白の妹
司視点です
視点がコロコロ変わってすみません泣
鳥の声が聞こえる……。僕はゆっくり起き上がり、いつものように白いカーテンを開ける。
ピピピッ――。
鳥のさえずりが大きくなると同時に、いつもと同じ眩しい光が僕を照らす。ベッドで寝ている時より何倍も暖かい。最近はこの暖かさに触れたくていつも起きてしまうが、昔は朝起きるのが苦手だった。だって、目が覚めると昨日のことを思い出すから……。昨日も一昨日もその前も――僕はベッドの上で眠っている。いつも変わらない日々を過ごしている。朝起きると僕がいつもここにいるということを思い知らされる。でも、こうして太陽を見ると、そんな小さなことはどうでもよくなってしまう。太陽は僕の友達……なんてね。
これが僕のいつもの朝。そして、僕にはもう1つ太陽がある。暖かくて、いつも側にいてくれる存在。いや、太陽はいつか沈んでしまうから、月と言った方が良いのかな。どんな闇の中でも一筋の光を差し込んでくれる……そう、僕の月みたいな存在。太陽と月が僕を生かしてくれてるんだ。
コンコン――。
噂をすれば……。扉を開けて入ってきたのは真っ白なワンピースが良く似合う、僕の妹の藤城裕香。
「おはようございます、お兄様。今日もお早いですね」
「おはよう、裕香。うん、今日も晴れたから」
「雨の日はなかな起きませんものね」
「あはは。ごめんね」
「だからこそ、私がこうして起こしに来る甲斐がありますから」
そう言って微笑む裕香が窓を開けると、整えられた艶やかな髪が風でふわりと揺れる。
「今日はどうされますか? 良いお天気ですし、お散歩でもしますか?」
「そうだね」
「では、まずは朝ご飯にしましょう」
裕香に手を引かれ、僕はゆっくり歩き出す。今日みたいに調子が良い日は1人で外出したこともあるが、急に倒れて大騒ぎになったことがある。それからは裕香がずっと僕の世話をしてくれるのだ。僕も今年で17歳。急に倒れることは少なくなってきたが、せっかくなので今でもこうして裕香に甘えている。
外に出てみると意外と肌寒く、裕香が上着をもう1枚持ってきてくれた。
「お待たせしました。それでは参りましょうか」
ふと、裕香が上着と一緒に真っ白な傘を持ってきたことに気付く。
「裕香、どうして傘なんて持ってきたの? こんなに良いお天気なのに」
「もしも雨が降った時に、傘がなかったら大変ですわ。お兄様が風邪をひいてしまいますもの」
「そっか、ありがとう。」
裕香は良い意味でも悪い意味でも、僕のことを本当に見ていてくれる。それはとても嬉しいことだが、裕香にはもっと自由でいてほしいとも思ってしまう。そんなことを考えていると、珍しく裕香の日に焼けていない真っ白な肌が仄かに赤く染まる。
「……それに、この傘はお兄様がくださったものですもの。肌身離さず持っておきたいのです」
「ありがとう」
「お兄様、先程から『ありがとう』ばかりですわ」
「はは、そうだね。」
僕と裕香は笑い合った。こうして暖かい光の中で裕香と過ごすのは久しぶりだった。
少し歩いてから、僕達は公園で休むことにした。休まず歩くと僕が急に倒れてしまうかもしれないと、裕香がしつこく心配するからだ。ベンチに乗っている落ち葉を手で払い、ゆっくり腰かける。
「お兄様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。……裕香、いつもありがとうね」
「何ですか、突然。そう言われると照れてしまいますわ」
「だって、もっとやりたいこととかあるでしょ。なのに、僕のために……」
執拗に僕の体調を気にする裕香に、無性に僕の本心を伝えたくなった。将来、藤城家の長男として表に立たなきゃいけないのは僕のはずなのに、厳しく教育されているのは裕香だった。自分の体をどうすることもできず、全て裕香に任せてしまっている。
「そんなことありませんわ」
「私が1番したいのはお兄様と一緒にいることですもの。こうしてお兄様と少しでも長い時間一緒にいられるなら、他には何も必要ありませんわ」
そんな僕の気持ちとは裏腹に、裕香から返ってきたのは意外な答えだった。
「僕も裕香のために何かできることがあると良いんだけど……」
「では、約束してください」
「約束?」
裕香はいつにない満面の笑みを浮かべている。
「遊園地! お兄様の体調が良い日に2人で遊園地に行きましょう」
