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友と恋の境界

「ふー、あと一ヶ月くらいで学校も終わりだねえ…」


「まだテストありますけどね」


「それは言わなくていいよしげちゃん…」


学校の帰り道を行くのはいつもの三人組。

部活帰りである。


「それにしてもいつの間にか夏になっちゃったねー」


「そうですね」


「夏かー。夏と言えばイベントいっぱい!くー待ち遠しい!」


「佳苗ちゃんは予定とかあるの?」


「そりゃもちろん。夏はいろいろしたいし?」


「たとえば?」


「夏祭りとか行きたいよねーやっぱり?」


「ここらへんってやってるの?」


「電車使えばすぐ行ける距離の場所でそこそこ大きくやってるよ?前から結構よく行ってたんだ」


「へー」


「そういえば千夏さんの神社では夏に何かやるんですか?」


「あー…っとどうだろ。割とそこらへんは優美ちゃんの気分しだい…かな?」


「というかやっぱり神社の中のことは優美ちゃんが全部取り仕切ってるの?」


「うん。私も手伝うけどメインは優美ちゃんだよ。昼間は学校ある私は何もできないし」


「優美ちゃん既に働いているんだよね?私が行くときは毎回掃除してるか、縁側にいるかくらいしか見たことないけど」


「うん、なんか時々そっち方面の依頼も来たりするみたい。たまに外に行ってなんかやったりしてるみたいだし」


「へー、意外とお仕事してた」


「それでも暇なこと多いみたいだけどね」


「暇ならやっぱり夏はなんかやるんですか?」


「…優美ちゃんイベントとかあんまり好きじゃないからなあ…なんか頼んでみても、めんどくせえって返ってきそう」


「じゃあじゃあじゃあ!どうせ夏の間暇だっていうなら全員で夏祭り行けばいいんじゃないかな!」


「私は…いや私も暇かな?」


「ん…別に俺も特に予定はないか」


「よーし!なら決まり!ちゃんとお盆の日は開けとくんだぞ!」


「でもどこでやるか私知らない…」


「大丈夫大丈夫!私がしっかりエスコートしますとも!集合場所はちなっちの神社で」


「え!?優美ちゃん怒らないかな…」


「ということでしっかり説得頼みますよちなっち!」


「え!?私!?」


「そりゃまあ、毎日優美ちゃんに会えて、一番優美ちゃんのこと知ってるのはちなっちだし?優美ちゃんも夏祭りメンバーに引き込めばオッケーしてくれるでしょ!」


「いやでも優美ちゃんこういうことあんまり出たがらないってさっき…」


「頑張れ!」


「無責任!しげちゃんなら一緒に行ってくれるよね!」


「…頑張ってください千夏さん」


「ちょ、しげちゃんまで。裏切り者ー」


なお家に帰って話してみたら、

拍子抜けするほどあっさり承諾された。

優美曰く浴衣見れるのに行かないとかありえねえらしい。


「しかし、日、長くなりましたね」


「そうだねー。前真っ暗だったもんねーこの時間」


川沿いに差し掛かり空を見上げると、

空が赤く染まっていた。

綺麗な夕焼けであった。


「梅雨だけど今日は綺麗に晴れたねー」


「ですねえ。明日も晴れですかね?こんだけ夕焼け綺麗だし」


「どうだろ?でも明日も晴れてほしいなーと思う」


「あはは。僕も雨はあんまり好きじゃないから晴れてほしいですね」


それくらい綺麗な夕焼けだった。

ここまでオレンジに綺麗に染まるのも珍しい。


「あ、そういえばちなっち。今何時?」


「えーっと…ちょっと待ってね…6時40分かな」


「うわっ!いけない!7時には家にいないといけないのに!ごめん二人ともまた明日ー!」


土煙が上がるんじゃないかと言わんばかりのスピードで川沿いの道を駆けて行く佳苗。

校内でも足の速さがトップクラスの佳苗の速度は半端な物ではない。

あっという間に姿が小さくなって見えなくなってしまった。


「…何があるんだろうね?」


「さあ…さすがに川口の家の事情までは分かりかねますね」


「まあ、あんだけ急いでたんだし何かあるんだよね?」


「そうでしょうね」


佳苗がいなくなったことで、

さっきまでは無かった静けさが辺りを包む。


「…佳苗ちゃんがいなくなったらなんか一気に静かになっちゃったね?」


