鳩は鳩らしく……
その忌まわしい血文字を目にしたおれの心は、歓喜に沸き上がった。
これは、むしろ好機だ。影のように姿を見せなかったは31号の、確かな痕跡が見つかったのだから。
「は303号、キング・ホワイトスネイクのマーキングはこの一つだけか?」
「……」
「答えろ、は303号」
若い情報鳩はしばし呆然としていたが、すぐに平静を取り戻し言う。「いいえ」
「他のマーキングは、どこに」
「そうですね、鳩軍中野学校が把握しているものだと、この近辺にあと3つあるはずです。しかし……」
「サーチに引っかからない、のだな」
「はい。おそらくここと同じく血文字で上書きされているのでしょう。探すとなると、目視しかありません」
目視か。やっかいなことになったものだ。
「中野学校の方では、マーキングの場所を把握してはいないのか?おおまかなものでも……」
「いえ、そこまでは。なぜなら彼らは我々に情報を押さえられることを嫌って、頻繁にマーキングの場所を変更していますからね」
「なるほど……」
「過去のデータであれば、取ってあります。少しは参考になるでしょう」
そう言っては303号は、HUD上にマップを映し出した。
様々な色のピンが穿たれている。それを見て、おれはげんなりした。
細かすぎる。おれの鳩らしい頭にとってそれは、ただひたすらに煩わしいだけの光景だ。
「ここから法則性を見いだせれば、現在地も割り出せるでしょう」
情報鳩は、得意げに言う。
「だろうな、しかし……それにはどれくらい時間がかかる?」
「3時間あれば。中野学校の情報部と連携を取り、分析を開始しましょうか?」
「いや、それもいいのだが……目視でいい。飛ぼう。それが鳩たる我々のやり方だ。なんのための翼だ」
「では、わたしの存在意義は……」
「時は一刻を争う。ぐずぐずするな、行くぞ」
「はい……まあ、とりあえず学校の方にも協力を仰いでみますから、飛びながら分析結果を待ちましょう」
「ああ、それがいい」
そうして我々は、鳥本来の機能をフルに発揮して、大空に飛び立った。
その時ーー