決めない色
運命の時が始まるというのに、相変わらず笑平さんは平然としている。独特の雰囲気に飲まれて、俺と司の方が緊張しているみたいだった。俺達も既に2回、運命の時を見ているのに。ただ、誠君は唯々笑平さんの手を強く握っていた。
『今から、98番と98番の運命の時を始めます』
笑平さんと誠君の運命の時。2人は何を選択するのだろうか?
「98番、もう決まっているノ?」
「はい、いつもと同じ答えです」
「本当にそれで良いんですか?」
「はい、勿論。これは私達が決めたことですから」
「ワタシタチ?」
レイが不思議そうに、笑平さんの言葉を繰り返す。
「決めているのはいつも98番デショ。98番はいつも君の決めた道を行くダケ。それは、ワタシタチとは言わない?」
「誠も、私と同じことを望んでいるんです」
笑平さんも誠君も98番だから、俺にはレイの言っていることがよく分からなかった。レイは突然しゃがみ込み、誠君と目を合わせる。
「な、なぁに。お姉ちゃん……」
誠君は笑平さんの後ろに隠れながらも、レイのことをじっと見つめる。
「98番。君は本当にそれで良いノ? ずっと、ここにいたいノ?」
「だから、そう言っているじゃないですか。私も誠も……」
「君には聞いてナイ。ワタシは98番に聞いているノ」
レイが笑平さんの言葉を遮る。
「誠さん、言いたいことを言って良いんですよ?」
ゼロも、誠君に問いかける。ようやく分かってきた。つまり、ここにいることを選んでいるのは笑平さんであって、誠君ではない……。
「98番。君達はずっとココニいる。ずっとそういう選択をシテキタ。それがどういうことか君達は分かってイナイ。君の道はまだ変えられるカモしれない」
「僕……」
「もう止めてください。誠は……私がいないとダメなんです。まだ、こんなに小さいんですよ。私が傍にいてあげないと。他に誰が誠の傍にいてくれるって言うんですか!? ずっとここにいる、それも選択の1つです」
いつもの笑平さんとは違って、少し取り乱しているように見えた。大切な人を守るために、俺はここまでできるだろうか?
「離れることに恐怖を抱いているのはあなたの方かもしれませんよ。笑平さん?」
「止まることだって1つの選択です。選択しないことを選ぶのも立派な選択です。ここにずっといることの何がいけないんですか? あなた達だって、望んでずっとここにいるじゃないですか!?」
「それは違う!!」
運命の時――、それに逆らうように俺は反論していた。その場にいる全員の視線が刺さる。俺は戸惑いながらも、発言を続ける。
「レ、レイ達が望んでここにいるとは限らない……と思います」
レイが自分のことを話している時、少なくとも嬉しそうな表情ではなかった。俺とは少し違うかもしれないけれど、ここにいることを迷っているように見えた。
「……ずっとここにいるカラ。だから、言ってるノ。選択しない選択もあるヨ。でも、98番はいつも迷ってる。そのことを君は見ようとシテイナイ。違う選択もあるってコト――」
「どうやらよっぽど私達をここに止めたくないようですね……」
言い合う笑平さんの後ろで、誠君はずっと小さく震えていた。俺でさえ発言するだけで足がすくむのに、まだ幼い誠君にとってこの時間はどれ程の恐怖だろうか……。
「決めてしまえば私達は一緒にいられない。誠と一緒になれない選択なら、私はいらない。私が誠を守る……」
「守れなかったカラ?」
「……私があんな事故を起こさなければ、誠はこんな所に来ることはなかった。ただ少し、お酒を飲んでいただけなのに。私は、ただ誠と少しでも長く一緒にいたかっただけなのに。誠を守りたい、そう思うことは間違いですか?」
笑平さんと誠君は事故で亡くなった……。でも、落ち度があるのは笑平さんだけ……。そして、この世界の間にいることを望んでいるのもまた、笑平さんだ。
「間違ってはいないと思いますよ。しかし、どのように守ってほしいか……それを決めるのは誠君です。あなたではありませんよ?」
いつも核心に触れるゼロ。俺が勝手に茜を守ろうとしたって、それは正しい選択ではないかもしれない。茜は俺に何をしてほしいのだろうか。……司も裕香ちゃんのことを考えているのだろうか?
