かき氷
「…太陽かんかん照りだねえ」
空を見上げながら、
縁側を歩いていた優美が呟く。
千夏の学校も少し前から既に夏休みに入り、
いよいよ夏本番と言ったところか。
そろそろ猛暑日に突入しだしているため、
さすがの優美も縁側に座り込むことはしない。
あんなところにいたら死ぬ。
「こうもあついと冷たいもの食べたくなるねえ…」
なおそんなこと言いつつも、
既にアイスクリームなどは毎日のように食べている優美である。
「…どっかでかき氷でも食ってこようかな」
夏と言えばこれである。
昨年食べ忘れていたので、
今年こそはである。
去年はそもそも夏が飛んだのでそんな期間もなかったわけで。
「…おーい千夏―。今暇かー?」
容赦なしに千夏の部屋を開けようかと思ったが、
ぎりぎり踏みとどまる優美。
一応プライベートルームだし。
「どしたの優美ちゃん」
「いや暇かなってな」
「えーっと、暇じゃない」
「あれ?なんかあった?」
「ちょっと出かける約束が」
「そうですか。というか部屋こもってなにしてたの」
「いや、ちょっと服選び中?」
「…選んでる時間長くね?いやこんだけあるから仕方ないのか?」
千夏の持っている服はすさまじい量の一言に尽きる。
何か事あるごとに、
いや何もなくても買ってきたりするので、
そりゃ増えていくわけである。
「というか優美ちゃん何か用だった?」
「いや、あんましクソ暑いからかき氷でも食いに行こうかなーと思ったんだが、約束あるならしゃあねえな」
「あ、うん、ごめん」
「気にしなさんな。んなもんいつでも行けるでよ」
立ち去りかけた優美。
だが、ふと立ち止まる。
「あ、そういや千夏」
「なーに?」
「この前茂光となんかあった?」
「え!?え、えー、えーっと、な、なんかって?」
「どんだけ動揺してんだ」
「な、ナンノコトカナー」
「…ま、いいや。少なくとも悪いことあった感じじゃないし」
「あ、あれ?今回は聞き出そうとしないんだ」
「まあね。まあ話したくなったら教えてな」
「お、おう」
と、掃除を忘れていたことを思い出して外に掃除しに出る優美。
「階段やるの忘れてたーっと…」
五十段はあるであろう石階段の下にいるのは、
どこか見たことのある男の姿。
「…ふーん、へえ、約束かあ。そういうことねえ」
それを見つけた優美が呟く。
「全く、隠す気があるんだか無いんだか…」
そして掃除をせずに一旦境内の方に戻る優美。
と、そこへ千夏が出てくる。
「おう、行くのか?」
「うん。行ってくるねー」
「あいよ。帰る前に連絡ちょーらいね」
「りょーです」
千夏が階段を下りていく。
そしてその後ろ姿を階段の上から見つめる優美。
下にたどり着いた千夏は男と少し会話したかと思うと、
二人でそのまま歩き始めた。
よくよく見ると何やら手をつないでいる様だ。
ただ、千夏も男も若干明後日の方向を向いているようだが…
「全く、あっつ。あーちょー熱いわー。ただでさえ暑いのに超絶熱いわー。爆発しろ」
そんな二人の姿を確認しながらひとり笑う優美。
「掃除したら、取り残された俺も外に行こうかなー」
というわけで、
一気に階段の掃除を終わらせる優美。
「さーってと、適当にかき氷食いにいこーっと」
ささっと着替えて外に飛び出す優美。
相当薄着である。
ついでに袖なしである。
焼けそうである。
「むー、えーっと毎年かき氷食ってた店どこだっけなー」
うろうろ歩き始める優美。
お目当ての店は毎年行っていたチェーン店。
この近所のどこかにあったのは覚えてるのだが、
いかんせん外にあんまり出ない優美なので場所をしっかり覚えていない。
「むー、ネット使った方がはええかな」
携帯を引っ張り出そうとした時である。
「あれ?優美ちゃん?」
「ん…あれ?川口?なんでこんなとこに」
そんな優美の前に現れたのは
千夏のクラスメイトの川口佳苗であった。
「えーっと私は買い物しようかなと」