そういえば学校や習い事で忙しい裕香は遊園地に行ったことがない。勿論、体の弱い僕は遊園地どころか動物園や海にすら行ったことがない。
「うん! 約束……」
「約束ですよ?」
互いの小指を絡めて、僕達は指切りをした。叶えられるかどうかは正直まだ分からないけれど、叶えたいと本気で思った。
「そろそろ帰りましょうか。今日はいつもよりたくさん歩きましたし」
「うん、そうしようか」
ベンチから立ち上がろうとした時、僕は少しふらついてしまった。
「お兄様!」
咄嗟に裕香が僕を支えてくれる。調子が良い時でもこんなことがあるから、僕は1人ではいられない……。
「大丈夫ですか? ごめんなさい、歩き過ぎてしまいましたね」
「ううん。大丈夫。ごめんね」
裕香に支えられながら僕はゆっくり歩き出す。さっきみたいに裕香には笑っていてほしいのに……。そんなことさえ満足にできない。
裕香との帰り道――。あんなに良い天気だったのに、ふと空を見上げると太陽は薄い雲の中に隠れていた。終いにはポツポツと雨が降り出し、裕香が真っ白な傘を開く。
「やっぱり傘を持ってきて正解でしたわ」
僕達は真っ白な傘の中でいつも以上にぴったりくっつきながら、さっきよりもゆっくりと歩いていく。
雨は少しずつ強くなり、裕香の肩がびっしょり濡れていた。早く隠れた太陽が顔を出さないかと思うが、一向に晴れることはなかった。
コホコホ……。雨が強くなるに従って、僕の体調は悪くなっていく……。
「お兄様、本当に大丈夫ですか? 無理なさらないでください。お迎えを呼びましょう」
「ううん……。裕香とこうしてお散歩するの久々だから。もう少し……こうしていたい」
「お兄様……」
裕香は小さく笑ってくれた。裕香が笑ってくれるだけで……それだけで良い。裕香は僕にとって月であり、太陽でもあるのだ。
裕香を心配させまいと思うものの、咳が止まることはない。
「はあはあ……」
いつもより咳が止まらず、僕自身もどうすれば良いか分からなかった。
「お兄様、やっぱり、お迎え呼びますね……」
雨が僕達の時間を邪魔する。
ゴホゴホゴホッ……。
とうとう立っているのも難しくなり、僕は胸を押さえながら膝をつく。
「もしもし? 今すぐ、迎えに来て頂けますか!? できるだけ、早く!」
電話を切ると、裕香は倒れそうになる僕を必死で支えてくれた。
「お兄様、しっかりしてください。お兄様!」
裕香の声は聞こえるが、思うように力が入らない。咳き込みながら裕香にもたれかかると、真っ白な傘が地面にふわりと落ちた。僕と裕香は雨に晒され、裕香の真っ白なワンピースが徐々に変色していく。
「裕香、ワンピースが……」
「大丈夫ですわ。すぐに、お迎えが来ますからね」
裕香が泣きそうになりながら、僕に声をかける。雨のせいで裕香が泣いているのか、空が泣いているのか分からない……。
「お兄様、お兄様。しっかりしてください」
「だ、大丈夫だよ……」
「お兄様の大丈夫は信用できませんもの……。いつも無理ばかりして」
「へへ、ごめんね……」
僕達の周りを歩く人々は、チラチラとこちらを見ているが声をかけようとする人はいない。近づこうとする子供を無理矢理抱き上げて去っていく人すらいた程だ。
「約束、守ってくださいね。遊園地に行くって……。私、楽しみにしていますから」
「うん……」
手足だけではなく、目にも力が入らない……。徐々に裕香の声が遠のいていく。
「お兄様、約束で……ね。お兄……! 迎えが来ま……。もう大丈……」
真っ暗な闇の中、裕香の声と車の音だけが聞こえた気がした。
「お……様!」
また、目を開ければいつもと同じ部屋にいて、カーテンを開けて光を浴びる。そして、裕香が僕を起こしにくる。そう信じて、僕は眠るように目を閉じた……。
ふと目を開けると、そこには真っ白な少女がいた。僕は急いで立ち上がった。
「裕香!!」
「おはヨウ」
真っ白な少女は裕香ではなく、レイさんだった。真っ暗な空間……ここは世界の間だ。辺りを見ると巡也が倒れていた。
「ううっ……」
僕が駆け寄ると、巡也が目を覚ます。
「おはヨウ」
レイさんがさっきと同じように声をかける。
「今のは……?」
巡也が問いかけると、レイさんは表情を一切変えずに答えた――。
「それは君達の記憶ダヨ?」
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