落ちていく色
レイが俺達の目の前にネリネとシロツメクサを置くと、また茜と裕香が現れる。
「茜……」
「裕香……」
茜と裕香ちゃんは、この間見た時よりも少し痩せているように見えた。そして、2人とも目が真っ赤だった。
「茜と裕香も君達と同じように、時間を過ごしてル。進んでるんだよ……時間はネ。時間と心が一緒に進むわけジャナイ。今の君達ミタイニ」
レイの言葉を、俺は何となく理解できた。だって、俺達はここでどれだけの時間を過ごしているか分からないが、まだ自分を認められずにいる。つまり、時間が過ぎても、心が進んでいないのだ。
茜はゆっくりと俺の花へ近づいていく。それはとてもフラフラした足取りだった。
『お兄ちゃん……。どこに行っちゃったの? お母さんがね、言うの。「茜も笑った方が良い。笑えば悲しいことも乗り越えていける。お兄ちゃんもきっとそれを望んでいるから」って』
母さん……それはとても懐かしい響きだった。
『それって……お兄ちゃんのこと忘れろってことだよね? そんなの、できるわけないじゃん。だって、お兄ちゃんはいつもみたいに一緒にいたんだもん。でも、急にいなくなっちゃって……。そんなの忘れられないよ』
茜は泣き崩れながら、言葉を1つずつ零していく。止まらない涙を止めることもせず、その場にしゃがみ込んでしまった。俺は茜の所に駆け寄ろうとするが、茜から俺は見えない……そのことを思い出すと自然と足が止まる。俺はもう、茜に会うことはできないんだ。
『お兄ちゃん……。お兄ちゃん……。ああ……うう……うわあああ……!!』
頭を掻きむしりながら叫び続ける茜を俺は見ていられなかった。でも、目を逸らしちゃいけない……そう、俺の心が告げているんだ。
「茜……! 茜……!!」
止まった足が少しずつ動き出す。見えない・届かない、そんなことは百も承知だ。しかし、叫ばずにはいられなかった。
『ねえ、お兄ちゃん。私……私どうしたら良いの? ねえ! ねえ!?』
それでも、茜のこんな姿を見たくない、茜のこんな声を聞きたくない……そんな黒い感情が俺の心をむしばんでいく――。そして、気づくと俺は自分の顔を手で覆っていた。しかし、冷たい手がそれを許さなかった。
「君は見なきゃイケナイ。逃げちゃイケナイ。君の選択が茜をこうした。ダカラ、君は知らなきゃいけない。茜のこれからも君の選択によって大きく変わるカモしれない。それは……君次第デショ?」
「俺次第……」
泣き崩れる茜の姿。まだ叫び続けている茜の枯れた声。これが自分のせいだという重みが俺にのしかかる。茜から目を逸らしたくて隣を見ると司もまた、俺と同じように重みに耐えているようだった。
※※※
裕香は僕の花にゆっくりと近づいていく。僕の知っている裕香とは違う、フラフラとした足取りで。目を真っ赤にさせた裕香は、その場に崩れ落ちる。
『お兄様。ごめんなさい……。傍にいたのに何もできなくて。私、お兄様を守れなかった――。もっと、私がしっかりしていれば、お兄様を助けられたのに。ごめんなさい。ごめん……なさい……』
「裕香……。裕香……!!」
ずっと謝り続ける裕香に気づいてほしくて、僕は何度も裕香の名前を叫んだ。しかし、僕の声が届くはずもなく、聞いたこともない叫び声が響き渡る。
「裕香は何も悪くない。悪いのは僕……。だから、もう……止めて……」
唯々僕は――僕がここにいるって、裕香に伝えたかったんだ。
『お兄様との約束、守れませんでした。遊園地……一緒に行くって……。でも、本当はお兄様がいてくださるだけで良かったのに――。どうして私を1人にしたんですか……?』
「ごめんね、裕香。ごめん……。」
今度は僕が裕香に謝り続ける。こんなに傍にいるのに、約束を守るどころか気持ちを伝えることさえできない。……僕は裕香に何もしてあげられない。裕香にこんな思いをさせているのは、誰でもない……僕なんだ。それはとても重くて、立ち上がることもできない。巡也もその重みを知ってしまったのか、その場から動けないようだった。
※※※
「コレガ今の茜と裕香」
レイがそう言うと茜と裕香ちゃんがゆっくりと消えていった。司はまるで裕香ちゃんに触れているかのように、シロツメクサが咲いた鉢を抱き締めていた。何度も何度も裕香ちゃんの名前を呼びながら……。一方の俺は消えていく茜に声をかけることも……近づくこともできなかった。
今までずっと沈黙を貫いていたゼロが口を開く。
「茜さんと、裕香さんはどんどん進んでいますね。悪い方向に」
「……僕達は、もう何もできないんですか?」
司は俯きながら、小さくそう言った。かと思うと、司はゼロの足にしがみつく。
「僕はどうなっても良いんです! でも、裕香は、裕香だけは……。僕にできることはないんですか!? お願いします、教えてください! 裕香を……助けたいんです!!」
「……できますよ」
確かに自分のせいで妹があんな風になってしまえば助けたいと思うだろう……。でも、俺なんかが助けられるのだろうか――そんなことさえ思ってしまう。俺とは違って、司はゼロに答えを求め続ける。
「本当ですか!?」
「司さんの選択がもしかしたら裕香さんの道を変えるかもしれません。でも、どうなるかまでは私達にも分かりません」
「……僕にできるのは、選択をすること――」
「そうなりますね」
選択をすれば、茜を助けられる……。それが助けになるかは分からない。でも――。
「俺も茜のためにできることをしたい……」
気が付くとそう呟いていた。
「できますよ、きっと」
『わっ!!』
そう言って後ろから急に現れたのは笑平さんだった。この人はいつも突然現れる。
「巡也さんと司さんなら大丈夫ですよ。こうして、またお会いできて嬉しいです」
「お兄ちゃん」
その言葉に俺の心臓はビクンと跳ねた。しかし、その声の主は勿論、茜ではなく誠君だ。
「また、こうしてお会いできたのは嬉しいのですが、そろそろお別れかもしれません」
「え?」
「もうすぐ私達の運命の時が来るんです。まあ、選択は決まっていますけどね」
レイもゼロも何も言わずに、ただ笑平さんと誠君をじっと見ていた。また、運命の時が始まる。
「巡也さん、司さん。見ていてください。私達の選択を……。そうすればきっと分かるはずですから」
笑平さんと誠君は手を繋ぎ、花畑の中へ歩いていく。
「……もうすぐ時間ですよね? さあ、始めてください。レイさん、ゼロさん」
笑平さんには、奈々美ちゃんや吾郎さんのような迷いはどこにも見られなかった。でも、誠君は……。俺や司と同じような目をしていた。
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