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熾烈な戦い

「防衛室、そんなものがあったのか!」ユウキは驚きの声を発した。


「だがお前の魔力は空だったろ。大丈夫なのか? 無理してお前が死んでもゲームオーバーだから気をつけろよ」


「平気だよ! なぜか塔に魔力がチャージされてるんだ」


「まじかよ。一体なぜだ? はっ、まさか……オレはさっき、迷いの森の精霊に声をかけ、ナンパらしき行為をした。そのためにオレに魂力がチャージされ、さらにそれが塔に魔力としてチャージされたということか?」


「戦闘中にナンパだって? ふざけないでくれ!」


「まあ結果として塔に魔力が補給されてるみたいだからいいだろ。二階に行かずに魔力がチャージされたのは不思議だが……」


「ユウキ、君は前に僕が警告した通り、その肉体が塔と密接に繋がりつつあるんだよ」


「そのせいで司令室のオレから塔へとダイレクトにエネルギーがチャージされてるってことか?」


「だね。そのエネルギーは二階の生命のクリスタルで魔力に変換され、僕は三階の防衛室でその魔力を使ってこのバリアを張ってる!」


「いいぞ。そういうことならオレはさらにナンパを続ければいいんだな。おーい、迷いの森の精霊さん。もっとオレと世間話しようぜ」


 だが……。


「…………」


 迷いの森の精霊は返事をしなかった。


 魂力チャージを焦るあまり、かなり雑に声をかけてしまった気がする。


 怒らせてしまったのか?


 だがスキル『共感』と『集中』を使って気配を探ってみても、迷いの森の精霊の存在を感じることができなかった。


 もう樹木の妖魔の奥には何もおらず、そこにあるのは空虚な戦闘プログラムのみであった。


 どうやらすでに迷いの森の精霊は、この塔がアクセスできるエリアから退去してしまったようである。


 なぜだ?


 そうか……樹木の妖魔へのエネルギー供給を遮断した影響か。


 迷いの森の精霊は、ユウキの要請に従い、自身から樹木の妖魔へのエネルギー供給ラインをカットしてくれた。


 その副作用として、塔から迷いの森への精霊へと繋がる、樹木の妖魔を中継局とした遠隔通信のラインも遮断されてしまったのだろう。


 そうなるともう、ナンパで魂力を得ることができない。結果として魔力を得ることもできない。


 ユウキは司令室の祭壇に、塔の残り魔力を表すゲージを表示させた。そのゲージは刻一刻と短くなっていく。


「やばいぞ……どんどん塔の備蓄魔力が減ってる。うおっ!」


 樹木の妖魔が塔を殴った。


 その攻撃は防衛室のシオンが張っているバリアに阻まれる。


 だが塔の備蓄魔力ゲージが一瞬で大きく減った。


 樹木の妖魔が塔に殴りかかるたびに魔力がどんどん減っていく。


「おいシオン、お前、防衛室から攻撃できないのかよ」


「できるよ。でもその瞬間、魔力が足りなくなってバリアが維持できなくなるんだ」


「くっ。攻撃を耐え忍ぶしかないというのか」


 このままではジリ貧だ。  


 だが今……ごくわずかであるが樹木の妖魔の動きが鈍くなりつつあることにユウキは気づいた。


 壁面ディスプレイに樹木の妖魔を拡大表示すると、その関節の内部にまで炎が深く燃え広がっていることが確認できた。


 迷いの森の精霊からのエネルギー供給が途絶えたことで、自動回復が効かなくなり、関節に損傷が生じてるのだ。


 特に、もっとも最初に炎上した樹木の妖魔Aの動きが目に見えて鈍くなっていた。


「ユウキ殿! 攻撃指示を!」


 塔の西方で樹木の妖魔Aに追われていた暗黒戦士が叫んだ。


「わかった。やってくれ」


 ユウキは祭壇のアイコンを操作し、ゾンゲイル家事用ボディに左足へのタックルを指示し、さらに暗黒戦士に暗黒剣による直接攻撃を指示した。ターゲットは樹木の妖魔Aの右足だ。


