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九「STAGE4」

「…………でもすべてが起こってしまった事実である以上はすべては本当なのだとも言えると思うし難しいところだよね、まあ難しいことは抜きにして一番大切なことは僕にも君にも命があるわけだし運命だってあるわけ…………」

 はぁっ。いけない、妄想のうわごとを大声でまくし立ててしまっていた。記憶を整理していたはずが、ますますわからなくなってしまった。

…………すた…………すた…………すた…………すた…………

 どうしよう、どうすればいいのだろうか。もう一度しっかりと整理してみよう、私は一年ほど前に『島』を訪れ任期をまっとうする寸前で事故を起こしてしまう、そこでナノマシンウィルスに感染してしまった私は一年後に『島』の病院に呼び出されてふたたび『島』へと向かうことになる。そこで下された病名が『マシンシック』つまり『I・Cチップパンデミック』であり、そしてC・Tスキャンで解析した結果、病気のステージが、ステージが……ええと、こっから先の記憶が、あったはずの記憶が思い出せないぞ、もう一度最初から筋を追って整理してみないといけないのだろうか……


「瀬下さん、治療の時間ですよ」

 はぅっ。御所浦医師。

「今日はどうされましたか? 顔色悪いですね、いけないなあ、これじゃあ治療に差し支えてしまいます」

「医師……いや、せ、先生」

「ん。どうされました」

「あの……その。じ、実は、あの日以降の記憶が思い出せなくなってしまって」

「ん。それはちゃんと日を指定してもらわないとこちらには伝わりませんよ、ははぅ」

「そ、そうでした、その、あの日です、はじめて診察を受けたあの日……」

「ああ、そう言っていただけるとわかりますよ。そうですねぇ、治療のせいですよ」

「治療のせい、ですか。もしかして、あの、電極とかいう」

「ええ、ええ、そう、コレです」

 ギラリ、と光るそれはアイスピックよりも鋭く尖っていた。これを、肉体に刺してしまうなんて……

「そ、そうです、先生、治療、やらなきゃいけませんかねえ」

「ん。そうですね、なら今日はやめておきましょう」

「え。いや、そうじゃなくて、今後も含めて……です」

「え。ははははははぁぁぁぁぁ。それは無理ですよははぁぁ」

「そ、そうですか、怖いです、正直、ソレを刺すのは」

「ええぇへへ、そうかなぁ、チクッとするにはするけれども」

「いやいや、チクッとじゃすみませんって」

「あはははぁぁぁ。でもだいぶ慣れましたけれどねぇ、瀬下さん」

「ええっ。もうまったく記憶になくて」

「まあ仕方ないですね。だってコレ脳みそに刺すんだもの、あなたのね」

「ぇぇぇぇぅ。ウソでしょ」

「嘘なわけないよ。仕方ないですねー。あなた、診察の結果忘れちゃってるんだものねぇぇ」

「ああ、そうです、そうでした。それもなんですけど、ひとつ気になることがあって」

「ほぅぅぅ、それは興味深いですねぇぇぇぇ。なんですぅぅぅ」

「あの……私、初めての診察の時って、作業服姿でしたか」

「それ訊いちゃうぅぅぅぅぅ。ダメです」

「ど、どうして」

「だってそれは、今の治療に深く関わることだから。自力で考えなさぁぁぁぃ」

 うっ。頭痛い。

「大丈夫ですか、瀬下さん。だいぶ治療がこたえてますね、仕方ない、今日はお休みしましょうね」

「は、はい……ありがとうございます」

「それでは、ゆっくりお休みください」

「先生……」

「はい、どうされましたか」

「あの、ちょっと忘れてしまって。これは訊いても大丈夫ですかね」

「ん。もしかして診察の結果ですか」

「そう、そうです、それです」

「ええ。誠に残念ですが、瀬下さん。あなたはC・Tスキャンの診察ですでに『STAGE4』の段階にありました」

「ええぇぇ、そうだったん、ですか……」

「ええ、残念ですが。もう既に大きなI・Cチップがあなたの脳みそのなかにしっかりと癒着してしまっていました」

「……そうでしたね、脳みそ、か」

「しかしですね、瀬下さん、本来一番治療の難しい場所であるはずのしかも巨大な『STAGE4』のI・Cチップですが、しかし不幸中の幸いですね、世にも珍しいまったく未知のケースであったがゆえに、国家が予算を出し惜しみすることなくですね、あなたは、自らの意志で、研究クライアントとして協力してくれることに承諾してくれました」

「え。それもまったく記憶にありませんでした」

「ええ、仕方ないです。功もあれば罪もある。あなたは世界的に鑑みても、医療の最先端に立っているのですからね。しかしです、研究を続けていくうちに、これも幸いでしたが、あなたのケースは実は今世界を陰惨に覆いつくしているこのマシンシック、つまりI・Cチップパンデミックに対して、希望の光となりうる未来への可能性を秘めていることが序々に判明していきました」

「未来への可能性、ですか」

「ええぇぇぇぇ」

「それは……」

「まあ、皆まで言わせなさんな。治療によって記憶は今みたいに忘却したりこんがらがったりです。まあしかし、今の治療のおかげで、あなたは世界を救う可能性をもっています」

「どういうことです」

「まあ、じっくり話したところであなたはきっと忘れます。でもね、ひとつだけ言えるのは、あなたにうずまった脳みそのなかのI・Cチップは、このアイスピックのような電極治療によって、通常考えられないような非常にダイレクトな作用を引き起こすことができました。そのおかげで、まあ、簡単な話、パンデミックの特効薬、つまりワクチンとなりうる情報を引き出すことができたわけです」

「それは事実です」

「ええぇぇぇもちろん。あなたは後進国のある地域をまるまる救うことすら叶えましたから」

「まさか」

「いえ、そのまさかです」

「なんてことだ」

「ええぇぇ。あなたの身体はあなたのものであって、もはやあなたひとりのものではなくなってしまったのですねえ」

「なんだかつらい気もしますね」

「そうです、英雄は孤独なのですよ。しかしです、それだからこそ、あなたは是非とも、今続けている研究を果たしていかなくてはなりません、それが、あなたと、わたしとが結んだ、世界への約束であり、使命なのですから」

「……っはぁぁぁ」

「まあ、嘆いてしまう夜もあるでしょう、朝が来ないと信じこんでしまうことも。でも、続けていくことに、すべては繋がっているのです。ともに戦いましょう、そして、勝ちにいきましょう。まあ、今日のところはゆっくりおやすみなさいな、るるるるるぅぅぅぅ」

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