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one year

「…朝か」


むくりと起き上がる優美。

布団は滅茶苦茶。

髪の毛はぼさぼさ。

普段から見開かれてない目が寝ぼけているのか余計細くなっている。


「…太陽光はそんなにまぶしくないんだけどねこっちは」


部屋があるのは西側。

なので朝の直射日光は入ってこない。

まあどのみちすぐ外に出て掃除するので、

どのみち浴びる羽目になるのだが。


「ふあぁあ…いっけねえなあ…もうちょい早めに寝ねえと…」


相変わらず夜寝るのがすこぶる遅い優美。

ひどい時は千夏が寝ているのにも起きているので。

それでも毎日6時くらいには目が覚める辺り、

習慣とは恐ろしき物か。


「…さっさと起きますかねえ」


そのまま起き上がって着替えて、

髪を結ぶ優美。

最初期こそできなかったが、

もはや無意識的に行えるほどにはなっている。


「…そういや今日は何日だ…?」


ちらっと壁にかかったカレンダーに目をやる優美。

赤く丸が付けられた日が目にとまる。


「…あ、そうだ。今日じゃん」


何かを思い出したらしい優美である。


「…ま、だからと言って何かするわけでもないんだがね」


そのまま外へと掃除しに行く優美。


「…そろそろ落ち葉がヤヴァイ季節になってくるなあ」


今のところはそこまで量が多くないが、

もう少し季節が移ろえば、

落ち葉まみれになるのは明白である。

いかんせん木だらけなので。


「…懐かしいな。もう去年か」


落ち葉が舞う季節。

境内の掃除が大変な季節。

それは一年前の話である。

早い話であった。


「…もう、一年か」


そう、

カレンダーに描いてあった丸の意味。

それは今日がここに来てちょうど一年であることを意味していたのである。


「…ってまあ一年経ったけどほとんど変わってないんだけどな」


今の体に慣れて、

ここでの生活にも慣れ、

こっちで新しく友達と呼べる人間が増え、

ちょっと乙女みたいなところができた。

人間的には大して変わるはずもなく、であった。


「…いや結構変わってる?まあいいか」


呟きながら掃除する優美。

一年経ったからと言って大してやることも変わらない。

神社自体は大きな変動が起こるはずもなかったのである。


「優美ちゃーん!朝ごはん!」


「今いくー!…このやり取りも365日か。感慨深いもんがあるね。…あいや、もうちょっと短いか?」


さすがに来て初日からこんなやり取りはしていないので。

本格的に神社で仕事回しをし始めたのは

約一週間くらいたってからの出来事である。

さすがに最初は現状把握だけで精いっぱいであった。


「おっはー」


「おはよう」


「そしておめでとう」


「え、何が」


「我々はこの環境下で一年という時を生き延びることに成功しました」


「あ、もしかして今日で一年経ったの?」


「もしかしなくてもそうなんですな。いやー早いもんで」


「ほんとねー。というかすっかり忘れてた」


「お前元々いたんじゃないかって思うほど順応してるもんな」


「それ褒め言葉なんです?」


「褒め言葉じゃないかな」


「じゃあそういうことにしとく」


「そうしといて」


というわけで朝食をとり終えた二人。


「そっかー、一年経ったんだねー」


「ここの生活楽しかったからかあっという間だったな」


「ほんとねー。時間はあるし、やりたいことできるし」


「恋もしたし?」


「ま、まだそういうんじゃないし」


「認めろやい」


「まだだーまだ認めんぞー。ほとんど受け入れてはいるけど」


「そのまま流れで」


「それは駄目なのです。一応まだ男の意識もあるからね」


「え、あったの?」


「ありますよ!そりゃ」


「もうお前のことだから消失してんじゃないかと」


「あるからね。さすがにそんな高速で消えないからね」


「でも女の子満喫してるよね」


「それとこれとは別。というかそれ言い出したら優美ちゃんだって満喫しているではないですか」


