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96話 開戦

 


  スタミナを消耗しきって気を失い、目を覚ましたのは二日後の事だった。

 しかもベッドの上、どうやらロイが被害のない街まで運んでくれたのだとか。

 すでにアイとアーシェは起きており、ギルドまで人を迎えに行ってるらしい。

 そしてロイの隣にはお爺さんの姿があった。


「久方ぶりじゃの。今回の戦闘、御主達が居なかったからこの街も無事では済まなかったじゃろうに。勿論、儂もな」

「イグニス、久しぶりです。殆どジル達任せでしたが。それと冥府の者の手を借りてようやくって所でした」

「なんと、やはりあの者達は冥府からの使者じゃったのか」

「冥王は人間側だと思います。少なくとも今は」

「んな気難しい話は後にしてまだ休んでろよ、ほれイグニスも先に飯にしようぜ」

「そうじゃのぉ、そうするとしようかの」

「立てるか?サキ」

「もちろん。それより迷惑かけたみたいで、有難う御座いました」

「俺にはこんくらいしか出来なかったんだから気にするな」


 にかっと笑うロイの肩を借りて起き上がり食堂へと向かった。

 三人でちょっと遅い昼を食べていると、アイ達が一人の女性を連れてこっちに歩いてくる。


「起きたのね、心配したわよ」

「ほんと、大丈夫!?」

「ああ、二人にも迷惑かけたな、もう大丈夫だ。それで…」

「あの日以来ですね。意識が戻らないと聞いて心配しました」


 梔子の聖導士の色をもつエルフの冒険者、セシルだ。

 セシルもエデン討伐に動いたのだが、足の速い召喚獣がいない為今になってしまったのだとか。

 謝られたがセシルはなんら悪い訳ではないので謝罪は受け入れない、それは俺だけではなく皆そう思っている。


「そう言って頂けるなんて…それでですね、代わりと言ってはなんですが」

「セシルはスゴいよ、ねぇアーシェ」

「ええ、私も驚いたわ。まさかあんな」

「なんだよアーシェまで」

「ほらロイもお爺ちゃんも早く食べちゃって!街の外まで散歩行こう」

「年寄りを急かすんじゃないぞ、ここのパンは堅くて飲み込むのも一苦労じゃ」

「違いねぇ!黒パンなんて今ど「声が大きいって、店主が睨んでますよ」

「す、すまん」


 アイ達は道中で食べてきたらしく、ようやく食べ終わった俺達は急かすように外へと連れてこられ、セシルは召喚獣を喚ぶために口上を唱え始める。


『刻世の全てを統べる者 空蝉を満たす儚き者を誘う為 不知火纏いて顕現しなさい 賢界王ビフレスト』


「ホッホッ、賢界王を喚び出せるとは流石じゃの」

「げんかいおう?」

「アイさん、私を見ても何も答えられないわ。私も知らないから」


 現れたのは賢界王と呼ばれる俺達より3倍程大きな髭面の大男、ソイツは俺達を見渡すと一言『任されよう』とだけ伝えて魔法のなのか解らない暖かな光りで周囲を包みこむと、険しい顔をして俺に目を向けてきた。


『剣鬼と戦姫、其奴等はワシの領域外故、すまぬ』

「?」


 なんの事だと思っている間に賢界王は役目を終えたらしく還っていく。


「皆さんの召喚獣を喚び出せるようにしました」

「そんなことが出来るのか!?」


 と平然と言うセシルにロイが疑問を感じた。もちろん俺もだ。


「確かにノワの加護が戻ってるのを感じる」

「ですが、サキさんのティリンス・アクロポリスとラグナロク・アポカリプスは範囲外だったらしく無理のようでしたが」

「いや、十分だ。有難う、流石セシルだな」

「いえいえ、イグニスさんの赤竜もすぐに戻ってくると思います」

「こりゃあ、たまげたわい。有難うのぉ」


 賢界王の能力で俺達の召喚獣は殆ど復活を果たしたが、アクロポリスとラグナロクは無理だったようで武器召喚を行えない状態である為、今はアクロポリス達の再生を待っていられないので剣を調達しに俺とアイとアーシェは武器屋を訪れた。

 そこで見付けたのは両刃長剣のブロードソード、頑丈で切れ味も良いとの事でこれを購入しアイテムボックスへとしまった。


「後は弾があれば良かったがな」

「万全の状態で挑みたいけどね、仕方ないかぁ」

「そうね、まぁいざとなればサキさんは私が守るわ」

「ハハッ、有り難いな」

「なら私はアーシェね」

「心強いわね」

「…後5日、か」


 俺達が急ぐ理由、セシルと共にギルドから持ち帰った情報は王国に迫る悪魔軍との対峙する日にちが5日後という。

 この情報は王国内のギルドへ訪れた異国風の男から得たようで、普通ならそんな信憑性のない話など裏が取れない限り信じないが、その男はタルタロスと名乗り尋常ではあり得ない程の魔力を放っていたからだ。

