##22 フロでオレみて…コーティング?
薬草を育てている東の奥庭から、丁度反対の西にある使用人入り口へ裏庭を通って帰ってきたイシャス。
入った先は廊下で、右側にリビングと、こちらからは入れないが応接室が、左側に、今は空き室のメイド用ベットルーム、リネン室、洗面所・浴室、トイレとなっている。
半年ほど前から母と部屋が分かれたのを切っ掛けに、イシャスは遊んだりして汚れると、大抵こちらから入り、一人で浴室へ直行している。
掃除や洗濯といった、離れを綺麗に維持する為のメイドは屋敷から来るが、料理や世話をしてくれるメイドをイリアが拒んでいるので、イシャスは一人で支度もするし風呂にも入る。
風呂に関しては、イリアが何度もイシャスが一人で入れるか付き添いをした後の許可ではあるが。
支度の方は、イシャスの行動パターンを知っているメイドが、リネン室の分かりやすい場所や洗面所に、さり気なく用意してくれている物をそのまま着ている。
用意されているイシャスの普段着は、白が基調で、主に紺、赤、青の差し色の物が多く、生地は絹をはじめ質の良いものだが、胸部まで開いているシャツを紐でゆるく、ブーツの様に止めてあり、頭から被って手を出すだけ、という簡単仕様である。
イシャスは廊下越しにイリアに声をかけて、夕食に父が来ると情報を得つつ洗面所へ入り、ウィ―ルをいったん低い方の洗面台で、そっと洗う。
次に、外で泥を払った服を脱いで軽く洗い、洗濯籠へ抛る。
「あ、お湯ためてくれてるー。ん~…今日の服はフチとかひもが赤だったから、シャナさんかなー」
イシャス用サイズの、追加で搬入された猫足の浴槽に魔力を流して――――魔石に触れると自動的に必要量を吸収するタイプの魔道具なので、意識して魔力を流している訳ではないが――――湯をはろうとしたイシャスは、言いながらにこっとする。
カシスとロザリアは常に呼び捨てのイシャスだが、それ以外の人は基本さん付けで呼んでいる。何かの基準がイシャスの中であるのかも知れない。
ウィ―ルを手に浴室に戻ったイシャスは、元々設置されているバスタブの縁にウィ―ルを置く。
「ここでだいじょぶか? ウィ―ル」
「ダイジョブ。イシャスガ、コーティング、シテクレレバ、ユノナカモ、ダイジョブ」
「え、マジで? 湯の中へーきってスゲーな。…ケドなー、魔力でコーティングの仕方がそのまんま過ぎて逆にやり方わかんないんだよなぁ。――取りあえず体洗っちゃうから待ってて、ウィ―ル。あと、一応いっとくと、だいじょぶって正確には大丈夫、だぞー」
「ウン。ワカッタ」
ウィ―ルの説明は、イシャスが魔力でウィ―ルを覆う、とコーティングの言い方を変えただけのものだったので、イシャスはさっぱりしてからコーティングの仕方を探るつもりなのだろう。
魂の記憶のせいだったのか、イシャスはバスタブを湯船のように使用するので、ウィ―ルの返事を聞くとシャワーで湯洗いをし、植物から作られた液体のシャボーンで頭を洗いはじめる。
「――……ダイジョウブ、イッタホウガ、イイ?」
青りんごのような香りのする泡で、頭をシャカシャカ洗っているイシャスに、ウィ―ルはつと口を開く。
「んーんー。わかってればハショっていーんじゃん? オレもあんま正確にしゃべんないしー。――前はこんな口調じゃなかったような……つーか、オレがちゃんとしゃべんないからウィ―ルに移ってんのか? まぁ、オレには通じるからウィ―ルの好きな言い方でー」
「……ワカッタ。ケド、ジャア、セイカクニ、オシエタ、ナンデ?」
「オレ以外と話したとき通ーじないと困んじゃん」
「ナットク」
「ちょっと縮めるくらいなら通ーじるとは思うケドさー……」
頭の泡をそのままに、シャボーンを足して体をあわあわにしていくイシャス。
「――ン? ウィ―ル、ホカノヒトト、ハナス、イイ?」
「いーよ。って、ダメだと思ってたのかー?」
「ウィ―ル、アヤシイ、イキモノ?ダカラ、カクスフツウ?」
「そーなのか? まぁでも、父さんと母さんの反応見てからなー。あ、ウィ―ル、もしウィ―ルの言うとーりでも、父さん達ならだいじょぶだから」
「……ナンデ?」
「ウィ―ルがオレのウィ―ルだから? あー、泡流すからちょっとまって~」
体を洗い終わると同時に、髪の泡が顔に垂れてきたので、イシャスはあわててシャワーの魔石に手をあて、目をつぶる。ついでに顔を洗いながら泡を落としていく。
そんなイシャスを、まるい目をニユアンス的にさらにまるめて見ていたウィ―ルの薬草がほのかに光る。
「――テイチャク、シタ。……イシャスノ、ウィ―ルデ?――――」
「なんか言ったかー? ウィ―ル」
水気を切って振り返ったイシャスは、やはり青りんご系のアロマオイルをバスタブに少し振り入れウィ―ルを見る。
「ウウン。――イシャス、アライオワッタ。ツギ、ウィ―ルコーティング?」
