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「もう死ぬことはないって。俺達はもう……」

 俺は、俺の中で出た答えをどうしても言葉にできなかった。

「それはお前の頭でも理解できたか」

「じゃあ、吾郎さんがここにたくさん送ったっていうのは……」

 「それは」と強調した吾郎のおかげで、俺はようやく司や吾郎さんの話を理解し始めた。それと同時に、吾郎さんは静かに小さく笑い続ける。俺はどうすれば良いか分からず戸惑っていると

「巡也、行こう!」

 と司に腕を掴まれ、走ることを強要された。吾郎さんの姿はみるみるうちに小さくなり、終いには闇の中に消えていった。ただ、姿は消えても尚、吾郎さんの低い笑い声だけは頭から消えることがなかった――。



 俺と司は、吾郎さんの笑い声が聞こえない所まで、ずっと走り続けた。何度声をかけても止まってくれなかったが、何も聞こえなくなったところでようやく司が足を止めた。

「司……」

「巡也、ごめんね。でも、こうしないと危ないかなと思って。まあ、もう死んだりはしないけどさ」

 司は俺が言葉にできないことを簡単に口にする。俺は自分で言葉にするのが怖くて、思い切ってもう1つ気になっていることを司に尋ねてみる。

「たくさんの人をここに送ったっていうのはさ……」

「たくさんの人を殺したってことだろうね。そして、あの人もここに送られた。その理由までは分からないけど」

 それが吾郎さんの真実……。そして、自分自身の真実も知ってしまった――。ぼんやりしていた記憶が徐々に蘇ってくる。

「あの人の言う通り、これは知らない方が良かったかもしれないね。全部、思い出しちゃった……。巡也は?」

「俺も思い出した……。でも、それならどうして今、俺達はここにいるんだよ!? 俺は今、司とこうして話してる。死んだならこんなことできる訳ないだろ。これは……夢だよ、夢!」

 当たり前のことを口走っていることなんて分かっている。でも、これが現実であってほしくない……その思いが俺を突き動かす。

「違うよ……。ここがどこなのかは僕にも分からない。でも、僕たちがもう生きた人間じゃないっていうのは本当だよ。だって、思い出したんだもん。僕が雨の中で倒れて……。あれは夢なんかじゃない!!」

 俺をじっと見つめる司の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。その司の目が、これが現実であることを物語っているように感じた。

「雨の中……。俺も雨の中だった。あれは……夢みたいだけど、夢じゃないんだよな。きっと……」

 俺と司は互いに言い聞かせるようにして、その真実を言葉にした。夢じゃなく、これが現実であり、真実だということを俺達は認めたくなかった。――でも、認めるしかなかった。


 その時、すごい速さで歩いてくる足音が聞こえた。俺と司はハッと顔を上げ、音のする方に目をやる。

「吾郎さんかもしれない!」

 そう言うと司は俺の手を掴み、また走り出す。

「ちょっと、司!」

 俺は急に手を引っ張られて、転びそうになりながら必死でついていく。それでもものすごい速さで足音が追いかけてくる。その時――、司に掴まれているのとは逆の手を後ろから引っ張られる。

『うわっ!!』

 急に後ろに引っ張られ、勢い余って俺だけではなく司まで倒れてしまった。後ろを振り返ると、そこにいたのはゼロだった。

「ゼロさん?」

 司は安心したように笑みを浮かべて立ち上がる。

「もう、巡也さんも司さんも逃げるなんてひどいですよ。私、何か悪いことしましたか?」

 ゼロはキョトンとした表情で俺達に尋ねる。こんな人があの速さで歩いていたのかと思うと、少しゾッとした。

「すごい速さで追いかけてくるから、思わず逃げちゃいました」

「もう、司さんは優しい顔をなさっているのに、案外酷いですね」

「ハハッ。ありがとうございます」

 司もゼロもニッコリ微笑んでいる。この2人のふんわりした性格のおかげで、さっきとは全く違った雰囲気になった。しかし、司とゼロの笑顔には上手く言えないが、何となく違うものがあるような気がする……。

