繋がる色
司視点です。
視点ガコロコロ変わってすみません泣
忘れてしまう……世界の間のことも、巡也のことも、裕香のことも……。そして、僕が裕香から逃げる選択をしたことも――。そう思うと走らずにはいられなかった。巡也が僕を呼んでいる声が聞こえた気がしたが、止まることはできなかった。
ただ、こんなに走ったことがない僕は徐々に足が動かなくなっていく。すると、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。
「司さん!」
「ゼロさん……」
「やっと追いつきましたよ。少しは落ち着きましたか?」
「……はい。走るって、こんな気持ちになるんですね」
体の弱い僕にとって、こんなに走ったのは生まれて初めてだった。生まれて初めての出来事に死んでから気づくというのも妙な話だが……。
「でも、僕はこの気持ちもすぐに忘れてしまう……。ゼロさん、1つ聞いても良いですか?」
「はい」
「僕が覚えていない僕のこと……教えてください」
「知りたいですか?」
つまり、僕が1番と呼ばれていた時のこと。僕が覚えていない、でも思い出さなければいけない記憶だ。僕が無言で頷くと
「分かりました」
と、ゼロさんが微笑んだ。
僕は僕を許してはいけない。逃げた僕を知らなければいけない。そうしないと、また同じ選択をしてしまう気がしたから。自分自身のためにも……裕香のためにも、僕は選択しなければ――。
「1番の司さんは1人でした」
「1人?」
「はい。1人でここに来て、ずっと迷っていました。しかし、その答えは出ませんでした。ずっと1人で在ろうとしていましたから……」
その時のことは何も覚えていないが、怖かったのかもしれない……。誰かと関わり、傷つけることが――。
「運命の時に司さんはこう仰っていました。『僕は僕のことが分からない』と。だからこそ、私達は進まないことを選択したと判断したんです」
「僕は何も変わっていないんですね……。今だって、僕は僕が分かりません。どうすれば良いのか……分かりません」
「いいえ」
いつにない強い口調でゼロさんが僕の言葉を否定する。
「1番と2番のあなたは大きく違いますよ。だって、今のあなたは1人ではないはずです。ここに来て巡也さんと出会って、吾郎さん・奈々美さん・笑平さん・誠さん……。たくさんの方に出会って、知ろうとしたでしょう?」
僕が初めてここに来た時、巡也がいたんだ。誰かと関わることより、こんな世界に1人でいることの方が怖くて声をかけてしまった。
「それに、何度も何度も裕香さんの名前を呼んでいたじゃないですか。前のあなたなら、あんなことはしなかったと思いますよ。もう少し、自分に自信を持ってみてはどうですか?」
「自信……。僕なんて……」
「あら。『僕なんて』を、あなたが使っても良いのですか?」
「え?」
「司さんが仰ったのでしょう? 『なんて』という言葉を使ってほしくないと……」
それは僕が奈々美ちゃんに言った言葉だ。そう言えば奈々美ちゃんにも言われたな……「もっと自信を持って」って。自分に誇りを持つ。それが僕にとって1番難しいことかもしれない。裕香を守らなきゃいけないのは僕なのに、いつも守って貰っていたのは僕の方だ。結局、裕香との約束も守れなくて……僕はこんな自分を許せずにいる。
「では! こういうのはいかがでしょう?」
どんよりとした雰囲気を変えようとしたのか、ゼロさんが突然踊り出す。いつもの冷静なゼロさんと余りにもかけ離れていたので、僕は正直驚いてしまった。軽やかにステップを踏みながら踊り続けるゼロさんはピエロのようだった。
「あなたの『出会い』に誇りを持つというのは!?」
「え?」
ゼロさんはなぜか踊りながら会話を続ける。
「あなたには出会いの才能があります! 巡也さんに出会ったのもあなたの才能です。そして、奈々美さんや他の皆さんに出会えたのも、全てあなたの才能がゆえです。その出会いの才能に誇りを持てば良いのではっ!?」
「巡也達とはたまたま会っただけで。そりゃ、仲良くなれたのは嬉しいですけど。僕の力って訳じゃないと思いますよ」
「いいえ!」
突然、ゼロさんが僕の前でピタリと止まった。本当にゼロさんの考えていることはよく分からない。
「この世の全ては起こるべくして起こっているんです。たまたま起こることなんてありません。様々な思いが絡み合って今が生まれるんです。誰かの思いが繋がれば、望む今が生まれます」
