ボードゲーム
「窓っ!窓しめてっ!」
「ほいほーい」
優美と千夏が家の中を駆ける。
それもそのはず、
唐突に雨が降ってきたからである。
家が広いので、
閉めなければいけない場所も当然多いわけで。
「販売所も閉めてくるわ」
「うん。でももう若干降り始めてるから早く」
「おうよ」
売り物が濡れちゃたまったものではないので、
若干濡れるのは覚悟の上で、
雨の中へと飛び出す優美。
空を見上げれば黒雲が浮かんでいる。
「なんだってえ、突然こんなにぃ」
ぶつぶつ言いつつも、
急いで販売所を閉める優美。
雨が強くなってきた。
「やっべ、濡れる濡れる」
素早く家の方へと走る優美。
それでもさすがに完全に雨を躱すなんて芸当はできるわけがなく、
ある程度は水が引っかかる。
「うがー、ちょっと行って帰ってきただけなのに。ひっでこれ」
「あ、お帰り」
「ただいま、窓とか閉めた?」
「うん。縁側とかも閉めた筈だからこれでいいはず」
「ふー。一安心ですな」
「突然だったもんね」
「とりあえず、ちょっと着替えていいか」
「あ、うん、濡れてるもんね」
「ああ。すまん、ちょっと着替え俺の部屋から持ってきて。洗面所いるわ」
「分かったー」
替えはあるので濡れた状態のままでいる必要はない。
洗面所で着替える優美。
「今見たけど優美ちゃん、巫女服多くないですか」
「別に増やしてないぞ。初期状態」
「そうなの?明らかに私の部屋に置いてある数より多いけど」
「…先代が俺みたいな感性の持ち主だったとか?」
「あれですか。ほとんどずっと巫女服っていうあれ」
「そうそれ」
「そうなのかな」
「さあ、でなきゃ、俺たちがぶっ飛ばされたときに好みに合わせて押し込まれたか」
「真相は不明」
「闇の中だな。調べようもないし」
とりあえずリビングに戻る二人。
外の障子ががたがたいっているので、
相当風も強いのだろう。
「む、台風来てるみたいだぞ」
「そうだよ?」
「え、何知ってたの」
「そりゃいろんなとこから情報は入りますですしおすし」
「そうかい」
「逆に知らなかったのか」
「新聞読まねえし、テレビ見ねえし」
「ネットでも情報流れてませんかね」
「わざわざ検索かけないしな」
「というか気象情報は見てるんじゃなかったんですか」
「ここんとこ見てなかったでござる」
「意味ないしそれ」
「全くですな」
直撃コースでこそないが、
そこそこ近場を通過するのは間違いないようである。
「うわ、しかも二個あるし台風」
「そうですよ」
「何、台風って一番フィーバーするのって秋ぐらいじゃなかったっけ?」
「まあそれでも来るときは来るってことで」
「嫌になるわー」
外がザーザー言い出す。
本格的に降ってきたようである。
「しかし、困るな。ただの雨でも外に行きたくないのに、こんだけ本降りになっちまうと、絶対出たくねえな」
「まあ、今日はでるような用事はないんでは?」
「たぶん。でもこうなると誰も来ないだろうしなあ。暇が加速する。ああ、でもお前いるからいいか」
「いっつもいるではないですか」
「いや、日中はいないことの方が多いですし」
「まあ確かに」
「なんかやるか」
「なんかって何するです」
「なんかだよなんか」
二人でやれそうな物を考える。
だがぱっとできそうな物がなかなか出てこない。
「ゲームはもう飽きたしな」
「というかよくよく考えたらここって据え置きゲームないよね」
「確かに。PCゲーしか触ってなかったもんな」
「まあ必要性を感じないから置いてないんだろうけど」
「まあね。でも一つくらい置いといても良いかもね」
「こういう時暇ですもんね」
「そうそう。ってお前宿題良いのか」
「ま、まあ、ある程度はやってありますし?」
「ある程度って怖いな」
「大丈夫、終わるから」
「ならいいけど」
「それで、どうしましょーか」
「卓上ゲーでもしますか。将棋とか。やれる?」
「一応。というかそもそもそれやるための盤とかあるんですか」
「まあなんかありそうじゃねここなら。最悪自作。紙で」
というわけで家の中の物置にそう言ったものが置いてないか探す二人。
「しかし相変わらずここは色々ありますね」
「なー、これ何よ」
「さあ?」
いまだに何が置いてあるのか把握しきっていない二人である。
「んー、あ、あれ、将棋盤じゃないですか」
「え、どれどれ」
「あれ、あそこの棚の奥」
「あーえー、ああなんかそれっぽい」
「じゃあ取りますね」
「よろ。足元気を付けろー」
「はいはい」
手前に置いてあるものをどけながら引っ張り出してみると、
確かに将棋盤のようである。
「古そうやね」
「まあでも使えそうよ。拭いた方がよさそうだけど」
「まあ、ほこりかぶってますしな」
「うん」
「近くに駒ないですかね」
「んー…これかな、そうだねうん」
「ああ、そうそうそれそれ」
「綺麗に一式ありましたね」
「あるんじゃねえかとか思ったら本当にあったわ」
「探してみるもんですね」
「ほんとな」
というわけでリビングに一式持ち帰る。
「とりあえず、欠けてる駒ないよね。あったら補充せねば」
「んー並べれば分かるんじゃないですかね」
「せやね。とりあえず並べますか」
並べてみると欠けなく盤面が埋まる。
むしろ余りが出た。
「予備ってことでいいのかこれ」
「まあいいんじゃないですかね」
「じゃあいいや」
「それじゃあやろうやろう」
「せやね。どっちが先手よ」
「んーどっちでも」
「平等にじゃんけんで行きますか。勝った方が先ね」
「あい」
というわけでじゃんけんしてみた結果。
優美のが先であった。
「じゃあ俺からねー」
「はーい」
飛車を角の隣まで持ってくる優美。
「じゃあ私ね」
これまた飛車を角行の隣に持ってくる千夏。
「コピペ戦術やめーや」
王を動かして、
守りの準備に入る優美。
「私あんまり強くないから、まずは相手の動きをまねるところからと言うわけです」
これまた同じ動きする千夏。
「そうかい。つっても俺大して強くないけど」
美濃囲いの準備を進める優美。
「私よりか強いはず」
これまた同じく。
「まあ…爺が超強くてしごかれたけど」
王の定位置まで動く優美。
「そうなんです?」
同じ動きの千夏。
「俺本気で相手したのに、かるーくフルボッコされたっていう」
美濃囲いする優美。
「私は周りにそういう人いなかったので…」
これまた美濃囲いする千夏。
「実際、この王周りの陣形って爺から教わったやつだしね」
飛車の前の歩を動かす優美。
「そうなんですか」
同じく千夏。
「お、角交換といくかい?」
飛車の前の歩を進める優美。
「嫌です」
と、ここで先ほど動かした歩の隣を動かして、角の交換を拒否する千夏。
「おっと、コピーじゃなくなった。こっからが本番かい」
というわけで、
しばらく将棋し続けた二人。
「詰みってね」
「負けたー」
「でもだいぶ攻められたな今回」
「私的には全然上出来」
「そうかい。いやでも久しくこういうのもいいね」
「新鮮」
「だよねえ」
「さーさーもう一回」
「やるか?」
「あい」
「ならばお相手致す」
結局そこから追加で6戦もやった二人であった。




