二人
「ただいまー」
「お帰り―」
当たり前の挨拶だがすこぶる時刻が遅い。
もう夜の9時くらいである。
「ご飯食べた?」
「ああ、チンして」
「おわ、やっぱり冷凍食品ですか」
「大丈夫だ。いつも通りだから」
「むしろだから心配してんですけど」
「気にしない気にしない」
相変わらずそこらへんは適当極まりない優美である。
「しっかし、ほんとにゆっくりしてきたようだな」
「うん、まあ優美ちゃんからもオッケー貰ったし」
「そりで?あいつとはうまくいったの?」
「い、いきなり何の話かなー」
「またまたー、初のちゃんとしたデートの感想ぜひともお聞かせ願えませんかねえ?」
「で、デートじゃないし!」
「なんかこの会話行く前にもした気がするな」
にんまり笑っている優美。
「それで?何見てきたのさ」
「え、えーっと。普通に純愛物映画…」
「おや珍しい。お前のことだからSFかなとか思ってたんだけど」
「きょ、今日は私は選んでないから」
「ほーう、即ちあいつが一から百まで計画してたのか。やるじゃん茂光」
千夏はSF好きである。
なのでそれ系統かなとか思ってたら違ったようである。
まあ茂光の方が計画を立ててたならそうなるか。
「つーか待ち合わせ間に合ったん?」
「うん。15分くらい早く行ったんだけどもう待っててくれたよ」
「あいついったいどんだけ前から待ってたのやら」
「今来たとこって言ってたけど…」
「…まあその回答ってことは今来てないんだろうなあ」
なお、後で聞いたところによると、
一時間以上前からスタンバっていたようである。
「つーか映画館こんな近場にあったのか」
「あるよ。いつも行くスーパーの三階」
「え、あんなところに。いつの間に」
「最初っからあるよ…探索しなさすぎでしょ優美ちゃん」
「悪いが用がない所にはいかない主義だもんでね。ただそれはいいこと聞いた」
「え、なんで?」
「いや、手軽に行けそうな映画館ないかなとか思ってたからさ。ちょっと最新映画とか見てみたい奴も少しはあるじゃんやっぱ?」
「ああ、そういう。ってそれこそ調べたらすぐに出てきそうなのに」
「うん、思っただけで、検索かけるほどではなかった」
「なんだそれ」
「それでそれでー。映画の感想は?」
「ん、えーっと、面白かったよ?結構。ああいうほっこりできるのもそこそこ好きだし」
「そうかい。よかったな」
「うん。映画代もしげちゃん払ってくれたしね」
「おうおう。ぐいぐい来るね茂光」
にやにや顔の優美。
楽しそうながらもちょっと恥ずかしそうな千夏。
「そいでそいで、映画だけではこんなに遅くはなるまい。どっか行ったんだろ?」
「そのまんま下に降りてちょっとショッピングしてきたよ」
「またか」
「またとはなんですか」
「また服じゃないのか」
「今日は我慢しようとしたよ!…したけど」
「けど?」
「しげちゃんが普通にそっちに連れてくからそのまま…」
「ああ…好み分かってんなあ茂光…まあこんだけ一緒に居たらそうもなるか?」
「それでしげちゃんに着せ替え人形にさせられて…」
「自ら進んでじゃねえの」
「今日はしげちゃんが選んでくれたんです」
「そうすか。んで行きと服が違ったわけね」
「そういうことです」
「着々と貢がせてるな」
「うわ嫌な言い方」
「だが事実だ」
「こ、これそういうのじゃないもん!」
そんなこと言いながらも半笑いのままなので冗談であろう。
「そんでそんで?」
「というか優美ちゃんいやに聞きたがりますね」
「そりゃあ、同居人兼親友が嫁に行くって話でしょ?気にならない方がおかしい」
「まだ嫁に行く段階まで行ってないし!というかいつからそんな話になったんですか!」
「え?最初から?」
「まだ全くそういう段階には入ってませんので」
「なんだ。既に奴の内に落ちたのかと」
「まだ落ちてません」
「ということは落ちる予定はあるんですね?」
「こ、この先どうなるかはわからないしー」
「ふふ、まあ楽しみにしとく」
「そんなこと楽しみにしてないでください」