「俺はただかき氷食いに」
「ぷ、何その理由」
「いや、クソ暑いから食べたくなりましてね。どうせならって」
「それだけ?」
「それだけ」
買い物は千夏の役目である。
ついでにこの前買い出しにいってくれたばかりなので、
今買い物にくる必要性はない。
「んじゃま、俺は氷食って帰るから。またね」
「ちょ、優美ちゃん、行こうとするの早いよ!」
「…いや、この炎天下の中で話してたらぶっ倒れそうだし」
「私も優美ちゃんについてくから、それならいいでしょ?」
「…買い物いいの?」
「大丈夫、まだ買ってないから腐る物もない!」
「いや、そうじゃなくて帰る時間が…ああ、もういい。頭焼けそうだし行くなら行くべ」
「よーっし!」
灼熱太陽の下で会話を長々とはしたくないのである。
頭がやられると困る。
そのまま目的地の場所を佳苗に教えてもらって、
向かう二人。
「あーはぁ…天国」
「あっつかったぁ」
「最近太陽光暑すぎやしませんかねえ…」
というわけで目指していた場所の中に入って一休みな二人。
「というか、優美ちゃんさすがにその格好じゃ寒くないの?」
「ん、別に、むしろ暑い」
「暑がり?」
「かなり」
「へーちょっと意外」
「何故に」
「優美ちゃん小っちゃいから、寒がりかと」
「小さい言うな。というかそこ関係あるのか?」
「さー?なんとなく」
「お前な…」
とかなんとか言いつつかき氷を注文する二人。
「私イチゴでー」
「俺、宇治抹茶で」
「うわ、優美ちゃんシブい」
「抹茶うまくね?」
「私ちょっと苦手かなー…」
「そうなん?あの味好きなんやけど。まあガチのお抹茶はまず飲まないけど」
「やっぱ神社住んでるからそういうのも多かったり?」
「関係ない。俺個人的に好きなだけ。うちの家に茶道に詳しい奴もいねえ」
まあ端的に言えば、
ただ抹茶味が好きなだけである。
昔っから。
「そういえばー」
「なんだ?」
「ちなっちどうよ?」
「どうとは」
「あれから、なんかあった?」
「今日まで音沙汰なし」
「なんだー」
「今日まではな。今日は音沙汰あった」
「お!」
「なにやら体のでかい男と手をつないで歩いてったぞ」
「…しげみっちだよね?」
「他に誰が?」
「もーややこしい言い方しないでよー」
「あいつが他の男とそんなことするはずあるまいて」
「でも万が一が…」
「ない、ありえん。あいつに限ってそれだけは無い」
「すごい否定っぷりだね」
「他の男に触られるのも嫌なはずだからなあいつは」
中身的にあんまりそういうのは好きではない。
「まあでもあの感じを見る限りじゃ、あのわだかまりは解消されたっぽいな」
「そっかー、よかった」
「全くだ」
「で」
「おう」
「…やっぱり、こう、もう、お付き合い始めてる感じ…?」
「さあ?」
「なんでさ!ずっとちなっちと一緒にいるじゃん!」
「俺からはなんとも…あいつから聞いたわけでもねえしなあ?」
「ということは…あり得る?」
「…さー、どうだろうね?本人の口から確認してみ?」
「優美ちゃん意地悪―」
「意地悪じゃねえ。プライベートプライベート」
「こうなったら優美ちゃんが好きな人をばらしまくってやる!」
「いや、誰よそれ」
「え?でも夏祭りの日に…」
「ああ…そんなこともありましたね」
「いやそんなに過去の話じゃないし?実際のところどうなの?やっぱりいるの?」
「…いねえよ。今は」
「今は?過去には居たということでしょうか!?」
「いやそういうわけじゃあねえよ。未来にゃいるかもねってだけ」
「なんだー」
「なんだとはなんだ。お前はどうなんだお前は」
「え?オトコナニソレオイシイノ?」
「お前もっと駄目じゃねえか」
「だってもう今の状況で満足してるしー」
「30とか40とかになって地獄見るんじゃねそれ」
「最悪独身」
「…まあ、それもあり?」
その後タワーのようになったかき氷を食べて
頭がキーンとなったのはお約束か。