イシャスは程よくぬるくなった湯に浸かり、「あー、それなんだけどさぁ…」と、言いつつ首を傾げる。
「魔力っつーモンがあるってパールに聞いたり、実際見たりしたから、あるのは分かるんだけど……オレの魔力、ってゆーのに実感がナイんだよなぁ」
「――ジッカン? ンー……パール、イワナカッタ? ミル、スキルダッテ」
「あ? あ~…そーいやデコに魔力集めたのがきっかけだけど、見えるのオレのスキルだとか言ってたな」
「ソウ。イシャスノ、スキル。ダカラ、ジブンミル」
「ーは? あー、自分見るって発想なかったよ。なるほど…手でいーか? んじゃあ――」
(――って、まてまてオレ。なんか……負荷がかかって死にかけたオレの脳が警報ならしてる気ぃする。見るって魔力だけじゃないのか? ん~……オレに負荷がかかんない程度に見る、で)
「――あ。お~…見るのがスキルって、鑑定のコトかぁ」
「ソウ。ミエタ?」
「見えた見えた。ゲームのステータスみたいのが」
「ゲーム?」
「あぁそっか。ウィ―ルはパールとちがってオレに特攻してないからオレの記憶みてナイんだっけ。オレも浮かんでくるの全部ハッキリわかる訳じゃナイんだよなぁ…。パールが起きたら聞いてみよーな」
「……ウン。ソレデ、ドウダッタ?」
「なんかいっぱい……これ、ウィ―ルに見えるよーに出来るかー?」
「ウン。ウィ―ルニ、ミエルヨーニ、イシャスガ、オモウ」
「んじゃ、ウィ―ル見てー。オレもちゃんと見よーっと」
『
名・年 イシャス・パルファ・ラル・シャールリア・ファメール 5才
レベル 2 体力 50/60 魔力 138/300
称号 6 ・時空の神メービウースの祝福 ・技術神シャーラ―スの加護
・魔術神マルクリースの加護 ・水の精霊の愛
・緑の精霊の献身 (・導かれた者)
固有スキル ② ・錬成 ・鑑定
希少スキル 2 (・無属性魔術) ・増殖
属性 ・全属性(・無属性)
スキル1 ・錬金術0/10 ・魔法薬0/10 ・採取1/10 ・調薬1/7
スキル2 ・体術0/10 ・棒術0/10 ・身体操作1/10 ・肉体強化0/10
スキル3 ・水魔術3/10 ・緑魔術3/10 ・土魔術1/8 ・闇魔術0/7 ・風魔術0/5 ・光魔術1/5 ・火魔術0/1 ・魔力操作3/10
スキル4 ・魔力回復少
』
「――メービウース様の祝福あるじゃーん。……つーか、なんかまた突っ込みドコありあり。オレの名前ダレだお前ってくらい長いな。ミドルネームがあるってのは母さん言ってたし、父さんが名前は正確に名乗っちゃいけないから、まだ覚えなくていーとか言ってたけど……。あ、これパールとウィ―ルのコトか? おお!錬金術!――…………ウィ―ル、どれ意識すればウィ―ルにコーティングできるんだー?」
「――イシャス、メンドウ、ナッタ?」
「うん。まぁ、それもあるし、詳細みると疲れそーだし? 疲れる前にまずウィ―ルガードだろ。浴室に連れてきといてなんだけど、さっきから温度っつーか湿度っつーか、気になってんだよなぁ…葉っぱとか。それに、手足にしてる根っこ細いからちぎれそーで怖いし」
「チョットクライ、チギレテモ、ヘイキ」
根の手を上下にひょこひょこ動かして、何やら嬉しそうなウィ―ル。
「――そのヘイキって、ケガしてもがまんできる的な? それとも仕様的に平気なのか?」
「シヨウ? ウン。シヨウテキ、ヘイキ。デモ、タクサン、ダメカモ」
「……ちょっとが根元だったら沢山じゃん! すぐコーティングすんぞ。どのスキル?」
「? ウ、ン。ント、マリョクソウサ。イシャス、ムイシキ、デキテル。オモウダケ」
「わかった」
(お、魔力操作意識しただけで魔力の流れわかるじゃん。――回しきれてない魔力、デコに行ってる。まわしきれなくて淀むとダルいのかぁ…ありがとパール)
「――んじゃあまず、乾燥してドライウィ―ルにならないようにだろ。んで、全体的、特に根と葉が傷つかない。あと熱と~…冷気も。あとー…………」
(よーし、後は魔力を思った通りになるよーに流しておおう、と)
イシャスはウィ―ルが両手の間に来るように腕をのばし、信頼しきってきるようなウィ―ルに、「コーティングするぞー」と、声をかけ、ウィ―ルの、「ウン」を、確認し魔力を放つ。
放たれた魔力は青色が多いものの、イシャスが転生の間で見た色付きゆら球たちと同じ7色で、それぞれがまざる事無く、澄んだ宝石をちりばめた様に輝きウィ―ルを包む。
「おおー!キラキラきれーだな。魔力に色付いてんの意外だけど。――んで、どうだー? ウィ―ル」
「――…………マリョクニ、イロナイ。コーティング、イウカ、ケッカイ。シンイキ、レベル?」
「――え」
色々と盛ったため、イシャス初のオリジナル魔術は、とんでもない威力になったようである。




