決められた色
レイは話を終えると、ゆっくりと花畑へ歩いていく。そして、ピンク色の花と、黄色の花を持ってきた。
「これがプリムラ。こっちがルドベキア」
「運命を開く、正しい選択……」
司は、さっきレイが言っていた言葉を繰り返す。
「そうです。これが私達の花です。今までこの花が枯れたことはありません。何も変わることなく、ずっと咲き続けていますよ」
レイやゼロも、ずっと昔にここに来た。審判をするために……。
「レイさんとゼロさんはずっとここで審判をしているんですよね?」
「そうダヨ? 誰かが審判をしなきゃ、ここに来る人達は皆ここに止まることにナル」
「それは困ってしまうんです。私とレイが元々いた世界がね。だから、私達がそれぞれの世界の代表としてここに来たという訳です。そして、皆さんが選んだ世界へ私かレイ、どちらかが連れていく……それが審判者の役目です」
「元々の世界って?」
レイとゼロがどこから来たのか、俺はどうしてもそこが聞きたかった。だって、2人のいた世界が俺達行く先なんだから。
「それは……内緒です。全部知ってしまったら、楽しくないじゃないですか。少しくらい、秘密がある方が面白いですよ!」
ゼロはまたお気楽なことを言う。そうかと思うと、時々ゾッとするような鋭い目をする時もある。ゼロは本当に分からない人だ。俺がそんなことを考えている間に、レイはプリムラとルドベキア……?を元の場所へ戻していた。
「知ってしまったら、選択……ないか……ネ」
レイが何か言っていたような気がしたが、俺にははっきりとは聞こえなかった。
すると、突然、レイとゼロの目が変わった――。
『今から26番の運命の時を始めます』
それは奈々美ちゃんの時と同じ異様な雰囲気。運命の時――、そこにやって来たのは吾郎さんだった。
「お! お前ら、また会ったな」
「吾郎さん……」
司は吾郎さんを睨みつけただけで、何も言うことはなかった。
「相変わらず、そっちは怖い顔してるな。けど、巡也はやっぱり俺と同じだな」
「違います!」
さっきまで黙り込んでいた司が声を発する。
「巡也はあなたと一緒ではありません!」
「おい、司……」
「威勢が良いねえ」
不敵な笑みを浮かべながら俺達に近づこうとする吾郎さんに向かって、レイが声をかけた。
「もう、良いカナ? 26番」
吾郎さんは足を止めて、レイの方を見た。
「あ?」
「今度こそ、決められましたか?」
「さあ、どうだろうね。別に良いだろ。ここにいる選択肢もあるって言ったのはお前だろ?」
「確かに言いましたね」
こんな時でも、ゼロは笑顔を絶やすことがないから逆に怖い。
「怖がっているだけデショ?」
「あ? お前、今何か言ったか?」
「だから、怖がってるだけデショ?」
レイは吾郎さんから目を逸らすことなく、同じ言葉を繰り返す。吾郎さんの真実を知っている俺はレイに近づこうとする吾郎さんを止めようとしたが、司がそれを許さない。
「巡也、ダメだよ!」
「でも!」
「巡也が危ないよ!」
司は、俺の腕を放そうとしなかった。吾郎さんは止まることなく、レイの目の前まで歩いていく。
「ゼロ、吾郎さんを止めろよ!」
でも、ゼロは動こうとしなかった。
「お前、俺に向かって言ってんのか?」
「そうダヨ。君は臆病者。だから、決めナイ。ううん、怖くて、決められないカナ? 26番の行く道が分かっているカラ」
レイは吾郎さんを目の前にしても、怯むことはなかった。
「女だからって、容赦しねえぞ!!」
吾郎さんが手を振り上げた瞬間――。
「ココデモ!」
レイが張り詰めた空気を断ち切るように、吾郎さんに言い放つ。それに驚いたのか、吾郎さんも手を止めた。
「ここでも、同じことをするノ?」
「あ?」
「君はココに来る前も、こんなことをシタ。そして、ココニたくさんの花を咲かせた。君の花ではなく、他人の花ヲ」
「ああ、そうさ」
「花を咲かされた人達がどんな思いでここに来たノカ、考えたことアル?」
ここに花を咲かせた……つまり、吾郎さんは人を殺したんだ――。
「……くっ。くくくくく。そんなの……あるわけないだろ。ここに来た奴のことなんて」
吾郎さんは狂ったように笑い続ける。
「5番・19番・56番。他にもいたかもしれないケド。言ってたヨ? まだ、やりたいことたくさんあった、どうして自分がここにいるのか分からないッテ」
それは吾郎さんが殺した……人なのだろうか? それ程多くの人をここに送ったのかと思うと、少しだけ吐き気がした。
