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色褪せた赤色

 その時、後ろから俺の手を誰かが強く握りしめる。

「ダメだよ、巡也!」

「司、離せ! 離せよ!」

 俺は司の手を振り解こうとするが、司は一向に放してくれない。

「それは、巡也の花だよ! そんなことしちゃダメだ!」

「こんな花……もう、どうだって良いんだよ。茜が……茜が……!!」

「巡也!」

 真っ赤な花なんか消えてしまえば良い。茜を真っ赤に染めてしまった俺の花なんて……。そんな色、消えてしまえば良い。そうすれば茜も真っ赤に染まることはないかもしれない。

「巡也さん。それは世界の間では、あなたにとって大切なものです。そんなことをしてはあなたは……」

「もう、良いんだ! どうだって良いんだよ!」

「巡也! 巡也!」

 司が何度も何度も俺の名前を呼んでいる。レイとゼロも何か言っているような気がしたが、俺には聞き取れなかった。何も聞きたくなかった――。俺はこの花ではなく、自分自身を消したいのかもしれない。茜に何もできなかった俺なんて、もう……どうだって良かった。

「巡也! 僕、分かったんだよ。巡也のおかげで! だから……!!」

「何だよ! 何が分かったんだよ。もう、俺のことなんかほっといてくれ!」

 いつまでも手を離さない司の手をとうとう俺は振り払ってしまった。勢い余って、俺も司もそのままひっくり返ってしまった。

「痛っ……」

「っ……! もう、ほっといてくれ……」

 俺が再び真っ赤な花を握り締めた時、冷たい手が俺の手を包み込む。

「それが君の選択ダネ……」

 そう言って、レイは俺から真っ赤な花を奪い去る。俺はもう、それを取り返すことすらできなかった。

「巡也……」

 一方の司はすぐに起き上がって、俺を見つめる。

「僕ね、巡也と出会えたおかげで分かったんだよ。1人だったら僕、ここに来てもきっと何もできなかった。でも、巡也がいてくれたから……」

「もう良いよ! もう何も聞きたくない!」

「聞いて!!」

 司は負けじと俺の目をじっと見つめる。

「裕香もね、決めたんだよ。お医者さんになるんだって。僕のせいで、あんな思いさせちゃったけど裕香は進もうとしている。だから、僕も進むよ……。裕香には僕の言葉が届いていなかったかもしれないけど、裕香の気持ち……僕にちゃんと届いてた。僕が変われたからっ!」

 変われた……そんな風に言い切れる司が単純に羨ましかった。

「巡也のおかげで、僕は変われたんだよ!?」

 司は涙声になっていた。俺のおかげで、司は変われた……。でも、俺はきっと何も変わっていない。どうして、俺ばっかり、こんな思いをしなくちゃいけないんだ。どうして、茜だけがあんな思いをしなきゃいけないんだ。どうして――。

「俺は何も……」

「巡也! ありがとう。ありがとう……!」

 俺の言葉を遮るように、司は涙声を振り絞って言い放つ。そして、泣きそうな顔になりながら笑っていた。

「……どうしてそんな風に笑えるんだよ」

「え?」

 司の言葉に喜びなんて感じなかった。俺は司に……嫉妬したんだ。もう、俺の言葉は止まらない。嫉妬に狂った言葉が次々と溢れ出す――。

「良いよな、司はさ……。そんな風に笑えて。茜は! 笑い方なんて忘れたって言ってた」

「巡也……」

「俺のせいで、茜があんなことになって。どんどん、染まっていくんだよ。真っ赤に……。雨も赤も止まらなくて、どんどん広がって……」

 あの時の真っ赤な色が雨の音が蘇る。俺の中が再び真っ赤に染まっていく。

「そんな茜に俺は何もできなくて。茜が消えていくのに、俺は止めようともしなかった。ううん、むしろ……見たくないって、消えてほしいって思った。こんなの消えちゃえば良いって――。最低だよな、俺……。茜があんな姿になっても自分のことしか考えられなくてさ……。ほんと、最低だ……」