 ゾンゲイルは今、防衛室のシオンの傍で床に座り目を閉じ、家事用ボディの遠隔操縦に集中している。


 そのためか、ゾンゲイル家事用ボディの動きはこれまでよりはるかに鋭い。


 塔の西部の藪の中で、樹木の妖魔Aから逃げていた家事用ボディは、急制動すると反転し、弾丸のように鋭く身を低めて樹木の妖魔の左足首にタックルした。


 さきほどまで樹木の妖魔は家事用ボディにタックルされても、一瞬動きを止めるだけであったが、今、炎によって各所の関節に不可逆的な損傷を抱えていた。


 そのためわずかであったが樹木の妖魔は全身のバランスを崩した。その瞬間を暗黒戦士は見逃さなかった。


「う、う、うわああああああああああ!」


 暗黒戦士は聞くものの胸が痛くなる悲痛な叫びを発し、おどろおどろしい暗黒の蛇を暗黒剣に濃くまとわせると藪を縫って駆け出した。


 その鎧兜を掴み取ろうと、樹木の妖魔の燃えさかる巨大な手が迫る。


 ゾンゲイル家事用ボディが樹木の妖魔の左足首をさらに押す。


 その影響か樹木の妖魔の手は暗黒戦士を掴み取るだけのスピードを得ることができなかった。


 球状にからまりあった暗黒の蛇がのたうつ大剣を担いで走る暗黒戦士は、樹木の妖魔の手をぎりぎりですり抜けた。


 そして燃え盛る樹木の妖魔に近づくと、そのの右足首に暗黒剣を叩きつけた。


 暗黒剣がざっくりと樹木の妖魔の足首に食い込んだ。


 その燃える足首はとんでもなく太い。しかし……。


「通った!」


 暗黒戦士は速やかに炎から離れながら叫んだ。


 暗黒剣を通じて暗黒の蛇が足首の内部へと浸透し、不吉な破裂音とともにその体組織を内側から破壊した。樹木の妖魔は地に膝をついた。大地が振動し塔のユウキまでもが揺れた。


 暗黒戦士が叫んだ。


「ユウキ殿! 樹木の妖魔の額に黒闇石が埋め込まれておるのが見えた! 表面が燃えて露出した今、あれを破壊すれば倒せるはず!」


「いや、そいつは放っておいて、そのまま樹木の妖魔Cに向かってくれ!」


 振動する司令室の中でユウキは、ラチネッタに樹木の妖魔Cを適切な場所に誘導するよう指示すると、さらにその地点に暗黒戦士とゾンゲイル家事用ボディを急行させた。


 そしてさきほどと同様のコンビネーションを実行するよう戦闘員に指示した。


 結果、戦闘員たちは先ほどより危なげなく樹木の妖魔Cの足首を破壊した。


 これで樹木の妖魔AとCを無力化できた。コアらしい黒闇石を破壊しなくても、自動修復が働かないならこのまま放っておいて問題ない。


 それより問題は塔を攻撃し続けている樹木の妖魔Bだ。戦闘員に守ってもらうしかない。


「早く塔に戻ってきてくれ!」


 あと一撃か二撃で塔の魔力が空になりバリアが破られる。


 だがバリアが破られる前に戦闘員が来てくれれば勝てる!


 そう思った瞬間、樹木の妖魔の攻撃によって塔を守るバリアがガラスのように砕けた。


 バリアを突き破った燃えるダンプカーのごとき巨大な拳が塔の六階、司令室を直撃した。


「うげっ!」


 ユウキの悲鳴が遠隔通信によって戦闘員に送られる。


 ゾンゲイルは塔の三階、防衛室の床に座って瞑目し、家事用ボディを遠隔操縦していた。ユウキの悲鳴を聞くなり目をバチっと開けると跳ね起きて叫んだ。


「ユウキ! 待ってて、今行く!」


 彼女は家事用ボデイの操縦を忘れて、闇の塔の螺旋階段を全速力で駆けのぼり六階の司令室を目指した。


「塔が、塔が攻撃されてるべ!」


 暗黒戦士より先に塔に近づきつつあったラチネッタは藪の中から塔を見上げた。


 夕焼け空を背後に聳える闇の塔は外壁の破片を撒き散らしながらも、いまだ健在であった。 


 しかし樹木の妖魔の天を突く巨体が再び拳を振り上げた。


「ユウキ殿!」


 急に活動停止したゾンゲイル家事用ボディを置き去り、暗黒戦士は全力で塔に向かって駆けながら叫んだ。


 あの拳を止めなければならない。


 だが、樹木の妖魔Bは、いまだ暗黒の蛇の射程外だ。


 今、大きく振りかぶられた樹木の妖魔の燃えさかる拳が、凄まじい勢いで塔の六階に向かって突き進みつつあった。


 その拳は外壁に突き当たると轟音を発してそれを打ち破ると、大量の瓦礫を撒き散らしながら司令室の奥深くに突き刺さった。


 その瞬間、戦闘員各員に遠隔通信でユウキの声が届いていた。


「塔主の指輪よ、守れ……!」

いつもお読みいただきありがとうございます。

次回、クライマックスです!

更新は来週月曜、いつもと同じ18時頃です。

お楽しみに!


引き続きレビュー、感想、評価、ブックマーク、心よりお待ちしています!

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