 それにより再び各ギルドへ通達が行われたのだった。


「ようし、準備はいいな!?皆乗ってくれ」


 俺、アイ、アーシェ、イグニス、セシルはロイが喚んでくれた空飛ぶ巨大空母 [ワスプ級強襲揚陸艦六番艦キア・リシャール]に搭乗して王国内を目指した。


 一方、王都からずっと西に位置する港町では。


「坊っちゃん、ギアス坊っちゃん!ギルド役員から坊っちゃん宛てに緊急の手紙が届いております」

「………分かった。悪いけどすぐに返事を書いてもらえるかい?」

「はい、只今」

「師匠、僕も微力ながらお供致します」



 北へ続く寒冷砂漠を越えた先の街のギルドでは。


「クリストファーさん、此方へのご参加願えますでしょうか?」

「……ほう、面白い。私で良ければ力を貸そう」

「有難う御座います!」

「付かぬ事を聞くが、それにはサキ殿…銀翼のパーティは参加するのか?」

「はい!そう伺ってますが」

「そうか…サキ殿、アイ殿、今の私を見て貰うチャンスと言うこと。楽しみだな、ダール殿!」

「そうだな!アイツ等更に強くなっているだろうよ!今から会うのが楽しみだぜ!」

「それはそうとどうやって砂漠を渡るのだ?」

「スピーダードラッヘの珠があるからそれで行くぞ!」

「了解した!」



 4日後、王国内第二都市[ディセンス]、周辺諸国も含めて本部を除くと一番大きな冒険者ギルド中央支部がある街に俺達は招集された。

 見知った顔や噂を耳にする実力者、多様な制服姿の騎士や鎧姿の国防軍が数多く集まり支部長である男の話を聞いている。


「近辺の国からも派遣された騎士団や軍隊は3万あまり…か」

「不満そうだな、サキ殿」

「クリス!久しぶりだな」

「こら、もっと静かに喋らないと怒られるよ。久しぶりだね、元気にしてた?」

「勿論!アイ殿も元気そうで何よりだ。こんな形で再会するとは思わなかったが」


 クリストファーと別れてからどのくらい経っただろうか、本当に久方ぶりな気がしてならない。

 それに彼女だけではなく、ダールも「よっ!」って感じで挨拶を交わした。

 アーシェも交えて五人でこそこそと喋っていると、支部長の長い話が終わった。いや、終わっていた。

 二人には後で飯の約束をし、俺とアイは一人の男に声を掛けた。


「「ギアス」」

「師匠!やっぱり来ていたのですね!」

「気付かなかったのか?俺達はお前が入って来たときから気付いてたぞ、なぁ?」

「当然!可愛い弟子だもん」

「アイさんはいつまでも子供扱いしてきますね」

「実際まだ子供でしょ」

「だな」

「二人して…こんな事にならなければ喜ばしいことなのですが」

「心配するな。悪魔達には人間の底力を見せてやろうぜ」

「そうだよ、一人一人ではやれることは限られてるけど皆が本気で立ち向かうなら敗けるわけないんだから…何よ?」

「いや、珍しく真面目だなって」

「アハハッ!サキさん失礼ですよ」

「笑ってるギアスも失礼だけどね!ほんと失礼しちゃう」

「冗談だよ、怒るなって」

「そう聞こえないから怒ってるんだけどー?」

「まぁ、ここじゃなんだし飯行こうぜ。そこに仲間も集まってるから」

「はい!お供します」


 俺とアイ、アーシェ、ギアス、ロイ、セシル、イグニス、ダール、クリスとファーで昼飯、夕飯を供にした翌日、ギルドのお偉いさん方が考えた配置に俺達は着いた。

 昨日とはうって代わり殺伐とした雰囲気としていて重苦しいが、俺の回りにはアイとアーシェはもちろん、クリストファーとダールがいると思うと安心出来る。

 後方には怪我人や召喚士のスタミナを回復出来る治癒魔法の使い手達が控えており、サポート体勢も万全であり、周囲も軍や冒険者達でひしめいていた。


 カーン!カーン!カーン!


 と、悪魔の出現を知らせる鐘が鳴り響くや否や突如として彼方此方に下級悪魔が姿を現したが、数が多いだけでどうと言うことはない。

 俺はブロードソードを、アイは片手剣と盾を、アーシェはデポルラポルを喚び出し切り裂いていく。

 下級悪魔を次々と伏せていくが問題は…


「特大魔法来るぞ!!全員回避だー!!」


 部隊の隊長であろう男が叫び、空を見上げて見ると、魔力の塊を今にも放とうとする悪魔の姿と周囲を飛ぶ上級悪魔の群れが目に飛び込む。


「ここからが本番のようだな。アイ、アーシェ、気を付けろよ」

「サキもね」

「全くだわ。私は比較的安全よ、その言葉そのまま返すわ」

「ハハッ、サンキューな」

「じゃあ、そろそろ」

「喚ぶとするか」

「ええ」


 ジルコート、ノワルヴァーデ、ニエーバを喚んだ俺達は本格的に戦闘を開始した。






  [賢界王ビフレスト]

 召喚獣達が住まう世界を統べる王。

 精霊王とは基本仲が悪く、どちらがより良い王であるかいつも言い争っている。



[音速竜]

 スピーダードラッヘとも呼ばれる細長い西竜型の小型のドラゴン。

 その体型を生かした動きは敵を翻弄し、瞬発的な速さなら竜の中でもトップ。

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