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赤の妹

 誰かが俺を呼んでいる。小さな声がする。誰だ、この声は……聞いたことある声だ。いつも聞いていた、女の子の声……。

「お兄ちゃん!」

「うわっ」

 耳元で急に叫ばれて俺は飛び起きた。目の前に広がっているのは服や本が散らかっている俺の部屋。そして、ベッドの側で仁王立ちしている、茜。

「何だ、茜か……」

 俺がもう1度布団を被ろうとした途端、茜に布団を奪われる――。

「もう、早く起きてよ。一緒に行くって約束したでしょ」

「約束?」

「ええ、忘れちゃたの? お兄ちゃん最低! 今日遊園地連れて行ってくれるんでしょ!」

 そういえば、この前……茜の誕生日を忘れた代わりに遊園地に行くって約束したっけ……。

「お兄ちゃんのバカ! そんなんだから、彼女できないんだよ! バーカバーカ」

「ごめん、ごめん」

「ごめんじゃないよ! もう、本当にお兄ちゃんってむかつく! 私が妹じゃなかったらお兄ちゃんなんか家を追い出されてるよ!」

「じゃあ、茜が妹でよかったー」

 茜の言っていることを否定できず、褒めに転ずる。

「な、何よ! そんなこと言っても、許さないんだからね!」

「はいはい、すみません。すぐ準備するから」

「早くしてよね! 私もまだ準備あるから終わったら降りてきてね!」

「はーいはい」

 バタン――。

 茜は言いたいことだけ言うと、さっさと部屋から出ていった。こういう自分勝手なところがあるものの、兄の俺が言うのもあれだが茜は結構可愛い……。実際に告白されたと自慢してくることも少なくない。俺がそういうことに無縁だからこそ、自慢してくるのだ。まあ、色々思うところはあるが、茜は俺が気を遣わずにいられる唯一の存在だったりする。

『早くしてよ――!!』

 1階から叫んでいるのか、茜の声が聞こえてくる。茜をこれ以上怒らせると怖いので、俺は急いで準備を進める。


 

 俺達が来た遊園地は人気があるらしく、予想以上に大勢の人で賑わっていた。俺は人込みがあまり好きではない。しかし、幼い子供みたいに目をキラキラさせている茜を見ると、そんなことは言えない。

「私、ジェットコースターに乗りたい! 1回じゃ物足りないから3回くらい乗ろうね」

「さ、3回!?」

「あと、コーヒーカップも乗りたい! 私がグルグル回してあげるね。それから急流すべり・お化け屋敷・観覧車……もう、全部乗ろう!」

「そんなに!?」

 茜はニッと歯を見せて笑みを浮かべると、俺の手を取ってものすごいスピードで走り出した――。アトラクションに乗るから頭がクラクラする……。


 ほとんどのアトラクションを満喫した頃、俺は歩くのがやっとだった。様々なアトラクションで絶叫していた茜より、明らかに俺の方が疲れ切っている。どうやら茜も満足したようで、ようやく帰る気になったらしい。今回も絶叫アトラクションが苦手という秘密を守りきれた。

「ああ、楽しかったー。ありがとね、お兄ちゃん。これで私の誕生日忘れてたこと許してあげても良いよ」

「そりゃ、良かった」

 こうして普通に話をして、一緒に遊んでいられるのは茜だけだ。決して、シスターコンプレックスではない。でも、ただ一緒にいることを認められるのは茜だけというのは事実だ。他人のことに興味はないが、茜だけは「傷つけたくない」という感情が介入する。たぶん、俺にとって茜は他の人とは違うのだろう……。勿論、こんなことを本人に言ったことはない。

「あ、雨……」

 ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。俺がぼんやりと空を見ていると、目の前が真っ赤に染まった。

「はい、こんなこともあろうかと傘持ってきたんだよ。私、女子力あるでしょ?」

「はいはい、ありがと」

 俺と茜は真っ赤な折り畳み傘の中、小さくなりながら一緒に入る。他人から見れば俺達はカップルに見えるのかもしれない。

「茜って、赤い色好きだよな」

 俺はふと茜に聞いてみた。幼い頃から茜は赤いものが好きだった。洋服にしろ、家具にしろ、何かにつけて赤いものを持っていた。

「うん、大好き。お兄ちゃんは覚えてないだろうけどさ。昔、私が洋服買う時に悩んでたら『茜には赤が似合う』ってお兄ちゃんが言ってくれたんだよ?」

「そっか。全然覚えてないや」

「でしょうね」

 それから茜は俺の幼い頃の話を始めた。俺は幼い頃から何となく生きていたみたいで、茜の話すことも覚えていないことが多かった。俺が覚えていない俺自身のことを茜が覚えているのは、何となく変な気持ちだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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