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ボロスとピヨのてんわやな日常  作者: つるめぐみ
~てんわやな日常(街編)~
4/59

3.食べちゃいたいんです

〇月×日(晴れ)午前八時半


 一時間ほど寝ただろうか。俺は鼻にあたるこそばゆい感触で目が覚めた。

 目の前にはピヨがまだ目を閉じて寝ている。どうやら、その羽根が鼻にあたったらしい。警戒心があるのかないのか、よくわからない奴だな。

 大きく伸びをすると、ピヨも起きたのか体を振った。その時、「おじいさん、おじいさん」という声が聞こえた。どうやら佐藤宅の婆さんが俺たちを見つけたらしい。

「ほら見て、シマの近くにヒヨコがいるのよ」

 シマとは佐藤宅で呼ばれている俺の名前だ。ちなみに最初に自己紹介したボロスの名は、俺が仲間に呼ばれている名前である。

 のんびりしていると婆さんが騒ぎそうなので、すぐ出掛けることにする。

 取り敢えず、朝飯の礼はしておこうと思って、婆さんに「にゃおん」と、ひと声だけ答えた。返事をすることで次の日も餌をくれると、頭の良い俺は知っているのである。

 近くではカラスが鳴いていた。ピヨは俺の餌になる予定があるのだから、カラス野郎に食われるのは我慢ならない。

「おい、出掛けるぞ。背中に乗れ」

 仕方がないので連れて行くことにする。俺の命令を聞いたピヨは、首を縦に振ると背中に乗った。

 しっかりと足を踏ん張り、くちばしで俺の毛をくわえている。これなら落ちなさそうだなと確認すると、俺はそのまま駆けた。

 出掛ける理由は、なわばりの確認だ。餌場が荒らされたり、取られたりするのは俺たち野良猫にとっては死活問題である。それなので一日も怠るわけにはいかない。

 垣根を抜け、車道を渡り、女子高の前を通ると甲高い声に囲まれた。

「見た今の?」「写真撮った!」という女子高生の声があがっても無視だ。

 何故なら、彼女らには食べ物の匂いを感じないからだ。そう、俺たち野良猫は現金でないと生きられないのである。

 そのまま、目的の場所である商店街に向かう。そこに行く途中の裏道で、

「おっ、ボロスじゃねーか。なんだそれ? 背中についているのは何だ?」

 黒ぶちのカギに声をかけられた。カギの名前の由来は尾が折れ曲がっているからだ。

 三歳のこいつは俺と同い年で、捨てられた直後に出会った仲間だ。

 腹が空き、微かな食べ物の匂いに惹かれて商店街に辿りついた時、こいつは魚屋の親父から干物を貰っていた。

 座って「にゃあ」となけば、すぐにくれるぜ。そう言われて、俺も真似すると食べ物にありつけたという訳だ。

 他の奴らがそれを見て真似をするようになると、魚屋の親父からは、餌をもらえなくなってしまったのだが、カギは諦めなかった。

 座って手招きをしたのである。その技で餌を独占し、他の猫たちの追随を許さなかった。つまり、カギは餌の確保に関しては天才なのである。

 そのカギが俺の背中に乗っているピヨを興味深そうに見る。カギに見つめられたピヨは首を傾げると、一回だけ「ピヨ」と鳴いた。

「これは精巧にできている玩具だな」

 そりゃそうだ。その答えが出るだろう。だって、この俺さまの背中にヒヨコがだ。生ヒヨコがいるんだぞ。天地が逆さまになってもあり得ない。

「目に入れても痛くないというか、口に入れて食べちゃいたくなるくらい可愛いな」

 そうですカギさん。今すぐにでも食べちゃいたいんです。どうしたら美味しくいただけるのでしょうか。知恵をください。

「お前、さっきから挙動不審じゃないか?」

 そんなふうに思っていることも口にできず、俺はカギの鋭い指摘に顔を何度も横に振る。ばれたら確実に、おすそわけしないといけないからな。

「そんなことよりもカギ、はやく魚屋に行こう。遅くなると餌にありつけなくなるぞ」

 なんとか話題を変え、いつものように二匹並んで魚屋に向かう。時々ピヨを見るカギの視線が気になるが、今は無視だ。

 魚屋に着くと、既に仲間が集まりはじめていた。こうなると、魚屋の親父も餌をくれる可能性が少ない。割りこみするのもなんなので、仕方なく後ろで待つことにする。

 その時だった。親父が俺を見て釘付けになる。

 そして、かまぼこを放り投げてきた。俺の目の前に落ちたかまぼこは俺の口へ――。

 と思ったら、ピヨが俺の頭から飛びおりて、かまぼこを飲みこんでいた。

「おわああっ! お前、俺のおかずの煮干しだけじゃなく、かまぼこまで! どういう了見だ、こらあ! もうここで食ってやるぞ」

 ピヨに向かって怒鳴ると、人の気配が間近にきたのに気づいた。

 魚屋の親父が笑みを浮かべながら、俺に店頭で焼いていた、ししゃもをくれる。

 かまぼこより、ししゃものほうが好きだし、美味いし、今日のところはピヨを許してやろうと思った時だ。

「おい、ボロス。なんか面白いものを連れているじゃないか」

 ドスのきいた声に気づいて顔をあげると、そこには他の猫たちより体格のいい黒猫がいた。

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