「そりゃせっかく自分の好きにしていい美少女がいるんだもの。いじってみたくなるではないですか」


「私だってせっかく女の子になってるんだからオシャレとかしたいですよ?」


「しかしお前は自然体すぎてだな…元々そうだったんじゃないかと」


「まあ確かにゲームとかやってても服ばっか増えてったりしてたし、こういうこと女の子になったらやってみたいなーとか思ってたけどね」


「でもよくよく考えたら化粧関係はほぼ触ってないよね」


「元がいいからね」


「言い切りやがった」


その手の物はほとんど置いてない。

あって化粧水くらいなものである。


「というか今日ある意味記念日だしなんかする?」


「どっちゃでもいいけど」


「じゃあやりませう」


「いいけど何するん?」


「んー…レッツパーリー?」


「パーティーするんです?」


「そうそうパーリーするんです。まあそんな大々的にやる必要はないかなーとか思うけど。いつものみんなと一緒に」


「でも俺たちが飛んできた日とは言えないぞ」


「んー…まあ神社建設記念日みたいな感じでいいんじゃない?」


「いいんだろうか」


「まあどうせ誰にも分からんとですよ」


「まあええか」


「じゃあしげちゃんと佳苗ちゃん呼ぶです」


「安定しすぎてやばいな」


「もう二人とも一年近い付き合いになるんですね」


「長くなってまいりました」


「まだまだ付き合い長くなりそうだけどね」


「切れそうにないな」


「気が合うんです」


「片方とはラブラブだもんな」


「言うなし」


「仕方ないね。まあでも」


「ん?」


「俺らとの長さにはおっつかねえけどな」


「まあ…そもそもここ来る前からの付き合いだもんね?」


「長いとかいう次元じゃなくなってきたぜ」


というわけで流れで、

ちょっとした宴会的な物を開くことにした二人。


「おいーっす」


「あ、優美ちゃんおっす」


「やっほー!ちなっちー!」


「佳苗ちゃんやっほー」


ほどなくしてメンツが集まる。


「ねえねえ、なんで今日突然宴会やろーぜってなったの?」


「ん、ああ、それはだな。なんかこの神社の建設した日が今日らしい」


「あ、そうだったんだー。じゃあ盛大にお祝いしないとね!」


はしゃぐ佳苗。


「へぇ…この神社今日建設されたんですか」


「そうらしいよ」


「だったらやっぱり盛大にお祝いしないとダメですね」


「と言っても詳しいことは私たちも知らないんだけど…」


「いやいや、この神社が無かったら千夏さんとは会えてないかもしれませんからね」


「ちょ、しげちゃん」


顔が赤くなる千夏と、

それを見てる茂光。


「まあまあ、それじゃあ皆様。とりあえずだが乾杯しようぜ」


「いやお酒じゃないんだし」


「まあまあ、ある意味区切りだし、レッツパーリーしてるんだしいいじゃないか。つーわけで全員構えろー」


その言葉通り全員思い思いの飲み物を構える。

ペットボトルだったり、

コップだったり無茶苦茶だがそれでいい。


「とりあえず、来年もよろしゅうな。ってまあおかしいかもしれんけど。ほな乾杯」


「「「かんぱーい!」」」


それからしばらくして、

なにやら優美が気づいた様子。


「どうかしたの?」


「ん…ああ、ちょっと縁側行ってくるわ」


「?…ああ、行ってらっしゃい」


リビングから席を外す優美。


「優美ちゃんどうかしたのー?」


「えーっと、ちょっとね?」


「何故濁すー、あ、まさか彼氏来てるとか!優美ちゃんの!」


「えー…」


「…え、マジ?」


「彼氏って言うかなんというか…」


「マジで!ちょっと見て…」


「やめろって。仮にそうだとしたら邪魔すぎるだろ」


「えーでも優美ちゃんの彼氏気になる―」


「き、聞いたら教えてくれるんじゃないかなー」


「よし、あとで尋問しよう」


「お前のその無駄な執念はなんだよ…」


三人が三人でワーワーしてる間、

少し離れて静かになってる縁側に優美ともう一人の影があった。

優美の方が相変わらず少しだけ大きい。


「全員集合しちゃったな。この日に。奇跡的だなー」