「2人にお話ししたいことがあって、追いかけていたんですよ」

 話すべきことがあるなら、さっき話しておけば良いのに…‥‥。それが俺の率直な思いだった。

「あ! でも、お逃げになったということは聞きたくないということですね」

『え!?』

 俺と司の声がぴったり重なる。

「ああ、これは失礼致しました。私としたことがそんなことにも気づかずに……。それでは、私はこれで失礼致します」

「ちょっと、待ってください!」

 戻ろうとするゼロの手を俺と司は慌てて掴んだ。

「どうしました、巡也さん?」

 また、キョトンとした顔でゼロは俺達に尋ねる。イマイチ、この人の感覚が掴めない……。

「話って、何ですか。教えてください!」

 俺は半ばやけくそ状態でゼロを問い詰める。

「あら、お聞きになりたくないから、逃げていたのでは?」

「すごい速さで歩いてくるから、逃げたんです。って、さっき司が言ったじゃないですか!」

「あら、そんなことおっしゃってましたっけ」

 本当に何も覚えていないというような言い方だった。

「はい、僕言いましたよ」

 司はそんなゼロにも優しく答える。

「そうでしたか。これは失礼致しました。では、お話ししますね。……えっと、何のお話しでしたっけ?」

『えっ?』

 再び、俺と司の声が重なる。この人はしっかりしてそうなのに、どこか抜けている。

「思い出してくださいよ!」

 ゼロしか知らないことがこの世界にはたくさんある。思い出して貰わないと困るのは誰でもない、俺達だ。

「うーん。何でしたっけ。司さん、何でした?」

「僕に聞かないでください」

「では、巡也さん、何でした?」

「俺にも、聞かないでくださいよ!っていうか、こんなことしてる場合じゃないんですよ。俺達はこの世界の間っていうのが、何なのか知りたいんです。それを知ってるのは、ゼロさんなんですよね?」

 突然、ゼロはさっきのとぼけた調子から一変した。

「まあ、それはある意味正解ですが、ある意味不正解ですね」

 そうかと思うと、ゼロはすぐに穏やかな笑みを浮かべる。

「……あ! 思い出しました。運命の時、その説明を忘れていたんですよ」

『運命の時?』

 司と言葉が被るのは何度目だろう……。しかし、それも仕方がない。ここに来てから初めてのことばかりなのだから……。

「はい、運命の時です。運命の時が訪れるのは人それぞれ違います。遅い人もいれば、早い人もいらっしゃいます。でも、運命の時が来ない人はいません。必ずやって来ます」

「その運命の時が来たら何をするんですか?」

 司が冷静に尋ねる。やはり、司は俺よりも頭の回転が速いようだ。

「……運命の時には、ある決断をして頂きます。その時が来れば巡也さんと司さんにも決めて頂きますから、よろしくお願いしますね?」

「何を決めるんですか?」

 続けて司がゼロに問いかける。そうだ、ゼロは1番大切なことを言わない――。すると、ゼロは今までとは違う、異様な笑みを浮かべる。

「進むのか、進まないのか……ですよ」

 ゼロの言葉を理解できないのは俺だけではなかったらしく、司も首を傾げている。進むのか、進まないのか――それはどういう意味なのか。そういえば吾郎もそんなことを言っていたことを思い出す。

「自分を認めた人だけが進むことができます。その先に何があるのかは分かりませんが……」

「自分を認める?」

 自分を認めた人だけが確か……上か下に行ける、吾郎はそう言っていた。

「ちゃんと自分を見ることです。そうすれば扉は開きます。今度こそ……扉を開いてくださいね」

 ゼロは今までにないくらいにっこりと笑った。俺と司は何を言われているのか分からず、互いを見ることしかできなかった。

「今度こそ決断してくださいね。お待ちしております」

 俺達のことなど気にする様子もなく、ゼロだけが淡々と言葉を吐いていく。

「俺達にも分かるように説明してくれよ!」

 俺は訳が分からずにゼロに言い放つ。

「分かりますよ、そのうち。では、私はこれで失礼しますね。では」

「ちょっと待ってください!」

「では……。」

 司が呼び止めても、ゼロは振り返ることなく歩いていく。俺達はゼロの言葉を考えるあまり、追いかけることができなかった。


「司、ゼロが言ってたこと分かるか?」

「ううん。でも、何かを決めなきゃいけないみたいだね。自分を認めるか……。僕には難しいかも」

「え?」

 分からないとは言っているが、司は俺よりもずっと何かを見つけているような気がした。俺には見えない何かを。だからこそ、司のその言葉が俺にとっては意外だった。

「僕は……僕を許せない。約束を守れなかったから。だからさ、自分を認めるなんてできないかもしれないってこと」

「司……? 大丈夫か?」

 いつにない司の険しい表情を見て、俺は思わず声をかける。

「ああ、ごめんね。そうだ! 巡也は? 自分を認められる?」

 逆に司から質問されて、言葉に詰まる。

「……分からない。何か分からないんだ。自分のこと」

「うん、何か分かる気がする」

 自分のことなのに、俺は俺のことが1番分からない。それが俺に分かる唯一のことだった。

「ここで、見つけなきゃいけないのかもしれないね」

「何を?」

「認められる自分……本当の自分かな。よく分からないけど。でも、巡也となら大丈夫な気がする」

「何だよ、それ」

 照れくさくてそんなことを口走ったが、実は俺も司となら答えを見つけられるかもしれないと感じていた。

「そうだ、巡也!」

「何だよ、急に」

「僕達以外に誰かいないか探してみようよ。走ってた時も思ってたんだけどここってさ、すごく広そうだし。誰かに会えば何か分かるかもしれないよ? ここでじっとしてるよりはずっといい方法だと思わない?」

 確かに、司の言う通りだ。俺は小さく頷き、司と一緒に世界の間の奥へ歩き出した。


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