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案ずるより生むが易し

「むう…何故いきなりこんなに疲れねばならん」


「優美ちゃんが逃げるからでしょー」


「お前が追っかけてこなければ逃げねえよ…」


そう言いながら流れるプールから上がってくる優美と佳苗。

結局30分近く追いかけっこ状態が続いていたようである。


「二人ともどこいたんだ…?」


「ん?あれ?茂光入ってたのか」


「いたんだね。いつのまにか」


「ひどくね?二人がどこにいるか分からなくて結構探したのによ」


「何処って言われると…ねえ?」


「何処だろ?全部?」


結局プールの中では二人に出会うことができなかった茂光である。

二人が暴走しすぎた。


「あれ、つーかまだ入ってなかったんか」


「うん…」


プールサイドに上がってみればそこには千夏の姿が。

どうやらまだ駄目らしい。


「つーかのど乾いた。ちっと飲み物買ってくる―」


「あ、んなら優美ちゃん私もー」


そう言いながらどこかに歩いていく優美と佳苗。

最近四人でいるときは一緒にいることが多い二人である。

空気読んでるというのもあるっちゃある。


「千夏さん。のど乾いたりしてませんか?」


「え?えーっと…ちょっと?」


「あ、なら買ってきますねー。待っててください」


「え!行っちゃったし…」


あっという間である。

引き留める間もない。


「…って、なんか今日ずーっと一人だなあ…」


一応四人で来てはいるが、

いかんせん水に入っていないので

なんか一人だけ疎外感が半端ではない。

というか正直入りたい。

暑いし。


「……」


そこでふと考えがよぎる。

よくよく考えなくても、

今は千夏を除いた三人は飲み物を買いに売店でも行ってしまっているので、

プールの中には当然いないわけである。


「…入って…みる?入っちゃおうかな…」


そりゃまだ羞恥が無いわけでは断じてないが、

それでも知り合いに見られながらよりはマシというのが千夏の意見である。

知り合いと言うか茂光にが正しいが。

一応付き合ってることにはなっているが、

さすがそこまで完璧割り切れる状態にはまだなっていない。


「…よし」


そうと決めたら行動である。

まだ三人が帰ってくる感じではない。

というわけで上に着ているのを脱ごうと手をかける。


「あれ?ちーねえ?」


「にゃい!?」


思わず飛び上がらんかという勢いで手を放す千夏。

この呼び方をしてくる人間はこの世にそう多くはない。

とりあえず一つだけ言えることは知り合いである。


「ちーねえも来てたんだねえ」


「あ、え、えーっと、そそそ、そうだよ?」


「何慌ててるの?」


目の前にいるのは幼女である。

優美ではない。

本物の小学生である。

確か二年生だったと記憶している。


「ちーねえはプール入らないの?」


「え?えーっと、は、入るよ?」


「でも服着たまんまじゃ入れないよ?」


「そ、そうだね?脱がなきゃね…」


「脱がないの?」


「ぬ、脱ぎますとも?」


なんだか少々慌てて

語尾がおかしくなる千夏。

なんだかいけないことをしてるとこを見られたみたいになっている。

実際は何でもないが。


「千夏―あれ?誰だ?」


「わ、可愛いー!」


そこに帰ってくる優美たち。


「あ、優美ちゃんだ!」


「だからなんで俺はちゃん付けなんねん!」


「まあまあ優美ちゃんは優美ちゃんからねえ?」


「どういう原理だそれ」


いまだにちゃん付けが無くならない優美である。

たぶんこれからも。


「あれ?知り合い?」


「ん?ああ、うちの神社によく来てる子供の一人」


「ああー成程」


茂光に幼女について説明する優美。

さすがに佳苗も茂光も神社に遊びに来てる子供までは知らない。


「優美ちゃんの彼氏?」


「ぶっ!」


飲んでいたものを吹き出しかける優美。


「ち、ちげえちげえ。俺のじゃねえ。そいつの」


指さした先は千夏である。


「ちーねえ彼氏できたんだあ!よかったね!」


その言葉に茹で上がる千夏と茂光。

さすがにこうも真正面から言われたことは無かったので。


「よかったな」


「ちょ、優美ちゃんまで乗らないで」


その後幼女は親によって連れて行かれた。

面識はあったので特に問題は起こらない。


「んじゃまーもうひと泳ぎしますかねえ」


「今度こそ捕まえて…」


「もういやだかんな。で?千夏は?」


「…えーっとまだ…」


「まだ入らない気かよ。この場で脱がせるぞ」


「いやいや!それはやだ!」


「さっさとしろよ。時間無くなるぞ。無制限じゃねえんだし」


と言いつつプールにダイブしていく優美。

続く佳苗。


「千夏さん?入りませんか?」


「…もうちょっとだけ待って、絶対行くから…」


ちょっと困り気味の顔の茂光。


「今回だけですよ?もう次はありませんからね?次は抱えてでも入ってもらいますよ?一緒に泳ぐために来たんですから」


「うわ、しげちゃん鬼畜」


「ははは、早く来てくださいね」


と言いつつこれまたプールに入っていく茂光。

今度は追いつく気はないらしく、

ゆっくり泳いでいる。

そうして千夏の視界から三人が消えた辺りで。


「…よし」


というわけでようやく泳ぐ気になったらしい千夏が、

