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公開

「…なんかお前もこの光景に馴染んだよなあ」


呟きながらイナリに餌をやる優美。

気が付けばイナリもこの家に来てから半年近く。

えらくこの光景に馴染んだものである。


「やっぱ最初よりもでかくなった?気のせい?知らんか?」


イナリに向かって話しかける優美。

学校がある時の昼間の世話は優美である。

さすがに空間を超えての世話は無理であるので。


「…それにしてもお前は全く俺らを怖がらねえなあ。最初っからだけど」


イナリの頭をなでながらつぶやく優美。

あんまり人に大して警戒が無いように思われるイナリである。

よくも悪くも出会ったのが子供の時だったのが幸いしたのか。


「つーかなんか最初触るの拒否ってたのにいつのまにかふつーに俺も触ってるし。慣れって怖いなおい」


優美は動物はあんまり好きではない。

触れないわけではないが、

臭いが嫌だーとの理由である。

が、こんだけ一緒に生活してるとそんなもんどうでもよくなったようである。


「よーしよーし。ちょっと外出る?出るか」


イナリを抱え上げる優美。

そのまま縁側方面まで行って座り込む。


「…まだ暑いなあおい。イナリさんや。毛皮暑くねえですかね」


一声鳴くイナリ。


「やっぱ暑いんかねぇ?お前結構涼しい中にいるもんな」


家の中はクーラーがついてる所為か、

涼しくなってることが多い。

特に優美がいるときは高確率でついている。


「む、誰か来たか?」


足音がしたので一応注意を払う優美。

行こうかどうか迷っていると、

縁側の脇からひょっこり顔を出す影が一つ。


「んーあ?川口か。珍しいな一人で」


「久しぶり―…でもないか?優美ちゃん」


「まあうん。この前会ったばっかな気がするな。千夏一緒じゃないの?」


「先帰ったのかなーと思ってたんだけどまだ来てない感じかー。あれかな?下校デート中?」


「かもな。とりあえずまだ帰ってきてない」


「そっかー」


現れたのは川口佳苗。

千夏の同級生にして同じクラスかつ千夏の親友とも呼ぶべき存在である。

ここまで来るときは二人で来るのが多いのだが、

まあ一人の時もあるだろう。


「ん?優美ちゃんその子は?」


「ん?何が?」


「その膝の上に乗せてる子」


「ん、ああー。そういや見せたことなかったっけか。家で飼ってるペットかな」


「犬…じゃないし、猫でもないよね…その子」


「ああ、うん。狐」


「狐っ!?」


驚愕。

そんな顔である。

そりゃペットで狐を飼ってるとかいう家も早々ないであろう。


「ほ、本物なの?」


「少なくとも幽霊とかではないと思うがね。家の前で衰弱してたのを千夏がたまたま見つけてね。なんか流れでそのまま飼う感じになってる。イナリって名前」


「へえ、そんなことがあるんだ…というか狐がこのあたりにいたことに驚き」


「まあそれ以降そんなことないし見たこともないけどな」


まあ動物自体はたまに見かけるのではあるが。

タヌキとかは偶にうろついてるのを見かける。

狐は無いが。


「慣れてるねー。全然怖がってない」


「まーこれはむしろ千夏の手柄がでかいと思うよ。甲斐甲斐しく世話してたからな。その間に人慣れしたんじゃないか」


「ねえねえ、ちょっと触らせてもらってもいい?」


「ん、いいよ」


「ちょっと失礼しますよー…うわ、さらさらー。すっごいね」


「これまた千夏が以下略」


よく千夏が手入れしてあげているのである。

そこらへんは千夏任せの優美である。


「あ、佳苗ちゃん」


「あ、ちなっち、帰ってきたんだ」


ちらっと横を見ればいつの間にいたのか

千夏がいた。


「お帰り千夏」


「ただいまー優美ちゃん」


「茂光は?」


「下で別れたよー」


「ああ、そらそうか」


上にまではあんまり上ってこない茂光である。

まあそこは付き合う前も後も変わらずである。


「ん?というか何してるの?」


「ああ、優美ちゃんにイナリちゃん触らせてもらってたんだー」


「ああ、イナリ。そういえば話しただけで見せたことなかったもんね」


「ものすごい可愛いんだけど」


「でしょーもふもふ」


「ふもふも」


優美の膝の上で丸くなるイナリである。


「あ、いけない。やることあった。それじゃー二人ともまたねー!」


「ほいほい。そりでは」


「またねー」


その場からかけていく佳苗。

あっという間に階段を下って見えなくなってしまった。


「ん、千夏お帰り」


「うんただいま。珍しいねイナリと外にいるとか」


「なんかもそもそしてたから外連れ出しただけっていう」


「そうなの」


「まあとりあえず着替えてきたら?」


「あ、うんそうする」


そのまま玄関の方に回る千夏。

別に縁側からでも入れるのではあるが。


「お前人気やなあ」


その声に反応するようになくイナリ。


「…また誰か来たんかね?」


そんなことをしているとまた響く足音である。

静かなので意外とよく聞こえる。


「あ、翔也君か」


「こんにちは優美姉」


「うんこんにちは」


そこに現れたのは告白小学生純清翔也であった。

学校が始まってからというもの、

結構ここに来ることが多くなったように感じられる。


「…?優美姉、その子は?」


「ん?ああ、うちのペットだよ」


「…」


イナリを見つめる翔也。


「…狐?」


「お、よく分かったね。そうそう狐だよ」


「こんな子飼ってたんだ」


「実は半年くらい前から家にいるっていうね」


「え、全然知らなかった」


「うーんまあ普段は家の中にいるからね。外に連れ出したりするのは千夏だからさ」


「へえ…」


「座る?」


「うん」


横に座る翔也。

なんだか最近定位置になりつつある。


「…」


「触ってみる?」


「いいの?」


「大丈夫だと思うよ?イナリがいやがったら別だけど」


「イナリ?」


「そうそう狐のイナリ」


「イナリっていうんだ」


「うん。触ってみる?」


「うん」


そろそろと手を伸ばす翔也。

その手がゆっくりとイナリの頭へと触れた。


「…もふもふ」


「あはは。イナリ触った時の感想みんな同じだなあ」


「そうなの?」


「だいたいの感想の最初の一言がもふもふってね」


「…よしよし」


イナリの頭をなでる翔也。

いやがる感じもなく、

それを受けるイナリである。


「可愛いね」


「うん。とっても。千夏に感謝しとかないとね。この子千夏が拾ってきたんだよ。死にかけてたところをね」


「そうなんだ」


イナリについて話す二人。

数十分も話しただろうか。


「あ、今日は早く帰れって言われてたんだった。じゃあ僕そろそろ帰るね。またね優美姉」


「うん。それじゃあまたね。いつでもおいで」


「うん」


そう言って翔也もまた階段を下りて行った。


「…来客多いねえ今日」


いなりをもふもふしながら呟く優美。


「喋る相手できるからいいんじゃないんですか?」


「うおっいつの間にいたんだ」


「ちょっと前から来てたけど取り込み中だったみたいだから中にいた」


「ああ、そういう」


「翔也君と仲良いですね」


「まあよく喋るしね」


「お熱いようで」


「そういうんじゃねえからまだ」


「はいはい。あ、イナリ引き受けます」


「あ、よろしく」


イナリが一声鳴いた。


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