 その時、俺は司に腕を掴まれ、無理矢理立たされる。足に力なんて入らなかったが、司に支えられて立ち上がった。しかし、司の姿は視界がぼやけて、よく見えなかった。

「巡也のせいじゃないよ……。巡也のせいじゃない! だから……」

 無意識に俺は司の手を振り払った。

「司に、何が分かるんだよ! 裕香ちゃんは進もうとしているんだろ。司も! 俺や茜は進もうと思っても、もう進めないんだよ……。そんな気持ち、司に分かるわけない!」

「そんなことない。進めるよ、巡也も茜ちゃんも……絶対に進める!」

「無理だよ! もう無理なんだよ! ほっといてくれよ。俺の気持ちなんか、誰にも分からないんだ」

「そうダネ。分からないネ」

 今までずっと黙っていたレイが急に言葉を発する。

「君の気持ちなんて分かりたくもナイ。君のせいで茜はあんな姿にナッチャッテ。そんな茜に消えてほしいナンテ……そんな気持ち、分かりたくもナイ」

「巡也さん……。このままでは、また同じ道を選んでしまいますよ?」

「巡也なら、大丈夫だから……」

 次々に俺に向かって言葉が飛んでくる。でも、その言葉を受け止める余裕なんてない。

「黙れ、黙れ、黙れ! 何なんだよ、皆して! じゃあ、俺はどうすればよかったんだ? どうすれば茜を助けられたっていうんだよ!!」

「起こってしまったことを変えることはできません、巡也さん」

「茜を諦めろってことか?」

「はい」

 ゼロはハッキリと答えた。何の迷いもなかったことが許せず、俺はゼロの胸ぐらを掴んだ。

「茜を諦めろって、本気で言ってるのか!?」

「ええ。起こるべくして起こったことですから」

 ゼロはまた、何の迷いもない真っ直ぐな目で俺を見る。

「巡也!」

「うるさい! だって、ゼロは茜のこと諦めろって言ってるんだぞ!」

「そうじゃないよ。ゼロさんは、巡也にもっと前を見てほしいんだよ。終わったことだけを見るんじゃなくて、前を見なきゃ!」

 ゼロだけではなく司も茜を諦めろ……そう言っている。

「そうです。巡也さんはいつも、終わってしまったことだけを見ています。茜さんのことばかり……」

「それの何がいけないんだよ。司だって、裕香ちゃんのことばかり考えてる。でも、司と俺はこんなにも違う……。どうして、どうして……俺ばっかり――」

 考え方は同じなのに、俺と司はどうしてこんなに違うんだろう? 俺はどうすれば司みたいになれたんだろう?

「僕は……裕香のことだけじゃないよ。自分のことも考えてる」

「自分のこと……」

 自分のことを考えれば、俺も司みたいになれるのだろうか? 自分のことを考えていれば、茜にあんな思いをさせずに済んだのか? 浮かんでくるのは疑問だけで、答えなんて1つもなかった。

「終わったことはもう変えられないけど、これからのことは変えられるかもしれない。だったら、僕は……そのために自分にできることをする。それがきっと裕香の幸せになるって信じてる。だから、巡也も……茜ちゃんの幸せのために巡也の幸せのために……」

「茜はもう幸せになんかなれない。俺のせいで、あんなことになったのに。どう頑張ったって、もう幸せになんかなれないんだよ」

「そんなことない……!」

 真っ赤に染まった茜はもうどんな色にも染まれない。真っ赤な色が茜にどんどん広がっていくだけだ。

「君がそのままなら茜を幸せにすることナンテ、無理だろうネ。茜を助けることナンテできない」

「じゃあ、俺はどうすれば茜を助けられるんだ!? なあ、教えてくれよ。知ってるんだろ、レイ! ゼロ!」

 世界の間にいるレイとゼロなら、何か知っているかもしれない。茜を助ける方法がきっとあるはずだ。俺はレイとゼロに必死に問いかける。

「なあ、教えてくれよ!」

 しかし、レイとゼロは何も答えてくれない。

「茜ハ!」

 俺はただレイの言葉を待った。しかし、俺はレイの言葉をすぐには信じられなかった。

「茜は……もう、ずいぶん前にここに来たんダヨ?」

「え?」

「君は22番。茜は君が4番の時に来た。そして、すぐに自分の道を決めた。それを変えることなんて、もうできない」

 茜が世界の間に来た……? つまり、俺は茜とこの世界で会っているということだ。

「でも、茜はさっきまで俺と話をしていて……」

「あれは、ずっと前の茜。まだ、ここに来ていない時の茜」

「そんな……」

 俺は茜ともう1度会えたのに、そのことすら覚えていない――。

「茜は君から色んなことを聞いて、たくさん泣いてタ。それでも止まることより、進むことをエランダ。そうすることで、君も進んでくれると思ったカラ。今でもずっと……茜は君を待ってル」

「嘘だ……。そんなの、嘘だ……。茜は、まだこんな所に来ちゃいけない……。そんなの、覚えてない!!」

「それは君が選んだコト」

 さっきまで俺が見ていた茜は向こうの世界にも、世界の間にもいない……。もう茜を助けることなんて、本当にできないんだ。じゃあ……俺は何をすれば良いんだろう? 何のためにここにいるんだろう?

「巡也……」

「君はいつもカワラナイ。カワレナイ」

「だって、俺は……。俺のことが分からない……」

「君はいつもそうだネ。自分のことが分からないからって、その言葉に逃げてバカリ。君は変われないんじゃナイ。変わろうとしないダケ。変わろうと思えば変われるノニ」

「うるさい!」

 もう何も聞きたくない、こいつらの言っていることは全部嘘なんだ。そうとしか考えられない!

「君はそれに気づいているノニ変わろうとしない。そんな君をアカネはずっと待ってル。何度忘れても、やっぱり君は君なんだネ」

「うるさいうるさい!」

「巡也!僕も自分のことなんて何も分からないよ。でも、少しずつで良いから、自分のことを見ていけば全部分かるかもしれない。巡也は今、どうしたいの? それだけで良い。それだけで良いから、ちゃんと自分のこと見てあげて!」

「うるさいうるさいうるさい!!」

 皆の言葉が俺に突き刺さっていく。でも、俺にはもうその痛みさえ感じることができないみたいだった。

「俺は……。何もしたくない……!」

 それが俺の答えだった。俺の言葉を聞くと、ようやくレイもゼロも司も……静かになった。しかし、その時――レイとゼロの様子が突然変わったのだ。

『今から2番の運命の時を始めます』

 2番。司の運命の時が始まってしまった――。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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