ようやく水着状態になる。


「お、思った以上に視線が…」


そりゃまあ仕方ないというものではある。

千夏に至っては優美と違って、

体の方も完璧に近いプロポであるが故。

そんなのがビキニ着てたらそりゃ少なくとも近くの男の視線はもらうであろう。


「もう入っちゃえっ!」


どのみち外にいると余計目立つのである。

さっさと入るが吉。


「あ、気持ちい…」


そりゃこんだけクソが付くほど暑い中に

日傘一本でいたわけである。

水が気持ちいい。


「…プール来るの久々だなあ」


5年以上の間プールには来ていなかった千夏である。

行く機会が無かったらしい。

その反面優美は毎年のように行っていたようだが。


「おら!やっと来たか」


「ふにゃ!」


いきなり水をぶっかけられて何事かと思えば、

一周してきた優美であった。


「いきなり何するんですかあ!」


「来るのおせえよ。お前と遊べるのを心待ちにしていたというに」


「だって恥ずかしかったんです」


「ふん、どうせそんな体してりゃ視線なんざ腐るほど浴びるだろ。いつものことじゃねえか」


「いや水着じゃ恥ずかしさ段違いなのです」


「自分で肌を見せつけるようなの買っといてよく言う」


「あ、あのときは第三者視点的に可愛いかなとか思ったから買ったんですよ!」


「ナルシシストかよ」


「いやこう外の目線で考えていいかなー?っていう?でも実際着るのは私だったんですよ!」


「初めから分かりきってたことじゃねえか」


「分かってたけど分かってなかった!こんなに恥ずかしいとは」


「まあとりあえず泳ごうず」


「私は適当に泳ぎながら流されてるねー」


「そうすか。じゃあ俺は逃走中だからばいちゃ」


「え、逃走中ってなんぞ」


「後方注意ね」


それだけ告げて去っていく優美。

後ろを振り返ってみてみれば佳苗であった。


「ちょ、ちなっちあの幼女速いんだけど」


「むしろここでは小さいのが幸いしてる気がする…」


「く、負けてなるものか!…というか」


「な、何急にじっとこっち見て」


「いややっぱこうスタイルいいなあと」


「え」


「どうしたらそんな体になれるのやら…羨ましい」


と言われても最初っからこの体だったので、

なんとも言えない千夏であった。


「あ、千夏さん」


「あ、しげちゃん」


「やっと来てくれたんですか」


「頑張りました」


結構精神力を消費した。


「…やっぱり、千夏さんの水着姿、思った通り最高ですね!」


「ちょ、しげちゃん!」


「あ…すいませんつい…」


「い、いやいいけど…」


下向く千夏。


「お、泳ぎません?」


「そ、そうだね?」


というわけで、

流れるプールで泳ぐ、

もとい流される二人。


「千夏さんってプールってよく来ますか?」


「んー…最近あんまり来てなかったかな」


「そうなんですか?」


「中学校上がってからめっきり…」


なお、

優美と一緒に行ったことは今までない。

仲はいいが行くところは毎回カラオケな二人であったため。


「まあかく言う俺もとんでもなく久しぶりなんですけどね」


「あれ?そうなの?」


「ええ。小さいときは毎日のように行ってたんですけどねえ…だんだん回数が減っていってそのまま…」


「へえ」


泳ぐというよりは周りを見ながら流されているといった方が正しい気がする二人。

まあ休みのわりに、

イモ洗い状態になるほど人がいるわけでもないので、

ゆったりすることは十分可能であるわけだが。


「よっと」


ちょっと潜水してみたり。


「ぷはっ…あれ?しげちゃん?」


上に戻ってみると茂光がいない。


「ぶほっ」


「あ、なんだしげちゃんももぐってたの。どこ行ったのかと」


「プールだし潜りもしますよ?ずっと頭出してたら頭燃えてきたんで冷却冷却」


そんな感じで、

自由気ままに泳いだりもぐったり喋ったりする二人。

それでもどれだけ泳ごうが、

離れる感じがないのは意識しているのか否か。


「おーいそこ行くお二人さん」


「あ、優美ちゃん。どうかしたの?」


そこに襲来するのはどうやら一周して追いついたらしい優美。

後ろに佳苗もいるので追いかけっこは終わったらしい。


「ん、いやね。俺ら向こうのプール行こうと思うんだが、お前らは?」


「え?向こうって?」


「流れてないちょっと深めのプールかな。近くにスライダーあるとこ」


「優美ちゃん大丈夫?足つく?」


「いやさすがに足くらいは…つくよね?」


若干怪しい。


「というかスライダーあるんだ」


「ん、ここからだと見えないかもだけど、さっき行ったらあったぞ」


「んー…しげちゃんどうする?」


「千夏さんが行きたいなら」


「スライダーあるならちょっと…行こうかなあ?」


「そうか?なら行こうぜ。…まあ俺はあのスライダーにゃ行きたくねえけど」


「え」


そうしてたどり着いた先にあったのは、

横幅50mのプール。

そして近くにあったのはそこそこの長さの階段と

縦に長く、真っ直ぐ下に落ちる感じのスライダーであった。


「…まあ確かに縦には長いけど、ふつうじゃない?結構」


「高いの駄目ですので…」


高所恐怖症ではないものの、

高い所が怖い優美であった。


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