きっとゼロさんは難しいことを言っている訳ではないのだろう。だが、その意図が僕にはよく分からなかった。そんな僕をよそに置いて、ゼロさんは話し続ける。
「ほんの小さな思いが今を変えたり、変えることができなかったり……。今を決めるのは誰もができることであり、誰もできないことなんです」
「それって、どういう……」
「つまり! 皆さんと出会う今を選んだのは司さん……かもしれません」
今を選んだのが僕……。それは紛れもない事実だ。
「勿論、司さんではないかもしれませんけど」
「どっちなんですか!?」
「どっちだって良いじゃないですか。今の司さんは起こるべくして起こった今で、皆さんと出会えたんですから。1番のあなたは1人で在ろうとした……誰かの思いがあなたに届いていたのに。司さんはそれに気づけなかったんです」
自信なんて持てない……そう思っていたけど、僕は恵まれているのかもしれない。巡也・奈々美ちゃん……そして、裕香に出会えたんだから。
「自信を持つ……か。できるでしょうか? いつも皆に迷惑をかけてばかりの僕に……」
「良いじゃないですか。迷惑をかけたって。あなた達人間は感情の生き物です。感情のままに、他者に迷惑をかけ、選択していく生き物です。それに、あなたが出会ったのは迷惑をかけたくらいで司さんのことを嫌いになるような人達ですか?」
「いいえ!」
僕は何も迷うことなく声を上げる。まるでゼロさんの言葉に導かれるように。
「裕香にはいつも迷惑をかけていたけど、嫌いなんて言われたことありません。巡也や奈々美ちゃんだって……そんなこと言わないと思います」
どんなに迷惑をかけても、裕香はいつも笑顔だった。そして、僕のそばにいて、守ってくれた。情けないお兄ちゃんだけど、僕のことをいつも思っていてくれた。
「それに、もし裕香や巡也が困っているなら、今度は僕が助けます。裕香にはもう会えないけど、巡也になら……」
巡也は裕香と同じように、ただそばにいてくれた。ゼロさんの言う通り、巡也がいてくれたから僕は今、こんな気持ちでいられるのかもしれない。1人のままだったら、きっと前みたいに進めなかった……。「そうですか。では、迷惑をかければ良いじゃないですか。迷惑をかけられれば良いじゃないですか。それが面倒だと思う者もいるでしょう。だからこそ、感情の生き物は難しくて、愉快なんです。羨ましいですよ、感情のない私としては」
「感情なら、あるじゃないですか。ゼロさんも笑ったり、寂しそうにしたり、色んな顔を持ってます」
「そうでしょうか?」
「はい!」
色んな顔があるのはゼロさんの才能だ。
「出会いの才能……それが僕の自信になれば良いな」
出会いの才能が僕の自信に繋がる。こんな僕……いや、僕でも自信を持てることがある。ずっとあったはずなのに、僕は今まで気づけなかった。皆が気づかせてくれたんだ。すると、ゼロさんは僕の顔を見て、小さく笑った。
「何かおかしいですか?」
「いいえ。ただ……巡也さんと司さんは本当によく似ていらっしゃるなと、思いまして」
「僕と巡也が? 全然似てないですよ」
僕と巡也は似ている部分もあるけど、違う気がする。きっと、巡也の方がずっと強い。僕は勝手にそんな風に思っていた。
「似ています。巡也さんも1人で在ろうとしていますから。でも、巡也さんも司さんと出会って変わりました。1人で在ろうとしている2人が出会って、起こるべきことが起こったのかもしれませんね。巡也さんも気づいてくれれば良いのですが……」
「巡也なら、大丈夫です!」
「……そうですね」
皆と出会えた今の僕なら、前とは違った選択ができるかもしれない。もし、巡也も僕と同じ気持ちなら、僕にも何かできることがある――。
「僕、巡也の所に戻ります」
「そうしましょうか」
僕はまた走り出す。これが走る――、走る気持ちなんだ。こんな気持ちに出会えたのも皆のおかげ。だから、僕にできることをしよう。
僕が戻ってきた時、巡也の目の前には茜ちゃんがいた。
『お兄様……』
声のする方へ振り返ってみると、裕香が立っていた。
「裕香……!」
さらに、いつの間にか裕香の隣にはシロツメクサを持ったレイさんも……。
「これが最後ダヨ?」
その意味を僕は瞬時に理解した。これが裕香に会える最後のチャンスなんだ――。
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