夏の終わり
「…むう、今日も普通にあっついんだが…」
そう言いながら空を見上げる優美。
「夏ですねえ」
「いやもう夏終わりなんだけど」
そろそろ八月も終わりかけ。
千夏も学校の宿題に追われている。
にも関わらず、
外はまだまだ夏のど真ん中のようにクソ暑い。
「はぁーいい加減涼しくなってくれんもんかねえ」
「まあまだ当分無理じゃあないですかね」
「最近九月に入ってもまだ暑いもんなあ…夏と冬が異常に長いのよねえ」
「過ごしやすい季節はどっか行きました」
「ほんとにな」
ふと耳を澄ますと、
聞こえてくるのは
カナカナカナと言う鳴き声である。
「お、ひぐらし鳴いてる」
「また近くにセミ来てるんですかね」
「まあここの周辺木だらけだし、そりゃまあ来るわね」
「まあ部屋の中に入ってこなければ別にいいけど」
「まあ、前みたいに飛び込んでこられるのは困る。しょんべんまき散らされると困るし」
「普通に虫が駄目なのです」
「それはねーけどさ。つーかひぐらし鳴いてるってことはやっぱり本格的に夏も終わりじゃねえ」
「学校がまた始まるのだわ」
「なんかお前嬉しそうよのう」
「まあみんなと会えますしおすし」
「さいですか」
「しげちゃんと佳苗ちゃんとも会えるしね」
「まあ少なくともお前はあの二人いれば安泰だよね」
「うん」
「学校ねえ。久しく行ってねえな。こうなるとは思ってなかったねえ」
「今からでも行くですか?」
「遠慮しとく。もうええわ」
一回行くのが無くなってしまった以上、
もう一回はやる気がしない優美である。
そこまでして学校には行きたくない。
「まあ今年の夏は楽しかったよ。色々あったしな」
「そうだねえ。色々あったねえ」
「なー」
「なんでこっち見るんですか」
「色々ってお前の身に起きたことが一番ビッグニュースだろーが」
「ま、まあ確かにそうかもしれませんけども」
「今の心境は」
「悪くない」
「まああんだけラブラブしてりゃ悪いはずねえか」
「ま、まだ気持ちまで全部持ってかれたわけじゃないしぃ」
「時間の問題だろ」
「…まあでも、確かに今年の夏は楽しかったですね」
「な」
「勉強にもそんなに追われてないから時間も取れたし」
「うんうん」
「やっぱり寝れて、やりたいことできるっていいよね」
「勉強地獄は勘弁願う」
「休みが休みじゃなくなる不具合」
「あるある。というか高校入ってからはずっとそうだったしな」
実際、
両者ともども、
前までは塾だ宿題だの関係で
夏休みが一番忙しいとかいう事態によくなったものである。
おそらくそこらへんは全国の高校生に結構当てはまるとは思うが。
「今年は解放されてたね」
「まあ、一回やった範囲ってのもあるんだけどな」
「ある程度は覚えてるもんね。ある程度は」
「それでも量があるときついけど」
「だから仕方なしに今やってるんですね宿題」
「最後の一週間で終われる量ならまだ有情ってもんだろ」
「全くですね」
このお喋りも
宿題やってる片手間だったりする。
優美が暇で飛んできたのだが。
「そして夏が終わろうがたぶん生活パターン変わらない俺氏」
「そりゃ優美ちゃんニートだし」
「ニートちゃうし働いとるし。まあそれでも自分の好きなように予定組んでるのは確かだけど」
「というか日中暇なんでしょ」
「暇だな。いや実際の巫女さんってもっと仕事あると思うんだがね?」
「まあうちはそこらへん適当ですものね」
「自己学習+αだしなあ。俺のイメージで組んでるし大体」
「よく経営できますね」
「掃除と商品補充に売り子、たまにお祓い的な?いやそんなもんしかしてないよ俺」
「偶になんか呪いの物体的なのの相手してるもんね」
「うん。まあよー分からんけど、今のところ被害は出てないからたぶんなんとかなってるんだろ。たぶん」
「神様に対して何にもしてないっていう」
「いや、たまにしてるけど」
「適当ですねえ」
「いや、神様信仰してねえからどうしようもない」
「そんなのが巫女やってていいのか。というか経営担当がそれでいいのか」
「まあいいんじゃないすか。まあ俺が神に祈るのは困った時だけだし」
「駄目だこの人」
元々そんな感じなので、
いきなり変える方が無理である。
といいつつそろそろここに来て一年経つわけだが、
いまだにそこらへんが変化する様子はない。
「つーかそろそろここ来て一周年だな」
「そーだね」
「知らんうちに慣れたなこの生活にこの体」
「まあ体の方はすぐ慣れたけど」
「状況適応能力高すぎ」
「人間は環境に適応する生き物なのだよ」
「いやまあそうなんだけど」
「でも朝から晩まで寝るときもずっとこの体なんだから慣れて当然だと思うんですが」
「最初は困惑したけどいろんな意味で」
「むしろ優美ちゃん幼女体系だからまだましだと思う」
「ん、あーああはいはい。まあそらそうか。お前の場合出るとこ出てますものね」
「言わんでいいです」
「胸」
「言うなっちゅーに」
「実際そんなどでかいメロンぶら下げててどうなの」
「言い方。言い方あるでしょう」
「夕張メロン?」
「いやそこじゃなくてですね」
「で、どうなのさね」
「いやさすがに慣れたよ」
「初期段階は」
「気にならないわけないでしょ。一応これでも男でしたわけですよ。胸にはあんまり興味なかったけど、自分についてるとなれば話は別です」
「つーかやっぱ重いん?」
「そりゃないのに比べたら重いですよ」
「へー。つーかやっぱり最初は自分の裸体見てヒャッホーしちゃったりしたんですかね」
「反応するモノがないですね」
「でも気にならないですか?」
「気にならないと言えば嘘になるけどね。自分好みだったし見た目」
「最初に鏡見たときの驚きよ」
「お前は誰だ状態」
「何が起こったか分からねえっていう」
「というかまず隣のこの子誰だろっていう」
「な。二重の驚き」
「リアル見知らぬ天井って言うね」
「目が覚めると見知らぬ天井が見えたを真面目にやる羽目になるとは思わなかった」
「そして隣に寝てる美少女」
「何このよくある展開」
「異世界じゃなかったけどね」
「ついでに自分ももれなく女の子になる特典つきです」
「しかも美少女」
「乗るしかない。このビックウェーブに」
「まあ全世界探してもこんなことになってるの私達くらいだと思うけど」
「意外といたりして」
「まあ否定はできませんが」
「実際俺たちだって、元々いたことにされてるわけだし、そうなってたら分からんってきっと」
「だよねー」
「お前の席の隣の女子は本当に女の子ですか…?」
「さすがに女の子だと思いますよ?…そうだよね?」
「疑心暗鬼に陥りそう」
「まあそんなに深刻でもないんだけどさ」
「まあね」
「む、というか喋ってたら手が止まってた」
「あ、すまん。進めて」
「というか教えて」
「英語は無理よ」
「大丈夫数学にした」
「ならいける」
ひぐらしの鳴き声が境内へと響いた。




