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ボロスとピヨのてんわやな日常  作者: つるめぐみ
~てんわやな日常(街編)~
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7.トリオ・ザ・ワンニャピヨ

〇月△日(晴れ時々曇り)午前十時


 日がな一日、たまにはのんびりしたい時も野良猫にはあるわけで。

 しかし、餌を得なければいけない俺たちに、そんな機会は滅多にないわけである。

 昨晩、居候をさせてもらったのは西田家だ。ここは父親と母親、小学三年生の少年の三人が住んでいる。

 時々、少年の友達が来たりするが、俺は煩いのが嫌いなので隠れることにしている。

 昨晩は、西田家の少年が置いてくれていたドライフードをいただいた。

 缶詰のほうが俺は好きなのだが、ここはいつもドライフードだ。

 だから、たまにきて、西田家の少年にわかるように鳴いて餌の催促をする。そうしたら貰えるのだ。

 すこし残ったドライフードを口にして、俺は昨日のことを考えていた。

 昨日は散々な一日だった。

 タマゴかけおかかご飯はピヨが生まれたことでおかかご飯になり、生まれたばかりのピヨに煮干しまで取られ、ピヨが発端でクロに喧嘩をうられるわ、愛奈の特等席はピヨに取られるわ。

「全部、お前のせいじゃないかああ!」

 そうだ、昨日は朝から晩までピヨ尽くめだったのである。

「俺さまの威厳が……たった一日でニャン威厳からピヨ威厳に……」

 ピヨも目覚めたのか、俺の顔を見て「ピヨ」と鳴いて首を傾げる。

 安穏とした生活が、ピヨのせいで激しい変化をしてしまった。

 俺は猫だ。猫は日常生活が変化するのが嫌いなのだ。居候している家の家具が動かされただけでショック受けんだぞ。俺たち猫は繊細にできているんだ。グレートハイパーミラクルピュアなのだ。

 そう思っていると、ピヨが不用意にも背中を見せる。これはいける。今日こそ背後からパクリと食ってやる。

 これで、てんやわんやな日常も終わりだ。この物語も本日完結だ! 

 と、思って突撃した瞬間、ピヨが勢いよく土を掘りはじめ、背後にいた俺は土を思いっきり受けた。

「うぎゃああっ! 目が目がー!」

 俺が叫んでいるのもお構いなしに、ピヨは掘ることに夢中である。

 おいおい、何を考えてんだ。地球の裏側にまで行くつもりか?

 目に入った土を取って仕方なくピヨを観察していると、ピヨが得意げに鼻を鳴らして振り返る。そのくちばしにはミミズがいた。そのミミズを地面に置く。

 そして、再び穴掘りを開始し、今度はムカデを掘り出す。そのムカデは隣に並べる。

 これは何? 食べるんじゃなくて掘るだけ? ピヨの趣味のひとつなのか?

 そう思っていると、今度はカエルの死骸を見つけて隣に並べる。

 俺がグルメだしピュアだ。だから、こんな物を目の前に並べられると気持ち悪くなってくる。その時、ゴソリという何かが動いた音がした。

「それはカラスが隠した餌だよ。もとに戻さないと、突かれるからやめたほうがいい」

 そういえば、いつも小屋の中にいるので忘れていた。西田家にはもう一匹家族がいる。それが今、俺たちに話しかけてきたボストンテリアの虎ノ介だ。

 名前の由来は毛色らしい。年は十二歳である。そのためか、白髪混じりになったその顔には番犬としての威厳は感じられない。

「猫とヒヨコが一緒なんて、面白い組み合わせだね。君、なにか芸はできる?」

 なんとも犬らしい質問に、ピヨは女子高でやったラジオ体操を披露しはじめた。

「すごいなあ。僕は腰が痛いから、もうそこまで動けないや」

 マイペースな虎ノ介はのほほんと答えると、また小屋に戻ろうとする。

 その時、勢いよく玄関が開き、西田家の三人が外に出てきた。俺は見つかると煩そうなので縁側に隠れる。ピヨも倣うように入りこんできた。

「虎ノ介、今日は留守番よろしくな」

 少年に撫でられて、虎ノ介は尾を振って応える。けれど、一緒に出掛けられないので寂しそうだ。

 不思議なことに犬ってのは、飼い主に何処にでもついていきたいみたいだからな。俺たち猫には考えられない。

 親子三人は車に乗ると、そのまま走り去っていった。虎ノ介は飼い主が見えなくなるまで、ずっと鼻を鳴らし続けていた。車が見えなくなると尾と耳を垂れ下げ、残念そうに小屋に戻ってくる。

「幸太、お土産買ってきてくれるかな。ササミジャーキーがいいんだけど……できたらソフトタイプで」

 ポジティブな奴だな。だから長生きしているんだろうけど。虎ノ介は水を飲むと、また俺たちを見た。

「ねえねえ、ボロス。なにか面白い話をしてくれよ。それ聞きながら寝るから」

「面白い話で寝るって、それかなり難易度高い注文だと思うのですが!」

 思わず突っこんでしまった。すると、虎ノ介は笑ったような表情を見せる。

「んふふ……やっぱりボロスは面白いや。尾も白い」

 と言いながら、虎ノ介は自分の尾を見せる。

 ――いや、お前の尾は白くないよな? それにそのネタは結構、使い古されているし。

 やっぱり俺はこいつが苦手だ。また長話に付き合わされそうだから、出掛けるとしよう。

 そう思っていると、正装した男が来て西田家のチャイムを押した。

 当然、家主は出掛けているので出てこない。そのため、諦めるのかと思いきや、男は辺りを見回しつつ西田家の庭に入る。そして、窓を叩き割っていたのだった。

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