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再起動

 ゾンゲイルの写真をアップしたことで、ユウキはスマホの、インプット以外の機能を思い出していた。


 それは何かしらの情報をアウトプットするという機能である。


 キーボードが無いため長文の文字入力は厳しい。


 ブログの編集もスマホの小さな画面では大変である。


 しかし今朝、ユウキはせきを切ったように自分のブログの更新を自室で続けていた。


「ユウキ、朝ごはん」


「おう……」


 ゾンゲイルに呼ばれて食堂に向かったものの、その席でもスマホに文章を打ち続けている。


 食後、またゾンゲイルに請われ、塔の回りで撮影会をしたが、そのあともすぐ自室に戻りブログの更新作業を再開した。


 異世界に召喚されてからずっと更新できなかったため、PVは落ちていた。


 昨日のゾンゲイル写真でPVを稼ぐことができたが、それはあくまで一時的なものである。


 美女のコスプレ写真などという飛び道具的コンテンツは、サイトの本質的目的と有機的に結びついていない。少なくとも今はまだ。


 ユウキのサイトの本質的目的、それは様々な商品や情報をお伝えすることによって、読者の生活をより良いものにアップデートすることである。


 サイト運営数年目に、ユウキはそのような目的を見出し、それをノートに書き出していた。


 その目的からブレた単発のコスプレ写真では、サイトの価値、ひいてはブロガーとしての自分のブランド価値を高めることにはつながらない。


 まあ……今日撮影したゾンゲイルの写真もあとでアップするが、その前に普段通りの更新を再開しよう。


 こういう地道な作業が大事なんだ、ブログ運営には。


「…………」


 ぽちぽち。


 ぽちぽち。


 文机に向かってひたすらスマホをいじる。


 とりあえずここ数日、ひたすらスマホで読んだマンガや小説のレビュー記事を書いていく。


 これがブログ収益のメインなので手を抜いてはいけない。


 慣れ親しんだフォーマットでいくつか記事を書いて、一日二本ほどアップされるよう予約投稿しておく。


「よし、次は……」


 ライフハック的な要素のある身辺雑記を書く。


 異世界での冒険により、こんなオレでも多くの学びと経験を得たつもりである。


 それを思いつく限りメモ帳に箇条書きにしていく。


 さらにそれをできる限りキャッチーな記事タイトルへと変換していく。


『自分が一番やりたいことをやったとき、人生に起こる10の変化』


『知らない場所に行くことで脳が活性化されるって本当?』


『柔道……その実用性と精神性』


『作った作品は恥ずかしくても人目に晒すべき! その10の理由』


『苦手なことに挑むための10の方法』


『わかる人にはわかる! 広場恐怖という心の病と、10の対処法』


『ひきこもりのオレが考えたコミュニケーションの極意』


『作業着って便利! 普段着にも使える作業着の魅力』


 これらの記事の下書きページをワードプレス上に作ってしまう。


 そして、執筆意欲が感じられる記事から実際の本文執筆に手をつけていく。


 二本ほど記事を書き上げたところでシオンが部屋にやってきた。


「ユウキ。昼ごはん、食べないかい?」


「おう。ちょうどキリがいいところまで進んだからな。食べるか」


 ゾンゲイルが作り置きしていった昼食を食堂で摂った。


 午後はまずゾンゲイルの写真をアップした。


 まだブログに新カテゴリーは作らず、とりあえず『身辺雑記/ライフハック』のカテゴリーに入れておく。


 この『ゾンゲイル写真』というコンテンツをどう自分のサイト運営に有機的に絡めていくのかは未知数である。


 未知数なまま、とりあえずアップしていく。


 ついでに星歌亭で作った自作の音楽もアップしてみる。調べてみると音楽のアップロードには、いくつかの方法があった。


 自サイトのサーバに音声ファイルとして直にアップするという方法、SoundCloudなどという音楽専門SNSにアップする方法、そして音楽を動画としてYoutubeにアップする方法である。


 動画を作るのは面倒そうだが、今後の発展性を考えてYoutubeにアップすることにした。


 これまで動画コンテンツを作ったことは無かったが、ブロガーとしてそろそろ足を踏み出すべき領域に思えたからだ。


 とりあえずスマホ……iPhoneに入っていたiMovieというアプリでシンプルな動画を作ってみる。


 遠目からゾンゲイルと塔を撮った写真を背景に使うと、意外にいい感じの動画が作れた気がした。


 さっそくYoutubeに自分のチャンネルを作ってその動画をアップロードし、自サイトからリンクを貼る。


 そうこうするうちにユウキの中にアウトプットの勢いが強く生じた。


 ユウキはその勢いを利用して、かねてからやりたいと思っていた、『テキスト販売』を試みることにした。


 さきほど書いた『わかる人にはわかる! 広場恐怖という心の病と、10の対処法』というテキストを、自サイトに無料公開するのではなく、『note』で五百円で売ってみるのだ。


