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真っ赤な色

本当はダメなことかもしれませんが、今回は巡也と司の視点が交互に展開されています。

読みにくいかとは思いますが、改行を頼りにして読んでみてください。

 俺の目の前には茜がいる。ふと見ると、司が戻ってきていた。そして、司の目の前には裕香ちゃんが立っている。俺も司も……ここで決めなければいけないのかもしれない。


 真っ赤な傘が花開く。

 真っ白な傘が花開く。

 向こうの世界では止まることのない雨が降り続けている。



「茜……。俺、どうすれば良いのかな。茜のために何かできるのかな?」

『お兄ちゃん。ごめんね。何もできなくて。助けることも、忘れることもできなくて。もう、みんな笑ってるよ……。お兄ちゃんのことなかったみたいな顔して、笑ってる。私……笑い方なんて、忘れちゃった』

 俺のことなんか忘れて茜には笑っていてほしいのに、俺のせいで茜は笑顔を失っている。



「裕香……。僕に、何ができるのかな。裕香のために……自分のために、僕は何をしたいのかな?」

『お兄様。私、お兄様がいらっしゃった時のように笑えるようになったんですよ。でも、それはお兄様のことを忘れた訳ではありませんわ』

 そう言うと、裕香は小さく笑みを浮かべた。世界の間に来て初めて……俺が覚えている中では初めて裕香の笑顔を見た――。

『皆さん、私を気遣っているのが痛い程分かりますから。私も……笑顔でいないと。そうですよね?』

 あの頃みたいに裕香が笑っている……。いつもの裕香だ。



 茜の髪が激しく揺れている。雨は弱まることを知らず、激しさをより一層増していく。

『ねえ、お兄ちゃん。今、どこにいるの? 早く帰ってきてよ』

「茜、俺はここにいる……。ここにいるよ……」

 俺は茜の目の前にいるのに涙を拭ってあげることさえできない。やっぱり、茜のために、俺には何もできないのかもしれない。ここにいることさえ、伝えられないのだから。

『お兄ちゃん。私、いっぱいいっぱい考えたの。でもね、どうしてお兄ちゃんがあんなことしたのか、分からない。お兄ちゃんと同じことすれば、分かるようになるかな?』

「茜?」

 揺れる髪が茜の顔を隠す。茜は今、どんな顔をしているんだろう。見えない……ではなく、見たくないと俺が思っているのかもしれない。

『お兄ちゃんの好きな「雨の唄」、私読んでみたよ。雨の唄、天宮晴子……』

 教科書に載っていた挿絵。雨の中に佇む、真っ赤な傘を差した女の子の絵。それは正に今の茜そのものだった。雨の唄を暗唱しながら茜は1歩ずつ、俺の方へ近づいてくる――。


 もしも 雨に思いがあったら

 雨は 悲しい気持ちで溢れている

 だから人々は雨を 悲しい色で描くのかな


 もしも 雨に記憶があったら

 雨は 悲しい思い出が溢れている

 だから人々は雨を 悲しい気持ちで見るのかな


 雨は 雨は

 降って 空に昇って また降ってくる

 ぐるぐるぐるぐる雨はまわる


 出会いと別れを繰り返し

 ぐるぐるぐるぐる雨がまわる


 雨は死を繰り返して生き続ける

 雨は 死を知り 生を産む


『お兄ちゃん、どこかで聞いてるのかな……』

「聞こえてるよ。ちゃんと聞いてるから」

 何度も何度も読んだ詩。読む度に俺が思い出すのは赤い傘の女の子。真っ赤なワンピースがよく似合う、茜のこと――。

『雨は死を知り、生を産む。……お兄ちゃんは雨になっちゃったのかな? だから、私にはもう見えないのかな? でもね、お兄ちゃん。私も雨になったら見えるかもしれないよね、お兄ちゃんのこと……』

 その時、強い風が真っ赤な花を攫ってしまう。揺れていた髪は雨に晒され、雨の重みで徐々に動かなくなっていった。



『お兄様のことですから、きっとどこかで私のことを見ていてくれますよね? 私が笑っていないと、お兄様が心配なさいますもの。お兄様には笑っていてほしいですわ……』

「裕香、僕はここにいるよ。ここにいるから……」

 こんなに近くにいるのに僕の声は届かない。でも、ゼロさんは言ってた。思いが届けば望む今になるって。声は届かなくても、僕の手は届かなくても……思いだけは届くかもしれない。僕だって、裕香には笑っていてほしい。だから……僕も、笑っていたい。それが裕香の幸せな今になるなら、僕は笑っているよ……。

『お兄様……。私、お兄様と約束をするために、ここに来たんです』

 その時、裕香の髪が大きく揺れる。裕香の差している真っ白な傘も大きく揺れたが、裕香はその手を放そうとしなかった。しっかりと握られた花が裕香の上に咲いている。



 俺が何度名前を呼んでも、茜が振り返ることはなかった。俺がどんなに手を伸ばしても、その手が届くことはなかった。やっぱり、俺には何もできない。茜にしてあげられることは何もない――。ただ、俺は茜を見ていることしかできない。

