表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/206

二人

「ただいまー」


「お帰り―」


当たり前の挨拶だがすこぶる時刻が遅い。

もう夜の9時くらいである。


「ご飯食べた?」


「ああ、チンして」


「おわ、やっぱり冷凍食品ですか」


「大丈夫だ。いつも通りだから」


「むしろだから心配してんですけど」


「気にしない気にしない」


相変わらずそこらへんは適当極まりない優美である。


「しっかし、ほんとにゆっくりしてきたようだな」


「うん、まあ優美ちゃんからもオッケー貰ったし」


「そりで?あいつとはうまくいったの?」


「い、いきなり何の話かなー」


「またまたー、初のちゃんとしたデートの感想ぜひともお聞かせ願えませんかねえ?」


「で、デートじゃないし!」


「なんかこの会話行く前にもした気がするな」


にんまり笑っている優美。


「それで?何見てきたのさ」


「え、えーっと。普通に純愛物映画…」


「おや珍しい。お前のことだからSFかなとか思ってたんだけど」


「きょ、今日は私は選んでないから」


「ほーう、即ちあいつが一から百まで計画してたのか。やるじゃん茂光」


千夏はSF好きである。

なのでそれ系統かなとか思ってたら違ったようである。

まあ茂光の方が計画を立ててたならそうなるか。


「つーか待ち合わせ間に合ったん?」


「うん。15分くらい早く行ったんだけどもう待っててくれたよ」


「あいついったいどんだけ前から待ってたのやら」


「今来たとこって言ってたけど…」


「…まあその回答ってことは今来てないんだろうなあ」


なお、後で聞いたところによると、

一時間以上前からスタンバっていたようである。


「つーか映画館こんな近場にあったのか」


「あるよ。いつも行くスーパーの三階」


「え、あんなところに。いつの間に」


「最初っからあるよ…探索しなさすぎでしょ優美ちゃん」


「悪いが用がない所にはいかない主義だもんでね。ただそれはいいこと聞いた」


「え、なんで?」


「いや、手軽に行けそうな映画館ないかなとか思ってたからさ。ちょっと最新映画とか見てみたい奴も少しはあるじゃんやっぱ?」


「ああ、そういう。ってそれこそ調べたらすぐに出てきそうなのに」


「うん、思っただけで、検索かけるほどではなかった」


「なんだそれ」


「それでそれでー。映画の感想は?」


「ん、えーっと、面白かったよ?結構。ああいうほっこりできるのもそこそこ好きだし」


「そうかい。よかったな」


「うん。映画代もしげちゃん払ってくれたしね」


「おうおう。ぐいぐい来るね茂光」


にやにや顔の優美。

楽しそうながらもちょっと恥ずかしそうな千夏。


「そいでそいで、映画だけではこんなに遅くはなるまい。どっか行ったんだろ?」


「そのまんま下に降りてちょっとショッピングしてきたよ」


「またか」


「またとはなんですか」


「また服じゃないのか」


「今日は我慢しようとしたよ!…したけど」


「けど?」


「しげちゃんが普通にそっちに連れてくからそのまま…」


「ああ…好み分かってんなあ茂光…まあこんだけ一緒に居たらそうもなるか?」


「それでしげちゃんに着せ替え人形にさせられて…」


「自ら進んでじゃねえの」


「今日はしげちゃんが選んでくれたんです」


「そうすか。んで行きと服が違ったわけね」


「そういうことです」


「着々と貢がせてるな」


「うわ嫌な言い方」


「だが事実だ」


「こ、これそういうのじゃないもん!」


そんなこと言いながらも半笑いのままなので冗談であろう。


「そんでそんで?」


「というか優美ちゃんいやに聞きたがりますね」


「そりゃあ、同居人兼親友が嫁に行くって話でしょ?気にならない方がおかしい」


「まだ嫁に行く段階まで行ってないし!というかいつからそんな話になったんですか!」


「え?最初から?」


「まだ全くそういう段階には入ってませんので」


「なんだ。既に奴の内に落ちたのかと」


「まだ落ちてません」


「ということは落ちる予定はあるんですね?」


「こ、この先どうなるかはわからないしー」


「ふふ、まあ楽しみにしとく」


「そんなこと楽しみにしてないでください」


「そいでそいで?その後はどうなったの?」


