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舞台裏

「…あっつー」


いつもと変わらず外に出て掃除する優美。

そんな優美をそろそろ夏になりかけている太陽が襲う。

相変わらず巫女服なのも相まって、

かなり暑い。


「むう、真夏とか死にそうだけどどうしたもんかね。干物にゃなりたくねえよ?」


ぶつぶつ言いながら掃除を進める優美。

さっさと終わらせたいので、

いつもと比べると掃除も素早い。


「…着替えるのは俺の主義に反する、というかめんどくさい」


一回他の格好に着替えたら、

その格好のまま一日が終わりそうなので。


「…さっさと終わらせよ。クーラーの部屋の中にいねえと死ぬ」


というわけで掃除を続ける。

最近はクーラーの中にばっかりいるので、

家の中と外の温度差がものすごく大きい。

体壊しそうである。


「…んあ?千夏かな?」


足音が聞こえたので石段の方を向く。

千夏は大分前に外へと遊びに行っている。

が、帰ってくるには少々早い気がする。


「…いや、千夏の足音じゃねえなこれ。参拝客かな」


毎日のように千夏の足音は聞いているので、

大きく違えば聞き分けられる。

少なくとも女子高生の足音ではない気がする。


「…ああ、お前かいな」


石階段の上に見えた頭をよく見てみれば、

知っている顔であった。

しかもこれまたよく知っている顔である。


「どうも、優美ちゃん」


「おっすおっす。茂光」


最近のトレンドの人その人であった。

体はでかいし、

間違えようがない。


「どうした。こんな休みの日に」


「えーっと…千夏さんいますかね?」


「今か?今ならちょうど外に遊びに行っちまってていねえぞ。たぶん帰ってくるのだいぶ先だと思うしな」


「ああ、えっと、今日は優美ちゃんの方に用があって」


「俺か?なんだ?」


「えーっと…」


「…なんだ、話しにくいことか?」


「まあ、話しにくいこと…だな。うん」


「そうかい」


箒を動かす手を止める優美。


「だったら家に上がってけよ。どうせ今俺しかいねえしな。あ、イナリはいるけど」


「え、いいのか?」


「今さら遠慮なんていらねえっちゅーに。ささ、上がった上がった」


「じゃ、じゃあそういうことなら」


「あ、だからって俺らの部屋に入るなよ」


「入らねえよ!」


というわけで

突然やってきた茂光を家に入れる優美。


「お邪魔しまーす」


「まあ適当にそこらへん座っといて」


「はい」


適当にキッチンの方に入ってお茶汲んで戻ってくる優美。


「はいよ。外地獄だっただろうしな。どーぞ」


「あざーす」


「へい」


出されたお茶を一気飲みする茂光。

既に気温は30℃を超えているため、

そりゃ暑い。

冷たいお茶がうまい。


「そいで?要件を聞こうか」


「あー、えーっと」


「なんだよ煮え切らねえ。はっきり言いんしゃい」


「まあ、千夏さんのことなんだけど」


「だろうな。まさか俺のことじゃあるまいて」


話の続きを促す優美。


「…俺、なんかしたかな、千夏さんに」


「うん?そりゃまたどーして」


「いや…最近なんというか避けられてる気がして…」


「気のせいじゃなくて?」


「たぶん。近づくとすって遠くに行くことが多いし、なんというか話しかけてもぎこちないっていうか…」


「ふうん…」


「本当は本人に聞くのがいいんだろうけど、それとなく聞いてもはぐらかされちゃって…」


優美の頭に浮かぶことは当然ひとつ。

まあ、最近あった千夏と茂光のごたごたなんか一つしかないわけで。


「…まあずばり、なんかはしただろうがよ」


「やっぱり…俺なんかしてたのか…」


「しただろ?告白をもう一度」


「…う!?なんでそれを優美ちゃんが…」


「そんなもん本人に聞き出したからな。知ってて当然」


「話してたんだ千夏さん…」


「ああ、勘違いするなよ。あいつの様子がおかしかったから俺が無理やり聞き出しただけだ。あいつに罪はねえ。文句言うなら俺に言え」


実際千夏は話したかったわけではなさそうであったし。


「まあ、なんだ。あいつとの付き合いは長いもんでね。なんか変だとすぐ分かるんだよ」


「そうだったのか…いや優美ちゃんならいいか。一緒に住んでるんだし、いずればれることだろうし」


「で、まあ話戻すけど」


「ああ、はい」


「お前がどう思ってるかは知らん。だがお前が思ってる以上にあいつ、思い悩んでるみてえだよ?」


「…」


「少なくともあいつは今はかなり真面目に悩んでるはずだしな。ちょっとぎこちなくなってるのはそこが原因だろう」


「それで…千夏さん…」


「まあ、あいつの中で答えが決まれば自然と解決すると思う。今は…まあたぶんそういう時期なんだよきっとな」


あくまで淡々と、

それでも真面目に語る優美。


「だからまあ…待っててくれ。そのうち…まあ何かきっかけくらいはいるかもしれんけど、時間が解決してくれるさ」


「…ああ」


「逃げるなよ」


「逃げないよ。千夏さんの返事を聞くまでは絶対」


「あ、聞いても逃げるなよ。もし、逃げたら地平線の果てまで追いかけても連れ戻すからな」


「怖いよ!俺は千夏さんが拒絶しない限り逃げる気はないけど…なんで?」


「あいつにとってお前は大事な友達であることだけは確かだからな。下手に居なくなられると、あいつ絶対へこむから。俺はあいつが沈んでるの見たくないもんでね。だから、逃がさん」


「そういうことなら絶対にないから安心してくれ。優美ちゃん」


「そうかい。その言葉、本当だろうな。嘘だったら冗談抜きで首根っこ引っこ抜くぞ」


「怖いって」


「言っとくけどマジだからね?もし、そんなことがあったら覚悟しなよ?」


目が笑ってない優美である。

優美にとって、

千夏は大事な存在なのだ。

この神社に飛ばされてからは特に。


「わ、分かった。大丈夫、約束するよ」


「そうかい。ならいい」


ふっと表情が緩む優美。

相当本気であったようである。


「しかし、お前最近ぐいぐい来るねえ」


「…まあ、好きだし」


「恋は人間を変えるってか?知らんけどね」


笑う優美。


「じゃあ俺はそろそろ…」


「ん?帰るのか?」


「まあ、聞きたいことは聞けたし。こんな状況で千夏さんにあったら余計こじれそうだし」


「ま、せやね。じゃあまあこの地獄の暑さの中、がんばって帰りなよ。熱中症注意ね」


「ああ。それじゃまた」


「じゃーね。まあ、またいつでも来なよ」


外まで出て茂光を見送る優美。


「…青春してるねえあいつら」


呟く優美である。

いかんせんその手のことについてはあったことがないので。


「さてと、掃除の続きしますか」


いつものように掃除を再開する優美であった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 優美の境内掃除は朝飯前が日課ではなかった?: いつものように掃除を再開する優美であった。
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