塩水
またも二話構成。
「なあ、ちなつさぁん」
「なーに優美ちゃん」
「うみいこやー」
「海?この前プール行かなかったっけ?」
「いや、プールと海は違うですよ」
「えーっと、いいけど」
「よーし」
「じゃあしげちゃんたち呼んで…」
「駄目です」
「え」
「駄目です」
むっとした顔になる優美。
「だってさあ…最近なんかおまい付き合い悪いんだもの」
「え、そ、そんなことは」
「いーや俺と一緒にいる時間確実に減ってるですよ。許すマジ」
実際最近千夏は茂光といる時間も増えてきているので、
それに伴って優美と一緒にいる時間は減ってはいる。
「つーわけで行くなら二人だ。いいよね?いいよね?」
「う、上目使い。そ、そういうのずるいと思うの」
「駄目ですかあ?千夏ねーさまー」
「うわっちょ、優美ちゃんキャラぶれてるって!」
「何、ちょっとした冗談だが。別にこの見た目なら特に問題あるまい。前のだったらゲロものだけど」
腕組んで仁王立ちしながら続ける優美。
「それに設定的にはお前の方が姉らしいからいいではないか」
「それ正式採用されてたの?」
「時と場合によっては採用している」
いかんせん二人並んで一発で同い年だと看破するのは結構大変である。
なので近所の人とかには普通に姉妹と思われている節がある。
「それで?行くか?行かないか?」
「でもどこの海行くの?」
「知ってるとこ。ただ、けっこうかかるからな。だから朝一で提案してるんだけど」
「んー…いいよ?」
「じゃあ用意してくるがよろし」
「ってもう用意してるんですかはやすぎですしおすし」
「行く気満々でしたから」
つーわけで、
電車に乗り込み―の、
一番早く行ける海水浴場へと向かう。
「そういえば、またあのエロ水着持ってきたの」
「もう持ってきてないよ!恥ずかしい!」
「なんだー、つまらん」
「何がつまらんのですか。私恥ずかしいだけなんですよあれ」
「くくく、今日はカメラを持っている。あとは分かるな」
「撮る気ですかおい」
「どうせだから茹蛸と化した千夏を撮りたかったんだがな」
「嫌ですよそんなの。仮に撮られても絶対消す」
「まあ、ふつーに写真撮ろうと思っただけだがね。お前確かお初でしょ海」
「うんまあ」
「どうせハイテンショーンになるだろうからね。その姿を激写しようかと」
「まあ…それなら許せる?」
「であとでネットにばらまく」
「それは許しません」
「高値つくぞ」
「しかも売る気だよこの人」
「まあそんなことしませんが」
というわけで海である。
「よーく晴れてますねえ」
「そ、そうだねえ」
「どうした、顔赤いぞ。写真撮ろうか」
「嫌だよ!…いや、やっぱり視線感じるなあと。露出あんまりないと思うんだけど」
「まあおめーは嫌でも目立つし。一人でいたらへーい彼女―あそぼーぜーってなるだろうからな」
「な、ナンパですか」
「正解です。あ、でも幼女連れててもあんま関係ねえかもね。来るんじゃね?」
「うわ…来たらどうしよ」
というわけで砂浜までやってきた二人。
「はいはーい、足焼けるから気を付けてねー」
「え、う!?熱ぅ!?」
当然ビーチサンダルなのだが、
まあどうあがいても砂が入るのは避けられない。
夏の太陽に焦がされたそいつは激熱である。
プールサイドの熱さとは違って、
足を上げてもサンダル内部の砂の影響でやっぱりあつかったりする。
「はいはい、とりあえず海行って足だけでも浸かってくるといいよ。水つけちゃえばそんなに熱くないはずだしねー」
「こんなに砂って入ってくるものなんですか…あとで入ってきますです」
「じゃあとりあえずパラソルたてましょー。あ、すんませんおなしゃーす」
係りの人に頼んでパラソルを地面にぶっさす。
さすがにこの暑さで日陰無しは、
死亡と同義である。
「とりあえずシート敷いて…あ、荷物隅に置いて飛ばないようにしといて」
「あ、うん」
「よし、んじゃあ一旦海に入るですよ。ちょっと入ったらオイルぬりに一旦上がるけどな」
「もう入りますか」
「当然、あ、いやですか?なら引きずってくけど」
「選択肢なんてなかった」
「まあでも、砂浜で遊ぶにしても一旦は入らないと死ぬ。間違いなく」
というわけで千夏を連れて海に入る優美。
「さすがに素足で砂浜はあっついですねえ…」
「まあサンダル履いて海にゃ入れんし。さーさーお姫様、ゆっくりどうぞ。あ、そこ貝まみれ」
「え、いっだ!?ちょ、そういうことは早く言ってよ!」
