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ボロスとピヨのてんわやな日常  作者: つるめぐみ
~てんわやな日常(街編)~
6/59

5.学校へ行こう

〇月×日(晴れ)正午


 猫の語源は「寝る子」からだと聞くが、俺はどちらかというと他の猫より行動派である。

 俺は日が高くなったのを見て、女子高の前に来ていた。校門は閉まっているが、鉄柵でできているため、俺たち猫は簡単に出入りすることができる。

 ただし、この時間帯は生徒がうろうろしているので、見つかって追い出される可能性が高い。前なんて体育教師に追いかけられて大変だった。そのため、得意の忍び足を遣う。

 そんな危険を冒してまで何故、女子高にきたのか。それは女子高生に甘えたいとかいう下心があるからではない。この女子高には俺を飼い猫のように優しく扱ってくれる子がいる。俺は、その子が昼食を食べるポイントに向かっているのだ。

「あっ、チョビ!」

 角を曲がろうとすると、声をかけられた。

 声の主が俺を飼い猫のように優しく扱ってくれる子、高校二年生の愛奈である。この子には名前をチョビとつけられている。

 いつも愛奈は自転車置き場の近くにあるベンチで、ひとりで食事をしているのだが、その理由を俺は知らない。餌をもらえるから、俺はそのほうがいいんだけどな。

「チョビ、いつもの場所で食べるから、こっちにおいで」

 愛奈に手招きされたので、俺は「にゃおん」と答えてついていく。その途中で、

「あれ? 背中にいるのって……ええっ! なんでヒヨコ背負ってるの? かわいい」

 愛奈に早速、ピヨを見つけられた。愛奈は、ピヨをそっと両手で持ちあげると優しく胸に抱く。

 ――あれっ、そこは俺の特等席のはずなんだけど。なんで、お前が抱かれるんだ? しかも、ピヨの奴、やけにおとなしいし。つつくんじゃないの? どうしてつつかないんだ?

 ピヨがちらりと俺のほうを見る。勝ち誇った目に見えたのは俺の気のせいだろうか。

 いやいや、決して嫉妬しているわけじゃないぞ! 

 前にも言ったが、俺は下心があってここにきているんじゃないんだ。けど、なんか腑に落ちないというか。なんというか。

「けど、なんでチョビは食べないの? わかった。チョビは優しい猫さんなんだね」

 愛奈が優しく俺の頭を撫でてくれた。

 すこし愛奈の考えには誤解があるようだが、撫でてもらえたので今は良しとしておこう。

「今日は、チョビのためにタマゴ焼きを持ってきたんだけど……ヒヨコがいるのに変な感じだね。ヒヨコは確か、生野菜や果物が平気だったはず」

 小さく切ったイチゴを渡されたピヨは、それをつつきはじめた。俺ももらったタマゴ焼きを食べる。朝にタマゴかけおかかご飯を食べるはずだったのになあ。

 そう思いながら、ピヨを見ると睨みつけられた。いや、これも俺の気のせいか?

 そこで俺は気づいた。そうか、ピヨの瞳からは感情がまるで読みとれないのだ。

 ――ということは、どうしたらいいんだ? どうやってぱくりと食べるスキを見つけたらいいのよ?

 難題に悩みかけるが、猫の悩みは口の中にあるタマゴ焼きを咀嚼することで、解消されたりするのである。

「美味しい? しらすが入ってるんだよ」

 愛奈の愛情たっぷりのタマゴ焼きに、俺は「にゃおん」と返事をする。ピヨもイチゴを食べてご満悦のようだ。

 こうしていると、ピヨはニワトリにして食べたほうがいいかもなと思えてくる。

 じっくりとタマゴ焼きを味わった俺は一息吐く。その時だ。数人の足音を俺の耳が捉えていた。

 音の根源を見ると、三人の女子高生がこちらに向かって歩いてくる。それを見た愛奈が、慌てた仕草で弁当箱を片付けはじめた。

「ごめんねチョビ、今日はこれで――」

 しかし、走り寄ってきたひとりが愛奈の腕を強引につかむ。

「おい愛奈、学校に猫を入れちゃいけないってことはわかってるよなあ?」

「きったねえ猫。あんたにそっくりじゃん。ペットは飼い主に似るってほんとだな」

「黙っててやるから、ノートを渡しな」

 いつの間にか俺たちは三人の女子高生に詰め寄られていた。猫の俺でもすぐにわかった。これは、いじめというやつじゃなかろうか。

「ノートって言われても……勉強は自分でするものだから」

「でたっ、馬鹿真面目! けど、猫を入れている時点で、あんたは終わってるんだよ。変な言い訳せずに渡しな」

「変な言い訳って、だって、勉強を自分でするのは当り前のことじゃ……痛い!」

 真ん中にいる女子高生が嫌がる愛奈の腕を更に強くつかんで引く。猫の俺ではどうしようもできない。どちらが正しいのかだってわからない。その時だ。

「あっ……」

 俺は思わず声を出す。多分、人間には猫の鳴き声にしか聞こえないのだろうけど。

 俺が声をあげた理由。それは、愛奈をいじめる親玉の頭の上にいるピヨが見えたからだった。

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