「じゃあ、もう1度だけ聞くヨ。98番、君はドウシタイ?」
レイが誠君にもう1度問いかける。誠君は相変わらず、笑平さんの後ろに隠れながらギュッと手を握っていた。
「パパ……」
「誠……」
そう言って、笑平さんは誠君の頭をくしゃくしゃと優しく撫でていた。
「そう、それが答えダネ……」
『審判終了……』
運命の時は終わったが、今までとは違う。何が決まったのか、俺には分からなかった。俺達はただ静かに、判決を見守ることしかできなかった。
『判決を下します。98番と98番の道は……進まない、です』
これが選ばないという選択肢。上でも下でもなく、進まないという選択。
「笑平さんと誠君はどうなるんですか?」
「すぐに分かりますよ、巡也さん」
ゼロがそう言うと、レイは笑平さんに花を渡す。真っ直ぐと長い茎の先に華やかなオレンジ色の花が咲いていた。
「コレが98番の花、カリフォルニアポピー。花言葉は『私の願いを叶えて』」
そして、続けてレイは誠君に花を渡す。ドーナツ状に青色の花を咲かせている、不思議な姿だった。
「これが98番の花、シラー。花言葉は『寂しい』」
それぞれ自分の花を受け取ると突然、花畑のすぐ側に大きな扉が現れた。
「な、なんだ!?」
「何これ……?」
突然のことに驚く俺達だったが、笑平さんは顔色一つ変えなかった。そして、2人はレイとゼロに促され、扉の前に立つ。
「巡也さん」
「は、はい……」
「この前、私に聞きましたよね。私の願いは何か、と」
「ええ……」
自分の花はその人がここに来た理由に関係している。だから、笑平さんの花言葉の意味が気になったのだ。
「私の願い、分かりました。私の願いは……『忘れる』ことです」
「忘れる?」
「ええ。過去さえも忘れるくらい、ずっとここにいることです。それが……私の願いです」
何かを忘れる……例えば俺のせいで変わってしまった茜のこと。確かに忘れたいものではあったが、忘れちゃいけない……。司もきっと、俺と同じ気持ちだ。
ギギギギギッ――――。
大きな扉が重い音を立てて開いていく。その先は何もない、真っ暗な空間だった――。
「今から私の願いが叶います」
「お兄ちゃん、バイバイ!」
誠君が手を振りながら、扉の中へ入っていく。
「じゃあ、またネ……」
レイが何か言ったかと思うと、扉の中に入った瞬間――。笑平さんと誠君がその場に眠るようにゆっくりと倒れた。
ガシャン――――。
2人の持っていた鉢は粉々に砕け散った。しかし、それと同時に鉢も花も大きな扉まで……徐々に消えていく。
「笑平さん! 誠君!」
2人の元へ駆け寄ろうとした時、俺はあることに気づいた――。そう、笑平さんと誠君が倒れている空間は――俺達がいる世界の間だったのだ。大きな扉の中に入った――と言うより、扉を潜り抜けたと言った方が正しいかもしれない。
「これって……」
「大丈夫ですよ。すぐに目を覚ましますから」
「また……ダネ」
また……それはどういう意味なのだろうか?
「これも選択ですから」
「でも、決めるのはいつも98番。もう1人の98番はいつも迷ってる」
迷っていない98番と迷っている98番、その違いは今の俺にもはっきり分かった。
「ううっ……」
ようやく笑平さんと誠君がゆっくり目を開く。
「笑平さん! 誠君! 大丈夫ですか?」
司が声をかけると、2人は慌てて起き上がり、辺りをキョロキョロと見回していた。
「ここはどこ……ですか? あなた達は?」
『えっ!?』
次の瞬間、俺達はようやくこの世界の仕組みを理解したのだった。
『あなたは99番』
こうして笑平さんと誠君は99番になったんだ――。
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