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追跡者

「むう、けっこうたまってるなあおい」


神社の石階段のゴミの話である。

掃除自体はずっとしていたのだが

よくよく考えれば石階段の下部分は掃除してないなと思いだした次第である。


「ま、面積少ないから掃除の範囲少なくて楽ではあるんだけどな」


そう言って掃除を始める優美。

段数こそそれなりにあるものの掃きながら下へと落としていけばいつか終わる分境内より楽らしい。


「う、高い。こんな高かったっけここ」


最上段から下を見下ろすと結構な高さがあるのである。

別に高所恐怖症というわけではないのだが、

普通に足がすくむ。


「むう、タマひゅんものですな。今ないけど」


そのまま上から順番に箒でゴミを掃き落としていく優美。


「む、これは菓子のゴミじゃねえか。誰だよこんなとこ落としてくやつ。見つけたらぶった切ってやる」


さらりと恐ろしいことを口にしながら掃き進める優美。

なお当然であるが実際見つけてもそんなことする気はさらさらない。

そうして気づけばかなり下の方まで終わっていた。


「ふう、あと少しやな」


そうして階段前の道に目をやると見知った顔が見えた。

千夏である。

距離にして約数十メートルだろうか。


「む、もう帰ってきたか。にしてもこの目はよく見えていいな。メガネいらんし」


優美の元々の視力は0.6くらいであったために、メガネなしだと遠いものはぼやけていたのである。

こっちの体の視力は良いらしいので、ぼやけた世界とはおさらばしている状態にある。


「ただいまー。下にいるなんて珍しいね」


「お帰り。石階段掃除してないこと思い出してな。案の定ってかきったねえ」


「確かに。すごい量だね」


落ち葉等々も含めると軽い山になるくらいにはあったらしい。

数週間も掃除していなければそうもなるか。


「そういえば今日は一人なのか珍しい」


「ストーカー被害があったって学校に連絡が来てね。佳苗ちゃんも今日は早く家に帰ることにしたんだって」


「そうか。にしてもストーカーか。暇な男もいるもんだな」


「今は私たちも狙われるかもしれないからね。気を付けないと」


「むう、確かにな。女体である以上な」


「痴漢とかにも遭うかもしれないしねー」


「まあそれに遭っても締め上げるだけだが」


「痴漢のが驚きそうですねそれ。見た目とのギャップで」


「少なくともそうなった時に縮こまるのは俺のキャラじゃねえし」


「廃墟居たときは女の子みたいな反応してたけど」


「それとこれとは別だっちゅーに」


「美少女も大変です」


「むしろ俺は外でないからまだましだが、お前は普通にありえるからな。気いつけろよ」


「分かってます」


「んじゃ、ここの掃除終わったら家戻るから。先行ってて」


「りょーかいです」


そのまま階段を上がっていく千夏。


「…さて、と」


優美の目がそのまま近くの草むらへと向けられる。


「おい、そこにいるお前。何してやがった。出てこい」


ガサリと音がする。

誰かがいたらしい。


「逃げようとしても無駄だぞ。その草むらすぐそこで終わってるからな。出てきた方が身のためだが」


その声で観念したのか草むらからぬっと男が現れる。


「ふんふん。さて警察行こうか」


「ま、待って!警察は!警察はやめてくれ!」


「何を待つ必要がある。さっきのストーカー野郎ってどうせお前の事だろ」


「ち、違う!こんなことしたのは初めてだ!出来心だったんだよ!」


「そうか。出来心か。初犯ならそんなに罪も重くならんだろう。よかったな?」


「い、いやそういうことじゃなくて!」


男が焦りまくる。

男側からしてみれば優美の存在は色々と誤算だったのだろう。


「で、まあとりあえず名前教えろ。あと学年だな。その制服、どうせあいつとおんなじ学校だろう」


「…斉藤茂光(さいとうしげみつ)。1年」


「なんだ同年代か。もしや、同じクラスか?」


「ああ…」


「そうか。まあ初めてっつーのは本当だろうな。隠れ方へたくそすぎだ。よくあいつに気付かれずに済んだな?」


「途中までは普通に後ろ歩いてきて誰かいたからあわてて隠れて…」


「んでそれが俺だったっつーことか」


「ああ…」


「そうかい」


ちなみに別に優美は茂光を捕まえているわけでもなんでもない。

逃げようと思えば逃げるチャンスくらいは普通にあるだろう。

が、逃げようとしないのは優美の態度のせいか、はたまた茂光の性格か。


「なんでこんなことをした」


「えーと彼女がどこに住んでいるか気になって…」


「直接聞けよアホらしい」


「き、聞けるわけないだろ!は、話しかけることなんてできるか!」


