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増殖する服たち(★)

挿絵提供 teruruさん http://pixiv.me/pochi-tr

「ただいまー」


「お帰り」


そう言って帰ってきた千夏の手には紙袋がいくつか。


「なあ」


「うん」


「まーた買ってきたのか」


「可愛かったので買っちゃいました」


「よくもまあ服ばっか買うなあ」


何を買ってきたかと言えば服である。

この家にはもともと衣服の類は結構な数が用意されてはいたのだが、

千夏には全くもって足りなかったようである。


「しかもおそろしいほど少女趣味だしな毎回」


「可愛いほうがいいじゃないですか」


「いや、うん。まあ分からなくはないけど。多い。多すぎる」


下手しなくても一週間に1回は服が増えていく現状である。

連日の普段着を見ているとほぼ毎日着ている服が変わっているあたりすでに相当数たまっているようだ。


「ちなみに何を買ってきた」


「ワンピですね」


「あ、珍しく俺も分かる単語が」


「というか少しは覚える努力をしよう」


「だって使わないからよ」


「でも下着名称くらい覚えましょう?」


「ブラくれえしか知らんでござる」


「しかもしてないことよくあるよね。ブラ」


「まな板なものでね。つけなくても大して変わらん」


「すれないんですかね」


「動き回るわけでもねえしな」


「そういう問題なんでしょうか」


「違和感はねえから大丈夫なんじゃねーの」


「女の子としてどうかなと」


「女だからブラ必須と言うわけでもあるまい」


「でもやっぱり?」


「めんどくさいだけでございますねハイ」


ちなみに、外に出るときはしてる。

神社の敷地から出てない時は高確率でしていない。


「それじゃあさっそく着てくるよ」


「また買って即着るのか」


「着たいから買ったのですし」


「まあそうなんだろうけど」


数分後、着替えて優美の前に降臨する千夏。


「どーでしょ?」


「うん。いいんじゃねーかな」


「そう?ならいいんだけど」


「個人的にはそれ着るなら髪下ろしてほしいですかね」


「ツインテだめですか?」


「駄目ってわけじゃあないけどさ。どうせなら清楚なお嬢様っぽく。ただのイメージだけど」


「わかった。ちょっと下ろしてくる」


そして再び戻ってくる千夏。


「どうでしょうか」


挿絵(By みてみん)


