

 複数の隕石はアルカンシエル目掛けて降り注ごうとしており、ジルコート達は攻撃範囲外への離脱を余儀なくする。

 創初竜の攻撃は圧倒的破壊力を持っていたが、アルカンシエルも負けじと各頭からブレスを放って迫り来る隕石群を破壊していくも、取りこぼした塊によって半身を失う。


「ガァァァァァァー!!」

『言葉までも失いながら奴に仕える理由はなんなのだ?まぁ、答えられんだろう。我が還してやろう』


 空に光りが走ると、創初竜はアルカンシエルと同等の大きさまで縮んで地上へ舞い降りて再生しようとするアルカンシエルと立ち並ぶ。




『彼奴はマズ過ぎるぞ!何故人間があんなモノを!…あの人間か!!何時まで帝の相手をしている!?お前達は早く王の元へ行け!』


 一体の悪魔が俺達の方へ飛んでくるのが見える。

 因みに、精霊王が喚んだ帝は悪魔に押さえられ、光帝と水帝の二体が持ちこたえていたが、それも時間の問題だろう。

 下がっていたジルコートとノワルヴァーデは悪魔に気付いて魔法を放つが、二竜の攻撃を交わしながら更に速度を上げて俺の目の前にまで来ると、手にした槍で突きを繰り出してくる。


「貴様!マスターに手を出すとはいい度胸ですね!堕ちた大天使メタトロン」


 俺はクリスの剣を構えて応戦しようとしていた所、間に割って入ったジャンヌが悪魔の槍を弾き返して怒りをあらわにしている。


『煉獄の騎士風情が。お前の相手は用意してやるからそこを退けっ!』

「何を喚ぶかは知らないですが!まとめて相手になりましょう!!」

『力量の差も分からんのに一端の口を聞くな』


 チリチリとつばぜり合いをしていたジャンヌを蹴り飛ばしてメタトロンは魔法陣を浮かび上がらせると、人間サイズの[エノク]と呼ばれる女魔法使いを召喚しジャンヌの相手をするよう指示を出していた。


「アイ、下がっていろ」

「でも!」

「いいから下がれ」

「…分かった」


 エノクの風の刃を切り払うジャンヌを尻目にメタトロンは俺目掛けて翼を広げ、突きの連打を咬ましてくる。

 その突きは今までのどんな相手より鋭く速く、俺は一心不乱に捌くも時折頬や脇腹を掠めてしまう。


『あの時生かした事を後悔するとは、己の失敗は己で返させて戴く!』

「好き勝手やっといて今更だな。此方とて譲れない物がある以上敗ける訳にはいかないんだよ」

『守るだけで手一杯のクセに何を言うか』

「クリス、お前の力借りるぞ」


 クリスの剣から発せられた冷気はメタトロンの得物を包み込んで小手先を氷らせると、狙い通り距離を取ってくれ、俺はすかさずハンドガンを引き抜いて1発、2発、3発と撃ち込んで怯んだ所に頭部へ4発目を食らわす。


「魔弾の味はどうだ?覚醒態だからとて無事ではいられないだろ」


 弾を食らって反り返ったメタトロンを見て倒れるのも時間の問題と思いきや、体勢を戻して何事もなかったかのように振る舞いを見せた。

 額と胸から血が流れているため弾は間違いなく貫いているのだが何故立っていられるのか、コイツには通用しないのかと考えていると、アルカンシエルを包むように青白い炎が上がって鎮火した後にはソイツの姿は消えていた。


「お前には驚かされたがアルカンシエルは倒されたようだな」

『…流石と言うべきか。全員王を守れ!後退するぞ!』

「逃げるのか?」

『王の護衛が最優先だ』


 引き下がるメタトロン達に追撃した所で返り討ちに合う可能性の方が高い為そのまま行かす事にしたが、此方もあらかた片付いていたので俺達もこのままケテルの元まで進行する。




『跡形もなく焼き尽くせば再生も去れまい。さて、残すは愚王を相手どろう』


 苦戦を強いられていたアルカンシエルを意図も簡単に倒した創初竜は、魔王ケテルへと視線を向けた。


 一方でケテルの真下まで飛ばされたズクとタルタロスは巨人タイプの悪魔の群れに阻まれて先へ進む事が出来ずにいた。


「まさかアルビオン率いる巨人隊まで出払っているとは」

「しかしアルビオンの姿がありませんね」

「皆おんなじ顔だから見分けがつかんよ。どいつもズクと同サイズってのは骨が折れる」

「奈落王、あれを」

「おー、流石は原初の竜だな。アルカンシエルを一撃とは」

「此方も遅れを取るわけにはいきませんね」

「よし、本気を出すか」

「始めからそうして下さい」


 地中から無数に生えたタルタロスの鎖によって身動きを止められた巨人達をズクとタルタロスは切り裂いて行き、残すはケテルの側に控えた巨人だけとなった。







  [創初竜]

 ノーネームドラゴンと呼ばれ、古神と並び世界が作られた時に誕生した古の竜。

 超弩級の全長は星を囲める位あるだろうと推測され、力は衰えては来ているが神竜より遥かに強大な力を有している…はずだと、本人は唱える。



[エノク]

 数千年前、大賢者として名を馳せた元人間。

 神に誓いを立てて死後は天使と共に神に仕えていたが、悪魔との戦争によって2度目の命を落とし、メタトロンの蘇生の儀によって復活を果たして以降、メタトロンの召喚獣として生きることとなった。

 全ての属性の魔法を使いこなし、攻守共に優れた力を持つ。



[アルビオン]

 天界で巨人族の部隊を率いていた巨神の子であったが戦争に負けてからは天使同様に魔界へ送られる。

 魔力は桁違いに高いが肉体強化しか使えない。

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