『note』はテキスト販売機能があるWebサービスである。一応、すでにアカウントは持っている。


 だが自分のテキストにダイレクトに値段を付けるという行為には強い精神的抵抗感があった。


 オレの書いた文章ごときに金銭的価値などあるわけがなかろうという思いがあった。


 そのためどうしてもユウキはこれまでテキスト販売に足を踏み出すことができなかった。


 しかし今、ユウキには勢いがあった。


 ここ数日、塔でくすぶりつつけた反動か、外向きの勢いが強く出てきていた。


 その勢いを利用してユウキは一気呵成にテキストをnoteにアップし、さらにソーラルの噴水広場の写真をアイキャッチに添えて、それを五百円で販売開始してしまった。


 さらにそれをできる限り宣伝する。


 自分の商品を宣伝することに、やはり強い抵抗感がある。何かやましいことをしている感覚がある。だが勢いに乗っている今は、その抵抗感を無視して行動を起こすときである。


 ユウキはツイッター、フェイスブック、インスタグラムなど各種SNSと自分のブログからリンクを張って、五百円の有料テキストを宣伝していった。


「ふう……」


 そうして、やれることをすべてやったあと、ユウキは心地いい疲労感と共に深呼吸した。


 その後、ベッドに横になってエッチなコンテンツを見たり、マンガや本を読んだり、音楽を聴いたりしてインプットに努めた。


 日暮れ頃には巨大カエルが塔にやってきた。ユウキはカエルにくわえられ森の奥の沼地に向かい、精霊に自然エネルギーをチャージされて、また塔に戻ってきた。


 夜にはゾンゲイルとラチネッタが出稼ぎから帰ってきた。


 しばらくすると、敵襲があった。


 今夜の魔物は『生ける屍』三体と、『死してなお動く野犬』二匹だった。


「なんだその、『死してなお動く野犬』ってのは?」


 戦闘に向かうシオンにユウキは聞いた。


「人に敵意を持ちながら死んだ野犬だね。闇の眷属の波動にあてられて、闇の生命を得たんだ」


「戦闘力はどの程度なんだ?」


「防御力も低いし、死んでるだけあって、犬にしては運動性もそんなに高くないみたいだね。だけど、念のため、司令室からサポートしてもらえるかい」


「わかった」


 戦闘員を送り出したユウキは六階の司令室に向かった。


 足はほぼ完治しており、一人でも螺旋階段を早足で昇ることができた。


 司令室の壁はふさがっていたが、まだ壁面ディスプレイ機能は復活していないようだった。


 しかし中央に置かれた祭壇には、天井に浮かぶ『叡智のクリスタル』から投影された立体映像が表示されている。


 塔から出た三体の戦闘員と、塔に向かって進行してくる五体の敵のシンボルが表示されている。


 ユウキは効率性を重視しつつも安全性に気をつけて戦闘を指揮した。


 まず生ける屍よりも先に塔に到達する野犬を、シオンの長射程な魔法で狙撃してもらう。『炎の矢』だ。消費魔力はそんなに高くないので、二発ぐらいなら使ってもいいだろう。


 その際、安全のためシオンにゾンゲイルとラチネッタを護衛として付けておく。


 夜の深い闇の中、塔に駆け寄る二匹の野犬の姿は、通常であればかなり近くに来るまで目視不可能だ。


 だが、司令室の『叡智のクリスタル』によって捉えた情報を、シオンの視野にオーバーレイで送ることで、長距離からの狙撃が可能となる。


 射程に入ったところでユウキは攻撃を指示した。シオンは呪文を詠唱した。


「燃え盛る炎の矢よ、あいつを貫け!」


 瞬間、燃え盛る炎の矢が闇の中に忽然と現れ、勢いよく空間を飛翔した。


 炎の矢にはある程度の追尾性能があるようで、それは狙い違わずゾンビ化した野犬に突き刺さった。炎が瞬く間に魔物の全身を包む。


 さらにもう一匹の野犬にも同様の攻撃を加える。


 命中した。


 あとは自動的に炎ダメージによって野犬たちは塵に帰るだろう。


 残りのゾンビ三体は昨夜と同様、ラチネッタとゾンゲイルに処理してもらう。


「よし……」


 防衛完了だ。


 今夜は『炎の矢』二発分の魔力を消費してしまった。


 だがそれ以上に、昼間、ブログ執筆や各種の活動で得た魔力の方が大きい。


 かなりの魔力を持ち越して、その日を終えることができた。


 翌日、翌々日もユウキはゾンゲイルの写真を撮り、ブログ記事を書くというアウトプット作業と、各種コンテンツのインプット作業を行った。


 そして夜には迷いの森の精霊に自然エネルギーをチャージしてもらい、その後に敵と戦って塔を守った。


 そうこうするうちにユウキの足は全回復していた。


 塔を一週間ほども維持できる魔力も溜まった。


「ふう……」


 ある夜、敵を撃退し終えたユウキは司令室で深呼吸した。


 その深呼吸によって全身が深くリラックスしていくのが感じられた。


「まさか……これは……」


 そのとき脳内にナビ音声が響いた。


「ええ、スキルですよ」


「…………!」


「スキル『深呼吸』によってユウキの心と体が深くくつろいでいるのです」


 脳裏に響いたその声によってユウキは理解した。


 自分が回復を終えたことを。


 休息の日々が終わったことを。


 ユウキは言った。


「久しぶりだな……今のオレの全体的な状態を教えてくれ」


「スキルシステムがダウン中、ユウキの内部では、大量の経験を統合するプロセスが進行していました。それはいわばユウキのOSを大規模にバージョンアップするような深遠なるプロセスです。その『再起動』を終えた今、すべてのスキルがユウキに深く統合されパワーアップされました。スキルだけではありません。気力の最大値も大幅に向上しています」


「まじかよ」


 その他、諸々の向上をナビ音声はユウキに伝えた。


「そして最後に……私との通信機能もアップデートされました。これにより、今後はより密接なサポートが可能になります。よろしく、ユウキ」


「ああ……またよろしくな。ナビ音声さん」


 翌日、ユウキはソーラルに出た。


 異世界ナンパをするために。

お読みいただきありがとうございます。

やっとユウキが動き出しました。

次からは久しぶりにナンパ活動を再開できそうです!

ああ……長かった……。

というわけでぜひ続きもお読みください。次回は来週月曜更新です。


またよろしければぜひブックマーク、感想、レビュー、評価等で本作を応援してください。なにとぞなにとぞよろしくお願いたします!!


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