「そいでそいで?その後はどうなったの?」
「え?ご飯食べて帰ってきた。そんだけよ?」
「どこでさ。やっぱイタリアンのフルコースとか食ってきたの?」
「さすがにないです。一緒に近くのお店入っただけだよ」
「待った?」
「待ってない」
「予約してたんか?」
「分かんない」
「まあいいか。そいでそいで?」
「そんでもなにもそんだけですよ」
「何を話したのさ」
「そこまで聞きます?」
「気になる」
「…映画のこととか、最近のこととか」
「愛の告白は?」
「してないです!」
「なんだー」
「なんだーじゃないですよ全く」
「まあ、でも楽しかったようでなにより」
「なんか毎回それ言って締めようとしてません?」
「え?だって楽しくないよりいいじゃない」
「そうだけどさ…」
と、そこで千夏の目がある場所に止まる。
「ん?あれ?それって?」
「え?」
後ろを振り向くと、
そこにあったのは中途半端に開けられた花火の袋である。
「へー、そんなのあったんだ」
「ああ、これか。実はだいぶ前にもらったんだけどね」
「え、何にも言ってなかったじゃん」
「盛大に忘れていた」
「おい」
「あとでやろーとか思って倉庫入れといたらすっかりですよ」
「で、なぜそれがここにあるんです?」
「ああ、さっき思い出してやったからさ」
「え?花火を?ここらへん危なくない?草おおいし」
「線香花火なら大丈夫かなと思ってそれだけね」
「ああ、なるほど…一人でですか…さみしい」
「さすがに一人じゃやらんべ。何が悲しくて家の庭でたった一人で花火せにゃならんわけ?」
「え?じゃあ誰か呼んだんです?佳苗ちゃんとか」
「んー別に呼んでない。誰か呼ぼうかなとか思ってたら来た」
「え。誰です」
「翔也君」
「…ああー、あの小学生君」
「そそ。たまたま来てた時にこいつを思い出してだな。ちょっとやってた」
「そうだったんですか。でもなんで来たんだろうね?」
「…あー、えーっとそれは…」
「…どうかしたんですかぁ?」
「な、何がよ」
「いやーあからさまに言葉濁したじゃないですかあ」
「し、してねーし」
「遠慮せずに私に教えてくださいよぉ?」
「…お」
「お?」
「俺に会いに来たとさっ!そんだけだよっ!」
顔が茹で上がる優美。
良くも悪くも初心である。
「ふふふ…」
「なんだその笑みは」
「いやー優美ちゃんの顔真っ赤だなと」
「え」
「すっごい赤いですよ?」
「…あっついからです!」
「この部屋涼しいのになーおかしいなー」
「むう…」
「それでー?何したんですー?」
「…別に線香花火やっただけだし」
「一緒に?」
「…一緒に」
「そうですかあ」
「なんだその微妙な笑みは」
「いや、なんか微笑ましいなと」
今度は千夏がにやにやである。
「というかなんでそんな展開に?」
「いや…あの子が来たはいいけどクソ暑いだろ?だから家の中に上げて喋ってたのさ」
「ほうほう」
「んしたら急にこの花火思い出してな。どうせだからと思ってね」
「そうなのかー。翔也君楽しそうだった?」
「まあ…楽しんでたと思うよ?若干まだ明るかったせいで花火見づらかったけど」
「よかったですね」
「何がだ」
「翔也君喜んでくれて」
「…まあ、うん。そこは良かったよ」
「それで、翔也君のことどう思ってるんです?」
「…可愛い弟?少なくとも今はまだね…」
「なんだー」
「なんだってなんだし」
まだ若干顔の赤い優美である。
「…ああ、そうだ」
「ん?」
「やらね?」
「何を?」
「花火」
「やって大丈夫なやつあるの?」
「実はここに線香花火が残っていた」
「そうなんですか」
「縁側でやろーぜ」
「いいよー」
縁側で並んで線香花火をする二人。
「…なあ千夏よ」
「なにー優美ちゃん」
「別に、誰とどうなってもいいけど。親友のままでいてくれよ」
「…当たり前なのです」
「…そうかい。ならいい」
「優美ちゃんも消えないでよ?」
「逃げねーよ。俺は」
「よかった」
ぱちぱちと線香花火の音が響いた。




