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悪意遊戯  作者: ハデス
1/4

1~3日目

〈1日目――10月6日 日曜日〉

 

 その日、僕は彼女と出会った。


「こんにちは……」

 画面に映った彼女は、そう言ってにっこりと微笑んだ。

 かわいい少女だった。

 中学生くらいかもしれない。

 つやのある黒髪を左右でしばっている。

 それこそアイドルくらいに魅力的な女の子。

 そんな少女がパソコンの画面に中にいる。

 僕の部屋……。

 アニメやゲームの美少女のグッズや人形、ポスターその他色々にあふれている。昼間なのに薄暗いのは、カーテンをしめきっているからだ。

 そんな部屋で、不釣合いに、不似合に、少女が微笑んでいる。

「……本当、だったんだ……」

 声が震えているのが自分でもわかる。

「ネットの中にいる女の子……ただのうわさじゃなかったんだ……」

 その声も外見を裏切らない。

 鈴を鳴らすような声とは、こういうものなのだろうか。

「ええ」

 そう言ってまた女の子が微笑む。

 本当に自然に、少しも嫌な感じではない魅力的な笑顔……。

 年頃の――それも異性に縁がない少年であったなら、きっとどぎまぎしてしまう違いない。

「わたしとお友達になってくれる……純粋な心を持った人だけがわたし達を見つけてくれるの……」

「君以外にも……いるの?」

「うん。みんなお友達に見つけ出してもらって……」

 寂しそうな色が少女に浮かぶ。

「ねえ? わたしとお友達になってくれる?」

 それから、そう彼に訊いてきた。

「……いいの?」

 怯えたような声が、少年の口から漏れる。

「もちろんよ」

 少女の顔が大きくなる。きっと少年のほうに身体を乗り出したのだろう。

「ねえ……あなたの名前教えてくれる?」

「あ、うん……」

 僕はちょっとうつむき、ためらいがちに名乗った。

「坂上……純」

「いい名前ね?」

「そう……かな?」

 えへへ、と照れたように笑う。

「君は……?」

「わたし……?」

 ちょっと表情を曇らせる少女。

「まだ、ないの……」

「ない?」

「うん。だから……つけてくれる?」


 ――僕は、彼女に『リリィ』という名前をつけた。

 彼女は一瞬怪訝そうな表情をしていたが、僕が不安そうに『……気に入らないかな?』と言うと、ううん、と頭を振り、にっこりと笑顔になったのだ。

 これから始まるであろう日々を予感して、僕の胸は高鳴った。

 本当に、心の底から。



〈2日目――10月7日月曜日〉


『そうか』

 静かな声。

 落ち着いた男のものだ。

『どうやら無事に接触できたようだね』

『ええ……』

 応じた声は女性のものだった。声だけではわからないが、大分若いようだ。まだ二十歳にすら届いていないかもしれない。

『ん? 不服そうだね』

 声のやりとりから察するに、ふたりは上司と部下のもののようだ。   いったい、いかなるものであるかは知れないが。

『あまり……こういったやり方は好きではありません』

『だが、仕方はないさ』

 諦観、というよりは諭すような男の声。

『ええ、わかってはいます』

 しかし、どこか納得しきれないのだろう。その声音には、少しだけ苦いものがくすぶっている。

『まあ、それも仕方ないことだ。だが、そのうちになれる』

『だけど……彼は愉しんでいますよ……』

 わずかな非難が、そこに響く。

『ふむ。まあ、彼の言動や思考を問題視する者達も上層部には多いがね。だが、彼はそれを補って余りあるほどに有能だ』

 と、そこで一瞬言葉を切り、

『それは、君も承知だろう?』

 どこか含むところがあるように言う。

 彼女の息を飲む音が聞こえる。言外の肯定。それに、彼は満足したように、

『まあ、彼のサポートをきっちり頼むよ』

『……了解しました』



〈3日目――10月8日火曜日〉


 パソコンの電源を入れる。

 立ち上がるまでの時間がもどかしい。

「早く、早く……」

 画面に表示される砂時計のマークが消えるのも待てず、画面上の『リリィ』という名前のアイコンをクリックする。

 画面に彼女の顔が浮かぶ。閉じていた目を開き、僕の姿を認めると彼女はにっこりと笑った。

「おかえりなさい純君」

「ただいまリリィちゃん」

 僕も笑顔で答える。

 満面の笑顔で、迎えよう。

「逢いたかったよ」

「わたしもよ」

「さあ、今日は何をお話しようか?」

 彼女と出会ってから二日目。僕と少女は時間の限り、たくさん話した。だいたいは僕が一方的に話しているだけ……。それも大体がゲームやアニメのことばっかりだったのだが、彼女は嫌な顔ひとつせずに耳を傾けていた。

「つまらなくないの? こんな話ばっかりで……」

 僕が不安そうに尋ねると、

「そんなことはないよ。純君とお話するのとても楽しいよ」

 彼女はそう言う。

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 僕は頭を掻きながら、

「クラスの女の子は、僕の事をさけるからさ……」

「そうなの?」

「……うん。気持ち悪いとか根暗って……。女子だけじゃない。男子も僕とは仲良くしてくれないんだ」

「みんなは、わかってくれないんだね。純君のこと……」

「君は……わかってくれる?」

「もちろんよ」

「……ありがとう」


「君に逢えて……本当に嬉しいよ」

 嘘じゃない。

 何せ、僕はこの半年あまりの間、ずっと彼女を捜し求めていたのだから。



この作品は、すぐに完結すると思います。

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