「だからってストーキングは感心しませんな」


「う」


と、言いつつも優美ももとは積極的に他人に話に行く性格ではないので分からなくもない。


「おいストーカー」


「な、なんだよ」


「二度とこんなことしねえと誓うのなら今日の所は見逃してやろう。どうする」


「し、しない!絶対しない!」


「そうかい。と、思ったが反省の色が見えねえな。やっぱ警察行くかよ?」


「す、すいませんでしたっ!」


「俺じゃなくてあいつに直接言いにもう一度明日来い。いいな」


「はいぃ!」


「もし似たようなことが次あったら学校掛け合うからな?人生エンドしたくなきゃ二度とやらねえことだな」


そう言って掃除に戻る優美。

茂光はすぐにその場から逃げていった。

その後ろ姿を確認してすぐに家へと帰還する優美。


「千夏」


「ん?どうしたの?」


「お前ストーキングされてたぞ」


「え?」


「気づいてなかったのか?」


「全然。え、いつの話?」


「今さっき。ちょうど今話に蹴りつけて追い返したところ」


「警察には?」


「行ってない。お前と同じクラスの奴だったし、ついやっちゃった感あったからな。今回は見逃した。まあ、お前が許せんというなら行ってくるがいいさ」


「誰?」


「斉藤茂光だったっけかな」


「ああ、あの」


「ん、何、話したことあるの?」


「一人でいることが多い子かな。少し話しかけたことはあるよ」


「ふうん。で、どうするのさ」


「放置でいいんじゃないかな」


「まあ俺からとやかく言う気はねえよ」


「そう」


「あ、あと明日また来ると思う」


「え、なんで」


「お前に謝らせるため」


「学校でいいんじゃないの?」


「それあいつの人生終了する可能性あるだろ」


「別にいいんじゃないの」


「ひどいなお前。まああいつの肩持つわけじゃねえけど、出来心で人生終了もな。あれだし」


「それなら今やらせればよかったのに」


「いきなりじゃ気まずいだろ」


「明日でも一緒じゃない?」


「そっちの方が罪の意識にあおられるだろうからいいんじゃないのか。どうせ来なかったら学校に連絡いれるしな」


「そう」


「ま、どういう対応するかは任せる」


「うん、それにしてもストーキングされてたんですか」


「みたいだぞ」


「全然気づかなかった」


「普通にお前の後ろからついてってたみたいだがな」


「誰かいるなーとは思ってたけどたまたまかなと」


「ずっと後ろ居たらおかしいと思えよそこはよ」


その次の日結局やってきた茂光は全力で謝って帰っていった。


「それで、結局どうしたんだ」


「別に。私に害があったわけでもないから許しといたよ」


「そうか」


「それから勢いで告白されたけど断っといた」


「やっぱり好きだったのか」


「一目ぼれって言ってたよ」


「まあ見た目はいいからなお前。そんな輩もいるわな」


「見た目はとはどういうことですか」


ちなみに学校に行ったその日にクラスの半分くらいの男子の心を掴んでいったのだが、

本人にその自覚はあんまりない。


「さすがにストーカーの恋人とかは無理です」


「まあ分からんでもないが」


「友達ならとは言っといた」


「テンプレ回答だな。俺なら友達の枠にすら入れんが」


「話してみたけど悪意はなさそうだったので」


「そうか」


「ああいうのがいてもおもしろそうだしね」


「はべらせる的な意味合いですかそうですか」


「まあ、それに近いかな」


「悪女だなおい」


その後たまに一緒に帰っている姿が目撃されるようになった。

どうやら本当に友達の枠に収まったらしい。


「結局友達になったのか」


「話してみると結構おもしろい」


「そうかい。なんかあったら言えよ。次は無いってちゃんと言ってあるから」


「うん」


「俺はお前以外は今のところ大事じゃないのでね」


「分かった」


「これもあいつにとってはある種の青春なんだろうかな」


「どうなんだろうね」


「それにしても」


「どうしたの?」


「いや、俺って背低いなと」


「いきなりなんで?」


「この前茂光を捕まえたときさ」


「うん」


「下から見上げねえと顔見えなかった」


「幼女に責められる男の図」


「はあ…牛乳でも飲めば背ぇ伸びますかねえ…」


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― 新着の感想 ―
[一言] カルシウム(とイソフラボン)が多い豆乳がお勧めです。: 「はあ…牛乳でも飲めば背ぇ伸びますかねえ…」
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