「ふひひ、サーセン」
なんだかおっかなびっくり海に入る千夏。
まあ初めてだからこうもなるのか。
「あぅー気持ちぃー」
「おっさんがお風呂入った時みたいになってるよ優美ちゃん」
「でも気持ちいでしょ」
「うん、まあ。プールと一緒です」
「とりあえず頭まで一回沈んどくです。頭焼けるぜ。実際」
「あ、はい。沈んどきます」
「あ、忘れてた。はいゴーグル。あと帽子」
「あ、ありがと」
水泳キャップなしでゴーグルは嫌なのが千夏らしい。
「塩っ辛い…」
「まあ海だし」
「お初の海水飲みです。まあ海水プールはあるけど」
「美少女がごっくんか」
「なんかすごくあれな発言に聞こえるからやめーや」
「大丈夫そういう意図だから」
「余計アウト」
軽く泳ぐ二人。
「なんか海に入ったら案外視線が飛んでこなくなったという」
「まあ海に入ってはしゃいだら、まあ周りとかどうでもよくなるしね」
「それにしても」
「何よ」
「あんまり透明度高くないね」
「まあそこまで綺麗な海でもないしここ」
まあ泳げればいいかって感じであるので。
とりあえず一旦上がる二人。
「あいよっとオイルね」
「ありがと」
「塗っとかないと絶対これ後で後悔しそうだよね」
「白いもんね二人とも」
「俺とか連日もやししてるせいか余計だしな」
というわけでオイルを塗る二人。
「むむ、背中にとどかないです」
「ならば塗り合いっこするべか?」
「え」
「固まるな。最善策だろ」
「いやー突然すぎまして。まあ…いいかな?」
「ならば後ろをむけい!」
「ちょ、ひどいことしないでよ」
「あ、そういうのお望みです?」
「いやしてないから」
というわけで千夏の背中を塗る優美。
「…女の柔肌ってやつですかねえ」
「そうなんじゃないかな」
「もちもち」
「つっつかないでちょーだい」
「しっかしなんつーかすごく理想的な体してるよねー。肌荒れとかもあんまりねえみたいだし」
「そうだねー。これぞ転生ボーナス」
「まあ美少女って時点で十二分すぎるボーナスですわな」
そうして交代して優美の背中を塗る千夏。
「…改めて見ると小さいですねえ」
「言わんでよろしい。しかしあれか、背中の面積まで小さいの俺」
「肩幅狭いのかな」
「嬉しいような嬉しくないような」
「可愛いからいいんじゃない?」
「まあ可愛くないよりはいいか?あれ?」
というわけで日焼け止めをぬり終わったので、
そのまま海へとダイブする二人。
「やっぱ海はこれよねえ」
「浮き輪ですか」
「こうね、上に乗るんです。そうすると波来たとき楽しいんですな」
「そうなの」
「あ、ごめん流されるといけないから浮き輪の紐もってちょ」
「りょー」
ざぶーんと。
そこそこ波の強い日である。
「んにゃ」
「ぶっ」
「げほ、波が顔にざばーっと…」
「よくある」
「というか波強くないですか今日」
「結構あるね。こういう日好きよ」
「普段もうちょっと控えめ?」
「もうだいぶ控えめかな。相当波あるね。さてと、それじゃあ君の番だ。乗るがいい」
「よっ、わっぷ」
乗るのに失敗して海の中に落ちる千夏。
「ふはっはっは!」
「ぷはー!ちょ、優美ちゃん笑いすぎ」
「いいボケだ」
「いやボケじゃないから」
というわけで上に乗る千夏。
「ふいー」
「どうよ、なかなかよくね?」
「んー、気持ちいいかな?少し暑いけど」
「なんなら水かけてやるですよー。さあ目えつぶりな」
「え、ちょ。わっぷ。目じゃなくてむしろ口にくらったんですけど」
「食べとけ」
「ひどい。というか普通に塩っ辛い」
その後も交代で浮き輪に乗ったりを繰り返した二人。
それに飽きた後は浮き輪を手で引きながら泳いでみたり。
「む、なんか踏んだ」
「え」
「むにゅってしたむにゅって」
「え、なにそれキモイ」
「くらげとかかな」
「いるんです?」
「お盆前だし少ないとは思うけどいる」
「触りたくないなあ…」
「お前の後ろに」
「え!?」
「あ、わかめだわ」
「驚かせないで…ってこれはこれで嫌だわ」
適当に持ってきたスイカボールで遊んでみたり。
「おらよいくぜ」
「ばっちこーい」
「死にさらせえっ!」
「掛け声おかしいって」
「ってあれー変なところに」
「風に飛ばされてますね」
「じゃなくて取ってくれ。流されてどっか行っちまう」
「あ、うん。ってうわクラゲぇ!」
結局二人が一度海を出ることにしたのはそれから一時間後のことである。