『お兄ちゃん、私……。決めたの。私ね、もう1回、お兄ちゃんに会いたい。会って私の知らないこと、たくさん聞きたい。お兄ちゃんと同じ所へ行けば、きっと会えるでしょ?』

 茜が何をしようとしているのか、俺には分かる。だって、これは……。俺がしたことだ……。雨の悲しい記憶がまた生まれようとしている。

「茜……。待って……! 待って……!!」

 雨か涙かは分からないが、びっしょりと濡れた顔で茜はニッコリと微笑んだ。それはいつもの茜のように見える。しかし、確かにいつもとは違う茜だった。

『お兄ちゃん、ごめんなさい。……またね?』

「茜!!」

 ふわりとワンピースのスカートが広がったかと思うと、茜は消えてしまった。次の瞬間――地面に伏せっている茜が現れる。そして、茜からどんどん赤が広がっていく――。



 裕香は、ゆっくりと座って話を続ける……。

『お兄様、私決めましたわ。お兄様を助けるためなら私は何でも致します。でも、もうどんなことをしても、お兄様は帰ってきません……』

「裕香……。笑って……。僕のことは良いから、笑って……。お願い」

 その思いが届いたのか、裕香は先程よりも優しい笑みを浮かべていた。

『お兄様を助けることができないのなら、私は……お兄様ではない誰かを助けたい。お兄様がいたからこそ、見つけられたことですもの。このままずっと悲しい気持ちでいるよりも、お兄様は喜んでくださると私は信じていますわ』

 裕香は前を向いている。笑っている――。裕香を悲しませてしまった僕を許すことはできない。でも、僕は……裕香が幸せでいられる今を選びたい。

『お兄様、約束しましょう?』

 こんなに近くにいるのに、僕の声も僕の手も裕香には届かない。でも、裕香の気持ちはこんなにも僕に届いてるよ。僕の気持ちも裕香に届いていてほしい。そうすれば、今を変えられるかもしれない……。

『私、お医者様になりますわ。お兄様が私に夢をくださったんですよ? お兄様のくださったものですもの。大切にしますわ』

「そっか。お医者さんか……」

 笑顔を絶やすことなく僕のそばにいてくれた裕香にぴったりだ。それが僕の素直な思いだった。

『お兄様、約束ですわ。私、必ずこの夢を叶えてみせます。今度は私が……約束を守ってみせます』

「なれるよ、絶対。裕香なら……」

 裕香は選択をした。今を変える選択を――。だから、僕も選択したい。小さな思いだとしても、思いが届けば今を変えるきっかけになる。

『お兄様……。どうか、安らかに……』

 裕香はそっと目を閉じて、手を合わせる。僕も裕香と同じように、目を閉じて手を合わせた。

「裕香……。どうか、幸せに……」

 僕がそっと目を開けると、同じタイミングで裕香も目を開けていた。そして、初めて裕香と目が合ったような気がした。雨は止んだらしく、満面の笑みで微笑む裕香を邪魔するものは何もなかった。

『また来ますね、お兄様……』

 そう言うと裕香は真っ白な傘を閉じ、僕に背中を向けて歩いていった。真っ白な花がどんどん遠くへ行ってしまう。でも、もう寂しくはない。

「僕も決めたよ。裕香……」

 その時――、僕の言葉が聞こえたかのように裕香がこちらを振り返った。

『お兄様。……大好きですわ!」

 そして、裕香はとうとう消えてしまった。でも、裕香の言葉は僕の中から消えることはなかった――。もう、裕香のことを忘れたくない。忘れることなんてできない。どんな結果になったとしても、起こるべくして起こることなら僕はそれを選ぶ。望む今を手に入れるために、僕にできることをする。

「裕香。……ありがとう」

 僕はもう、迷わない。忘れない今を選ぶ――。



「茜……? 茜!」

 俺が何度呼びかけても、茜が動くことはなかった。真っ赤に染まった茜に容赦なく雨が降り注ぐ。雨につられて、茜の赤がより一層広がっていく。雨の記憶に悲しい思い出が刻まれていく。

「あ、茜……。ああっ……。あああっ……!」

 自分が何を言っているのかなんて、俺には分からなかった。「俺のせい」――その言葉だけが俺の中にどんどん広がっていく。全部、俺のせいだ……。茜がこの結果を選択したことも、全部。

「俺は……。俺は……」

 徐々に茜が消えていく。でも、俺は止めようとはしなかった。これ以上見ていたら、おかしくなってしまいそうだったから――。これが俺の選んだ結果だ。

「うわあああああっ……!!」


「これが君のセンタク」

 俺の目に映ったのは真っ赤な花。今まで見ていた茜と同じ真っ赤な色。

「もう、見たくない……見たくない!!」

 俺は真っ赤な花を力一杯に握り締め、そのまま引きちぎろうとした――。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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