「いいの?」


「んー?何が?」


「わいわい聞こえたから…何かやってるのかなって」


「あー今日ここの神社の建設日らしいからね。ちょっと千夏が学校の友達呼んでたの」


「そうだったんだ」


「まあどうせ遅くまでいるだろうしちょっとくらい抜けても平気平気」


「えーっと、ごめんね?僕のために」


「いいのいいの。君とは会える時間限られてるからね。せっかく来てくれたんだし?」


軽く笑む優美。

それを見て少年の顔も緩む。


「君とも長いよねー。もうそろそろ一年だよ」


「そうだね。最初はあんまり話したことも無かったけど…」


「よく遊びに来てたよね」


「覚えててくれたの?」


「んーあんまり私人覚えるの得意じゃないんだけどね。でもさすがによく来る子は覚えてたかな」


「よかった優美姉に覚えてもらえてて」


そのまま話し続けた二人。

そうこうしているうちに時間も過ぎていく。

楽しい時間と言うのはあっという間である。


「じゃあ、またね優美姉」


「またね翔也君。また来年もよろしくね。ってこの挨拶おかしいか?」


「大丈夫、僕にとっても今日は特別な一年だから」


「そうなの?」


「初めて優美姉を見た日だったから。だからその時から一年だから」


「そうだったんだ」


「だから、来年も、よろしくね?」


「うん、よろしく。それじゃあね」


「バイバイ優美姉」


翔也の後姿を確認して部屋へと戻る優美。


「ただいまー」


「お!帰ってきた!優美ちゃん!彼氏ですか!」


「な、なんだしいきなり」


「だって、いきなりいなくなるから気になってー。確認したいのにこいつが止めるしー」


「ナイス茂光」


「おう」


「それで!やっぱり彼氏さんなんですかっ!」


「秘密」


「えー!?」


「乙女にゃ秘密がつきもの言うだろ」


「むー教えてよー!」


「拒否させていただく」


とは言えど拒否した時点で

事実上の肯定みたいなものではあるが。

そんなこんなで時間は過ぎて。


「じゃーまたねー二人とも―」


「それじゃあ千夏さん優美ちゃん。また」


「また会おうねー!次こそ彼氏が誰なのか教えてねー優美ちゃん」


「教えねーっつーか彼氏とは一言も言ってねえ!じゃあな」


嵐のようなワイワイが過ぎ去り、

いつも通りの静かな神社に戻る。


「…いやー一周年すさまじいっすな」


「大盛況でしたね」


「全員ヒャッハーしてたな」


「まあパーティーだしいいんじゃない?」


「別にいいと思うよ」


「優美ちゃんの相手もきたし」


「まだ相手とは決めてねえよ」


そのまま縁側に座り込む二人。


「…なんだかんだ色々あったなー」


「あったねー」


「…きっと今後も続いてくんだろうな、こういう生活」


「続いてくと思うよ」


「…女の子として、巫女として…ってまあこれ最近俺だけになりつつあるけど」


「ま、まあ代わりに家事やってますから」


「そのうち結婚してさ、子供作ったりするんだろうかね」


「するんじゃない?一人身にはならないと思うからね」


「ちなみに子供何人くらい欲しい?」


「二人くらい。男と女で一人づつかな」


「やっぱそうなるよね」


「うん」


「つまり最低でも二回は男のモノを受け入れる必要があるってことですね!」


「なんでテンション上がってるんですか」


「なんとなく。まあでも実際そうだし」


「まあね。実際もっと数増えるだろうけど」


「つーか産むのこっちなんだよね」


「女ですが故致し方なし」


「せやな」


空を見上げる。

星が見えた。


「まあ妙なことになっちまったが、女になった男の人生とかそうそうやれるもんじゃねえからな。楽しまなきゃ損よな」


「ねー。まあ今最高に楽しんでるけどね」


「こうして古くからの親友もいることだしな」


「ねー」


「んじゃま。今後ともよろしくよ」


「末永くよろしくー」


流れ星が空を流れた。


次で一区切り。

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