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運命の色

 真実が見え始め、様々な考えが頭を過っていた。すると、懐かしい声が聞こえる。

「司さん!」

「奈々美ちゃん!」

 初めて会った時とは別人のように、奈々美ちゃんは普通に司に声をかけていた。そして、よく見ると奈々美ちゃんの後ろからレイとゼロも歩いてきた。

「私、ちゃんと決めましたから……」

「えっ?」

 奈々美ちゃんはそれだけ伝えると、たくさんの花の中へゆっくりと、歩いていった。レイとゼロは花々を囲むようにして両端に立つ。

『今から3番の運命の時を始めます』

レイとゼロが同時に言い放つ言葉によって、和やかな雰囲気が一変した。

「来ちゃいましたね。行こうか、誠。」

「うん……」

 レイとゼロが来た途端、誠君は再び笑平さんの後ろに隠れていた。まるで2人に怯えているかのように。すると、レイがこちらを見て笑平さんに声をかける。

「見ていかないノ?」

「はい。他人の決断に興味はないので。巡也さん、司さん。またご縁があればお会いしましょう」

 そう言うと笑平さんは誠君を連れて、足早にどこかへ行ってしまった。

「君達は見ていくと良いヨ。運命の時ヲ」

「私も……巡也さんと司さんに見て……ほしいです」

 奈々美ちゃん自身がそう言ったので、俺と司はここにいることを選んだ。今から……運命の時が始まる。


「3番、始めるヨ?」

 レイが奈々美ちゃんをまっすぐ見つめて、問いかける。

「は、はい。お願いします」

 奈々美ちゃんは少し怯えながらも、レイをしっかりと見ている。司も奈々美ちゃんを心配そうに見つめていた。異様な雰囲気を漂わせているレイとは違って、ゼロはいつものように微笑みながら奈々美ちゃんに問いかける。

「奈々美さん。今回はずいぶんと変わりましたね」

「はい……。巡也さんと司さんのおかげです」

 奈々美ちゃんの視線と司の視線が重なる。奈々美ちゃんはにっこり微笑んで、続けて言った。

「私、こんな自分じゃダメだって……思ってました。ううん、まだ……思ってます。でも、司さんは私を、こんな私を『今の私で良い』って言ってくれました。私、それが本当に嬉しくて」

 奈々美ちゃんは、時々言葉を詰まらせながらもゆっくりと話していく。

「奈々美ちゃん、変わったな。司のおかげだな」

 俺はボソッと、そんなことを呟いていた。奈々美ちゃんのことはほとんど何も知らないが、最初に会った時とは明らかに違っている。何か変化を与えたとすれば、司しかいない。

「違うよ。奈々美ちゃんが自分で選んだことだから。僕は何もしていない。きっと……答えは奈々美ちゃんが持っていたんだよ」

 まるで自分のことのように喜べる司も、自分自身を変えた奈々美ちゃんも俺にとっては羨ましいと思えた。俺は自分を変えることができない……。だからこそ、ここにいるのかもしれない。

「私がしたことは、後悔しています。もっと違う方法があったかもしれないなって……」

「そう思えるようになっただけでも、奈々美さんは変わりました」

「そうだネ。前の君は怖がってるだけで、何もしなかった。選ぶことも選ばないこともしなかった」

 笑平さんのおかげで何となく理解できるようになってきたが、まだレイとゼロの話は分かるようで分からない。でも、きっとそれがこの世界で俺の知らないことであり、俺が知らなければいけないことなのだろう。俺も、いつか……分かる日が来るのだろうか。

「私、今までずっと終わってしまったことを変えたい、やり直したいって思ってました。でも、それは違うんですよね。終わったことよりも、これからのことを私は考えたい」

「3番、君はどうしたいノ?」

「……私、変わりたいです。どんな結果だとしても私は止まることより進むことを選びます……。止まっていても、何も変わらない。でも、進めば変われる、そんな気がするんです」

「それが君の答えナノ?」

 俺と司は奈々美ちゃんを見つめることしかできなかったが、奈々美ちゃんは俺達の視線に気づいたのかこちらを見て微笑んでいた。

「はい……。これが……私の決めたことです」

 そう言い切った奈々美ちゃんはゆっくりと息を吐き、目を閉じた。

『審判終了』

 運命の時が始まった時と同じように、レイとゼロが同時に言い放つ。そして、そのまま2人は言葉を紡ぐ。

『判決を下します……。3番の道は……上、になります』

 レイとゼロが告げた瞬間、奈々美ちゃんは閉じていた目を開き、大粒の涙を流し始めた。それはきっと悲しい涙ではなく、嬉しい涙だったのだろう。なぜなら奈々美ちゃんは今までで見た中で1番の笑顔だったから――。


