アイギス
ースティーツは名を変えている可能性がある
ー気をつけろ、奴も魔術師だ。お前たちでも太刀打ちできるか…。
先ほどの自分の発言を撤回するべきだと捜査員
ルイスは思ったのだ。
なぜならあの探偵は
ーやってやりますよ、我々はそういうの慣れっ子ですし。
笑っていたのだ。何度も経験しているのは嘘ではないようだ。
「おかえりなさいませ。」
車のそばに運転手であり、自分の部下であるアイギスがいた。
「すまないな。なにせいい探偵が見つかったもんで」
「それはそれは。我々の捜査も順調にいきそうですね?そうですよね?」
「そうあせるな。相手に迷惑はかけたくないしな」
「…申し訳ありません」
すこし暗くなった女性だがすぐに気を取り直し、車を発車させた。
さっきまで制止していた街並みが動き出す。
それらを横目にルイスは彼女に少し問うたのだ。
「なあ」
「なんです?」
「お前、今回の依頼はかなりやる気のようだがなにかあったのか?被害者に知り合いがいたとか
変な正義感に目覚めたとか」
「ないですよ」
ハンドルを握る力が強くなる。
苦笑が混ざっているような答えに眉をひそめながらもそれ以上は追求しないほうがよいと自身に言い聞かせ、
「ああ、そうか」
そっけない返事で済ませた。
アイギス自身何も感じていないわけではない。
ただ一人の魔術師が起こしたであろう事件のせいで関係ない人たちを巻き込むのがいやなだけなのだ。
そして今自分はなにもできていない。役立たずなのだ。
ーわたしがやらなきゃ。ルイスさんも探偵さんも関係ない。誰一人傷つけさせない。
すれ違った男性が誰かに似ていたようだか気にしない。
いま、やれるのは車を運転し、上司を安全に送り届けるだけなのだから。