「あーうん。なんか思った以上にいいかもしれない」


「お」


「というかお前が髪下ろしてるの久しぶりに見たわ。まあお風呂上がりは除くが」


「基本的にツ―サイドアップしてるもんね」


「好きだよね。ツーサイドアップ」


「大好きです」


千夏はツ―サイドアップ好きである。

基本的に一貫してツ―サイドアップである。

髪を下ろしているのはお風呂上がりから次の日の朝までなので、

優美以外の人間は千夏が髪を下しているのを見る機会はまずない。


「しかし髪変えるだけで雰囲気だいぶ変わるな」


「髪の力はすごいからね」


「せやな」


「そうだ。どうせだし優美も髪下ろしてみよう」


「む、俺に髪を下ろせと申すか」


「ほら、私にやらせたんだからそっちもそっちも」


「しかたあるめえ」


そう言ってスッと髪を縛っていたゴムを外す。

長い黒髪が下へと垂れる。


「久しぶりに日中に髪下ろしてる優美ちゃん見たよ」


「まあ最近は一人でやれるようになったしな」


「私に髪をいじらせてもいいのよ?」


「遠慮しとく。遊ばれそうだしな」


「というかだいぶ髪伸びてるね」


「そういやここ来てからまだ切ったことないな、一回も」


ここに来た当初から長かった黒髪はいつの間にか腰より下辺りにまで到達しかかっている。


「お前はあんまり長さ変わってないな」


「長いのは好きだけどさすがに長すぎると邪魔になっちゃうし」


「ということは切りに行ったのか」


「行ってますよ。そりゃあね」


「俺も行くべきかな」


「うん。さすがにそのまま放置してると床につくよそのうち」


「さすがに平安時代は勘弁したいとこだね」


「あれなら今度行くとき一緒に行きますか?」


「そうさせてもらう。自分から行くとかどこ行っていいか分からんし」


「じゃあそういうことで」


そこまで話してパッパと髪を戻す二人。

なんだかんだ言ってもやっぱりポニテとツインテが好きな二人である。


「というかお前他にどんな服増やしてるのさ」


「見ます?」


「見たい。というか普通にお前の部屋に興味ある」


優美の部屋に千夏が入ってくることは結構あるが、

千夏の部屋に優美が入ってきたことはあまりない。

ぶっちゃけ用が無いのであるが。


「はいどうぞ」


「おじゃまー。おお綺麗」


「まあ整理はしてますから」


「俺とはえらい差ですね」


優美の部屋は物が散乱しているわけではないものの、

机の上などには本が積まれっ放しだったりするので少々綺麗とは言い難い。


「で現状の服箪笥の中身はこんな感じ」


「うお。多い。何着分だよこれ」


「数えてないけど40~50くらいはあったと思うよ」


「うわーお。さすが服の亡者」


結構箪笥の中は空きがあったはずなのだが、所狭しと並ぶ服たちによって端から端まで占拠済みであった。


「ううむ。親友がなんの服もってるか調べに来ただけなのにすごい変態行為してる気分だ」


「まあ親友でもなんの服持ってるか調べに来ることってそうそうないと思うけどね」


「確かにな。うおなにこれ露出度たけえなおい」


「ああ、勢いで買っちゃったやつだそれ。安かったからね」


「着てるの見たことないんだけど」


「買った後に着なくなるタイプのあれです」


「なんつー金の無駄遣いであろうか」


結局出てきた服は47着であった。


「ところどころ似たようなの混じってるし。買う意味あるのかこれ」


「色違うじゃん」


「そこなのか」


「そこです」


「ただなんか良くも悪くも普通のラインから逸脱したものは無かったな」


「何が入ってると思ったんですかね」


「ゴスロリとかコスプレとか絶対あると思ってたわ」


「さすがにないです。というかご近所でそんなもの売ってるお店なかったです」


「ネットショップというものがあってだな」


「あ、その手があった」


「気づいてなかったんかい」


「ここんとこネットショップ利用してなかったから」


「まあ最近PC触ってるのほとんど俺だしな」


「そうだよね。なんかずっと触ってるよね」


「引きこもり万歳」


「外に出よ?ね、外にも出よ?」


そして数日たったある日のことである。


「お届け物でーす」


「あ、はーい」


千夏が学校からそろそろ帰ってくるだろうといった時に郵便物が届く。

かなり大きな段ボールであった。


「なんじゃこりゃ。あいつなにを注文した」


気になったが開けない。

友人とは言えどプライベートな荷物の可能性も十二分にあるからである。


「ただいまー」


「お帰り。なんか届いてたぞ」


「お、来ましたか」


「えらいご機嫌ですね」


「わりと届くの待ってたからね」


「何を頼んだの」


「見れば分かると思うよ」


ふたを開けてみればいちばん上に出てきたのはなにやらどこかで見たことある服であった。


「これメイド服じゃねえか」


「まあまあ。一回着てみたかったもので」


「好きなのは知ってたが自分で着るのかよ」


「ネットショップの偉大さを知ったよ」


「こりゃまた服の増殖速度が加速するな」


「お金の上限は守るから大丈夫」


「でもお前ほとんど服につぎ込んでないかその金」


「まあうん」


「というか巫女なのにメイド服っておい」


「まあいいじゃないですか」


「和と洋が揃ったか。もういっそ中華も揃えるか?」


「あ、その箱の中にあると思う」


「すでに買ってたよこの男」


「元男だから問題ない」


漁ってみると言葉通りチャイナドレスが出現する。


「これらいつ着るのよ」


「え?着たくなったらかな」


「頼むからこれ着て街の方に行かないでくれ」


「さすがにそこまでやれる勇気はないです」


さらに漁ってみるとなにやらフリルやら薔薇やらがついた黒色が大半を占めた服までもが出現する。


「えーと千夏さん。これは」


「あ、それね。優美ちゃんにどうかなと」


「ちょい待て。俺にこれ着ろと言うのか」


「ぜひとも」


「俗にいうゴスロリファッションとかいうのだよねこれ」


「明確な定義はよく分からないけどそれに近いものだと思うよ?」


「でそれを俺に着ろと」


「優美ちゃんロリだしいいかなーと」


「いやロリだしって、いや認める認めるけどそりゃねーよ」


「無理して着る必要はないよ?」


「俺こういうふうにプレゼント―とかされると断れない性質なんですがそれは」


「じゃあどうぞ」


「ぐむう。一回だけな…」


そうして試し程度に着てみる優美。


「ど、どーでしょか」


顔が赤い。

優美の方はこういった格好は慣れていないのである。

本人の意識的には女装している感じなのだ。

じゃあ巫女服はいいのかよというところだが、何故かそこは問題ないらしい。


「おー予想通りというか、これはいけるわ」


「そ、そすか。じゃあ今日はこの辺で」


「勿体無いから今日はその格好でやろ?」


「ゴスロリ巫女とか聞いたことねえから!つか普通に恥ずい!」


「そうやってる優美ちゃんが可愛い」


「ドSかっ!」


結局その日一日中、その格好で過ごさせられた優美だった。

参拝客がいなかったのが唯一の救いかもしれない。


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