「奈々美さん、進むことができましたね」

 ゼロが泣き続ける奈々美ちゃんの傍まで歩み寄り、声をかける。

「はいっ! ありがとう、ございます……」

「君の花、カンパニュラ。花言葉は『後悔』ダヨ?」

 奈々美ちゃんは涙を拭い、レイから花を受け取る。それはピンク色……いや、薄い紫色の可愛らしい花だった。

「では、行きましょうか」

「ゼロさん、ちょっと待ってください。少しだけ、時間を貰っても良いですか?」

「どうぞ」

 すると、最初は俺達に近づくことなんてなかった奈々美ちゃんが自らこちらに向かって走ってくる。今の奈々美ちゃんは後悔などという花言葉が似合わない、花が咲いたような笑みを浮かべていた。

「巡也さん、司さん。本当にありがとうございました」

 そう言って深く頭を下げる奈々美ちゃんに俺達は慌ててしまう。

「頭を上げてよ! こちらこそありがとう。奈々美ちゃんは本当にすごいよ。本当に……」

「進むことができたのはお二人に会えたからです」

 俺はその言葉に違和感を覚えた。

「奈々美ちゃんを助けたのは司だけだよっ。俺は何もしてないし」

「そんなことないです! 巡也さんはこんな私の話を聞いてくれました。そのおかげで私はすごく楽になれたんです。だから、言わせてください! 本当にありがとうございました」

 誰かにお礼を言われたのは久々だった。すると、突然、司が奈々美ちゃんの肩を掴む。

「つ、司さん!?」

 これには、さすがの奈々美ちゃんも驚いたみたいだった。勿論、奈々美ちゃんだけではなく、俺も同感だ。

「奈々美ちゃん、『こんな私』って言うのは止めようよ」

「えっ?」

「奈々美ちゃんは自分を変えた本当に素敵な女の子なんだから『こんな』なんて止めよう。もっと自分に自信を持ってよ。ね?」

 最初は口をパクパクさせていた奈々美ちゃんも司の真剣な目を見て、小さく頷いていた。

「では、さようなら。巡也さん。司さん……!」

「バイバイ、奈々美ちゃん」

「じゃあな」

 奈々美ちゃんはゼロと一緒に歩いていったかと思うと、すぐに立ち止まった。

「司さん!」

「ん?」

「……司さんももっと自分に自信を持ってください」

 こちらを見ないまま、奈々美ちゃんは続ける。

「司さんみたいな素敵なお兄さんなら、妹さんもきっと幸せだったと思います。何も分かりませんけど、自分のことを責めないでください」

「奈々美ちゃん……」

「い、妹さんにとって司さんは自慢のお兄さんだと思います!」

 そう言って振り返った奈々美ちゃんの目から涙が零れ落ちる。

「――だって、司さんは……私の自慢の友達、ですから!!」

 隣を見ると司は何度も何度も目元を拭っていた。

「ありがとう。ありがとう……」

 俺は照れくさくてお礼なんて言えなかったけど、心の中ではまるで呪文のように「ありがとう」と唱えていた。だって、「自慢の友達」……そんなことを言われたのは生まれて初めてだったから。初めて誰かに認めて貰えた……そんな気がしたんだ。


 そのまま奈々美ちゃんはゼロと一緒に真っ暗な世界に並んだ花々の向こうへ歩いていった。奈々美ちゃんが見えなくなった頃、一瞬だったが、闇の中に真っ白な光が見えた気がした。

「……レイさん。奈々美ちゃんにはもう会えないんですよね?」

「そうだネ。3番は進んだカラ」

「もっと、話したかったな」

「君達も選べば会えなくナル。でも、進むことがデキル。運命の時は必ずやって来るヨ?」

 その時、レイは司ではなく俺だけをただじっと見ていた。その目が余りにもまっすぐで、俺は目を離せなかった。ゼロに声をかけられ、俺はやっとレイから視線を逸らすことができた。

「巡也さん、司さん。これが運命の時です。いかがでしたか?」

「決めなきゃいけないんですね。僕達も」

 ようやくレイも俺から視線を逸らし、異様な圧迫感から解放される。

「そうだネ。自分を認めた者だけが進むことがデキル。今の君達では進めナイ。……まだ選んでいないカラ。――1番分からないのは自分のコト。自分がどこで何をしたいのカ、どこへ行きたいのカ」

 自分のことを知るのが1番難しい。それは間違っていないが、俺はこの世界で自分以外のことも何も知らない気がする。

「……レイとゼロはどうしてここにいるんだ?」

「どうしテ?」

「いや、気になったから……」

「巡也さんが初めて私達に興味を抱いた……。これは巡也さんにとって、とても大きいことかもしれませんね」

「え?」

「君が初めて他人を見ようとしているデショ?」

 自分から他人のことを見ようとしている。これが進んでいる結果なのだろうか?

「君達のために教えてアゲル。私達のコト」

 今まで何も分からなかったレイとゼロの真実を聞けるのが俺は単純に楽しみでもあった。レイはいつものように淡々とした口調で話し始めた――。


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