「え?ご飯食べて帰ってきた。そんだけよ?」


「どこでさ。やっぱイタリアンのフルコースとか食ってきたの?」


「さすがにないです。一緒に近くのお店入っただけだよ」


「待った?」


「待ってない」


「予約してたんか?」


「分かんない」


「まあいいか。そいでそいで?」


「そんでもなにもそんだけですよ」


「何を話したのさ」


「そこまで聞きます?」


「気になる」


「…映画のこととか、最近のこととか」


「愛の告白は?」


「してないです!」


「なんだー」


「なんだーじゃないですよ全く」


「まあ、でも楽しかったようでなにより」


「なんか毎回それ言って締めようとしてません?」


「え?だって楽しくないよりいいじゃない」


「そうだけどさ…」


と、そこで千夏の目がある場所に止まる。


「ん?あれ?それって?」


「え?」


後ろを振り向くと、

そこにあったのは中途半端に開けられた花火の袋である。


「へー、そんなのあったんだ」


「ああ、これか。実はだいぶ前にもらったんだけどね」


「え、何にも言ってなかったじゃん」


「盛大に忘れていた」


「おい」


「あとでやろーとか思って倉庫入れといたらすっかりですよ」


「で、なぜそれがここにあるんです?」


「ああ、さっき思い出してやったからさ」


「え?花火を?ここらへん危なくない?草おおいし」


「線香花火なら大丈夫かなと思ってそれだけね」


「ああ、なるほど…一人でですか…さみしい」


「さすがに一人じゃやらんべ。何が悲しくて家の庭でたった一人で花火せにゃならんわけ?」


「え?じゃあ誰か呼んだんです?佳苗ちゃんとか」


「んー別に呼んでない。誰か呼ぼうかなとか思ってたら来た」


「え。誰です」


「翔也君」


「…ああー、あの小学生君」


「そそ。たまたま来てた時にこいつを思い出してだな。ちょっとやってた」


「そうだったんですか。でもなんで来たんだろうね?」


「…あー、えーっとそれは…」


「…どうかしたんですかぁ?」


「な、何がよ」


「いやーあからさまに言葉濁したじゃないですかあ」


「し、してねーし」


「遠慮せずに私に教えてくださいよぉ?」


「…お」


「お?」


「俺に会いに来たとさっ!そんだけだよっ!」


顔が茹で上がる優美。

良くも悪くも初心である。


「ふふふ…」


「なんだその笑みは」


「いやー優美ちゃんの顔真っ赤だなと」


「え」


「すっごい赤いですよ?」


「…あっついからです!」


「この部屋涼しいのになーおかしいなー」


「むう…」


「それでー?何したんですー?」


「…別に線香花火やっただけだし」


「一緒に?」


「…一緒に」


「そうですかあ」


「なんだその微妙な笑みは」


「いや、なんか微笑ましいなと」


今度は千夏がにやにやである。


「というかなんでそんな展開に?」


「いや…あの子が来たはいいけどクソ暑いだろ?だから家の中に上げて喋ってたのさ」


「ほうほう」


「んしたら急にこの花火思い出してな。どうせだからと思ってね」


「そうなのかー。翔也君楽しそうだった?」


「まあ…楽しんでたと思うよ?若干まだ明るかったせいで花火見づらかったけど」


「よかったですね」


「何がだ」


「翔也君喜んでくれて」


「…まあ、うん。そこは良かったよ」


「それで、翔也君のことどう思ってるんです?」


「…可愛い弟?少なくとも今はまだね…」


「なんだー」


「なんだってなんだし」


まだ若干顔の赤い優美である。


「…ああ、そうだ」


「ん?」


「やらね?」


「何を?」


「花火」


「やって大丈夫なやつあるの?」


「実はここに線香花火が残っていた」


「そうなんですか」


「縁側でやろーぜ」


「いいよー」


縁側で並んで線香花火をする二人。


「…なあ千夏よ」


「なにー優美ちゃん」


「別に、誰とどうなってもいいけど。親友のままでいてくれよ」


「…当たり前なのです」


「…そうかい。ならいい」


「優美ちゃんも消えないでよ?」


「逃げねーよ。俺は」


「よかった」


ぱちぱちと線香花火の音が響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