「誰が自分をここに送ったのかもワカラナイから決められない人もイタ。ソレデモ、選択することを選んだ。君が咲かせた花はもうここにはないヨ。後は君の花ダケ」
「中には『許さない』と仰っている方もいましたよ」
当然だ。もし、俺なら……どう思うだろう? こんな風に考えられるようになったのも、ここに来たからなのだろうか。
「そんなこと俺には関係ない。それに、もうここにはいないんだろ。だったら、やっぱり俺には関係ないな」
吾郎さんの言葉に恐怖を覚えると同時に、とてつもなく大きな怒りに襲われた。こんなに気持ちが溢れてきたのは初めてかもしれない。
「結局、俺もここに送られたんだ。俺だって誰が俺をここに送ったかなんて知らない。誰かの選択によって俺はここに来て、花が咲いた。俺も、そいつらと同じだろ?」
俺の中の怒りがどんどん大きくなっていく。さっきの吾郎さんみたいに手を出してしまいそうな自分の手を必死に抑える。
「あなたは変わりませんね。本当に」
「変わる必要なんかないだろ。もう死んでるんだから」
パンッ――――。
気がつくと俺はの手は吾郎さんの頬を叩いていた。静まり返ったその場にその音だけが響き渡る。皆驚いた様子だったが、1番驚いているのは俺だった。
「おい、巡也。威勢が良いのは歓迎だが、俺に手を出したってことは覚悟はできてるんだろうな!?」
正直恐怖の方が大きかったが、1度流れ出した怒りは止まらない。
「ご、吾郎さんは……変わるのが怖いんです! 自分を知るのが怖いんです!!」
震える声を必死で隠しながら俺は何とか言葉にしていく。
「自分を知るのが怖いからそんなことが言えるんですよ。ここに……誰かを送ったってこと、どういうことか分かってますか!?」
俺はそれ以上、言葉を続けられなかった。どんどん溢れてくる涙と気持ちをこれ以上抑えることができなかったからだ。
「くくっ……。お前ら本当におもしれえなあ。変わるのが怖いって!? そんな訳ねえだろ」
「じゃあ、決めるノ? 怖くないなら決められるデショ?」
吾郎さんは大きく笑う。
「……分かったよ。じゃあ、決めてやるよ。怖がってなんかねえってこと、証明してやるよ」
「決めたんですね?」
「ああ。俺はここに色んな奴らを送った。それが俺のしたことだ」
とうとう、吾郎さんは進むことを選んだ。
『審判終了』
やっと運命の時が終わる。でも、俺は初めて自分の気持ちをぶつけられた。
『判決を下します。26番の道は……下、になります』
判決は下だった。奈々美ちゃんの時とは違う。しかし、どちらもその先に何があるのかは相変わらず分からないままだ。レイが吾郎さんに花を渡す。紫色の、トゲトゲした花。
「コレが君の花」
そう言うとレイは紫色のトゲトゲした花を渡す。
「アザミ。花言葉は『復讐』」
復讐……。すると突然、俺は吾郎さんに胸ぐらを掴まれた――。
「お前もいずれ俺と同じ所に来る。待ってるぜ、巡也」
さっきとは違って言葉が出てこない――。
「はやくシテ」
レイのおかげで吾郎さんは俺から手を離してくれた。そして、吾郎さんは奈々美ちゃんが行った方向とは逆へ、レイと一緒に歩いていった。
「巡也」
吾郎さんが振り返ることなく俺の名前を呼ぶ。
「お前だって、自分のしたこと分かってねえだろ。お前こそ、変わるのが怖いんだろ?」
その通りだった。俺が吾郎さんに言ったことは、俺自身に言うべきことでもあったのかもしれない。俺は知ることが……変わることが怖いんだ。
「またな、巡也!」
それが最後に聞こえた、吾郎さんの言葉だった。奈々美ちゃんの時のように光に包まれる訳でもなく、いつの間にか吾郎さんは闇の中に消えていった。
しばらく経つと、レイだけが戻ってきていた。吾郎さんは、進んだみたいだ……。俺も吾郎さんと同じ所に行くのだろうか? そんなことを考えていると、ゼロが俺の肩にそっと手を置く。
「巡也さん。あなたはもう、変わっていますよ。あの方と同じではありません」
「ゼロ……」
ゼロの不気味な笑顔が、初めて優しい笑顔に見えた。
「そうだよ。巡也は違う。僕達もちゃんと決めよう。自分のことをちゃんと見て、知って、決めよう。そうすればきっと大丈夫だよ」
「うん……」
何となく返事してしまった俺の頬にレイの冷たい手が触れる。
「君はカワレル。その道は変わることはないかもしれないケレド。デモ、変わるかもしれない。ちゃんと見てあげて、茜のコト……」
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