1~3日目
〈1日目――10月6日 日曜日〉
その日、僕は彼女と出会った。
「こんにちは……」
画面に映った彼女は、そう言ってにっこりと微笑んだ。
かわいい少女だった。
中学生くらいかもしれない。
つやのある黒髪を左右でしばっている。
それこそアイドルくらいに魅力的な女の子。
そんな少女がパソコンの画面に中にいる。
僕の部屋……。
アニメやゲームの美少女のグッズや人形、ポスターその他色々にあふれている。昼間なのに薄暗いのは、カーテンをしめきっているからだ。
そんな部屋で、不釣合いに、不似合に、少女が微笑んでいる。
「……本当、だったんだ……」
声が震えているのが自分でもわかる。
「ネットの中にいる女の子……ただのうわさじゃなかったんだ……」
その声も外見を裏切らない。
鈴を鳴らすような声とは、こういうものなのだろうか。
「ええ」
そう言ってまた女の子が微笑む。
本当に自然に、少しも嫌な感じではない魅力的な笑顔……。
年頃の――それも異性に縁がない少年であったなら、きっとどぎまぎしてしまう違いない。
「わたしとお友達になってくれる……純粋な心を持った人だけがわたし達を見つけてくれるの……」
「君以外にも……いるの?」
「うん。みんなお友達に見つけ出してもらって……」
寂しそうな色が少女に浮かぶ。
「ねえ? わたしとお友達になってくれる?」
それから、そう彼に訊いてきた。
「……いいの?」
怯えたような声が、少年の口から漏れる。
「もちろんよ」
少女の顔が大きくなる。きっと少年のほうに身体を乗り出したのだろう。
「ねえ……あなたの名前教えてくれる?」
「あ、うん……」
僕はちょっとうつむき、ためらいがちに名乗った。
「坂上……純」
「いい名前ね?」
「そう……かな?」
えへへ、と照れたように笑う。
「君は……?」
「わたし……?」
ちょっと表情を曇らせる少女。
「まだ、ないの……」
「ない?」
「うん。だから……つけてくれる?」
――僕は、彼女に『リリィ』という名前をつけた。
彼女は一瞬怪訝そうな表情をしていたが、僕が不安そうに『……気に入らないかな?』と言うと、ううん、と頭を振り、にっこりと笑顔になったのだ。
これから始まるであろう日々を予感して、僕の胸は高鳴った。
本当に、心の底から。
〈2日目――10月7日月曜日〉
『そうか』
静かな声。
落ち着いた男のものだ。
『どうやら無事に接触できたようだね』
『ええ……』
応じた声は女性のものだった。声だけではわからないが、大分若いようだ。まだ二十歳にすら届いていないかもしれない。
『ん? 不服そうだね』
声のやりとりから察するに、ふたりは上司と部下のもののようだ。 いったい、いかなるものであるかは知れないが。
『あまり……こういったやり方は好きではありません』
『だが、仕方はないさ』
諦観、というよりは諭すような男の声。
『ええ、わかってはいます』
しかし、どこか納得しきれないのだろう。その声音には、少しだけ苦いものがくすぶっている。
『まあ、それも仕方ないことだ。だが、そのうちになれる』
『だけど……彼は愉しんでいますよ……』
わずかな非難が、そこに響く。
『ふむ。まあ、彼の言動や思考を問題視する者達も上層部には多いがね。だが、彼はそれを補って余りあるほどに有能だ』
と、そこで一瞬言葉を切り、
『それは、君も承知だろう?』
どこか含むところがあるように言う。
彼女の息を飲む音が聞こえる。言外の肯定。それに、彼は満足したように、
『まあ、彼のサポートをきっちり頼むよ』
『……了解しました』
〈3日目――10月8日火曜日〉
パソコンの電源を入れる。
立ち上がるまでの時間がもどかしい。
「早く、早く……」
画面に表示される砂時計のマークが消えるのも待てず、画面上の『リリィ』という名前のアイコンをクリックする。
画面に彼女の顔が浮かぶ。閉じていた目を開き、僕の姿を認めると彼女はにっこりと笑った。
「おかえりなさい純君」
「ただいまリリィちゃん」
僕も笑顔で答える。
満面の笑顔で、迎えよう。
「逢いたかったよ」
「わたしもよ」
「さあ、今日は何をお話しようか?」
彼女と出会ってから二日目。僕と少女は時間の限り、たくさん話した。だいたいは僕が一方的に話しているだけ……。それも大体がゲームやアニメのことばっかりだったのだが、彼女は嫌な顔ひとつせずに耳を傾けていた。
「つまらなくないの? こんな話ばっかりで……」
僕が不安そうに尋ねると、
「そんなことはないよ。純君とお話するのとても楽しいよ」
彼女はそう言う。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
僕は頭を掻きながら、
「クラスの女の子は、僕の事をさけるからさ……」
「そうなの?」
「……うん。気持ち悪いとか根暗って……。女子だけじゃない。男子も僕とは仲良くしてくれないんだ」
「みんなは、わかってくれないんだね。純君のこと……」
「君は……わかってくれる?」
「もちろんよ」
「……ありがとう」
「君に逢えて……本当に嬉しいよ」
嘘じゃない。
何せ、僕はこの半年あまりの間、ずっと彼女を捜し求めていたのだから。
この作品は、すぐに完結すると思います。