「まあ、あいつよくも悪くもうるさいですしね」


「そんなこと言ったら佳苗ちゃんに悪いよ」


「まあ、ムードメーカーなのは否定しないですけどね。はは」


そこで足を止める茂光。

それに続いて千夏も足を止める。


「どうかした?」


「…」


「ん?」


なにやら少し下を向いて考えるような表情の茂光。

反応が無いので千夏が寄ってくる。


「…」


「おーい。しげちゃん?」


「…千夏さん」


「どうしたの?突然黙り込んで」


「いや…ただ、ちょっと」


「?」


茂光が顔を上げた。

普段は千夏から逸らしがちなその目がしっかりと千夏の目を見据える。


「千夏さん。改めてあなたに言わせてください」


「えーっと…?何を?」


すーっと茂光が息を吸い込む。


「…千夏さん。あなたのことが好きです」


「え…?」


黙る千夏。


「…!ああ、そういう。私も好きだよー。しげちゃんは大事な友達だし」


「…そうじゃなくて」


「え?」


「…男と女として、俺は、あなたのことが、好き、です」


「え?え?」


「最初に見たときからずっと気になってて、最初あんなことしちゃったけど、やっぱりずっと友達として付き合ってて思った。やっぱり俺。千夏さんが好きだ」


固まる千夏。


「前、言った時は、勢いだけで言っちゃって。ちゃんと言えてなかったから…ちゃんと、伝えておきたかった」


「…」


「千夏さん」


「ひゃ、ひゃい!」


「…千夏さんは、俺のこと、どう思ってる?」


「え…」


「…どう、思ってる?」


「ど、どうって…」


「…俺じゃ、駄目ですか」


千夏の頭を色々なことがぐるぐるとまわる。

意味のない思考が現れて消えるを繰り返す。


「…あ、ごめん。千夏さん。いきなりこんなこと言われても困るだけですよね」


「…」


「…返事を、待ってます。どれだけかかってもいいから、返してくれると、嬉しいです」


「…」


「…もし、断られたらその時は諦める。だから、お願い。千夏さんの本当の気持ちを聞かせてください」


静かに、

しかしはっきりした口調で、

茂光が続ける。


「…ただ、俺が、千夏さんのことが、好きだってこと。これだけは、忘れないで。あった時から今まで、そしてたぶんこれから先も」


「う、うん」


「…俺が言いたいことはそれだけ。…答えが出たら、教えてください。…どんなものでも、俺に悔いはありませんから」


「…」


□□□□□□


「…」


「ど、どしたの優美ちゃん」


「…挙動不審。喋る内容も何かおかしい」


「え?な、何が?」


「お前以外に誰がいるんだ。なんかあっただろ。なんだ」


「え、な、何にもないよ?」


「…お前、俺に隠し通せるとでも思ってるのか?何年の付き合いだと思ってる。お前のことはもはやだいたい全部知ってるぞ」


「何それ怖い」


「事実だろうが。実際そうだし。で、何があったんだ。言ってみろ」


「実は…」


神社に帰って早々、

優美に何かあったことを看破された千夏である。

さすがにいつも一緒にいる相手の異常に気付かない優美ではない。


「…つまり、なんだ。もう一回告られたと」


「うん」


「…で、お前の意見は?」


「…正直、よく分からない。私としては友達として付き合ってたんだけど」


「だろうな。それで?切るのか?」


「…それは、無理。怖いもん」


「何がよ」


「…嫌われたりしたくないし」


「あいつは答えが何であっても受け入れるって言ったんだろ。なら、お前が思うようにいってこればいいんじゃないのか」


「でも、今までもずっと好意を向けてくれてた相手をそんなふうに両断するのはちょっと…」


「…ま、一回目は流したんだ。今回は真面目に考えてみても、悪くないかもよ?」


「でも、どうすればいいんだろ」


「あいつは待ってくれるんだろ」


「うん」


「なら、待たせとけよ。考えがお前の中でちゃんとまとまってから返事したら?」


「でもあんまり遅くなると悪いし」


「下手に適当な事で逃げるほうが酷だと思うがね。もともとお前のこと好きだったわけだし」


「まあ、そうなんだけど」


「どのみちこれからあいつと友達にせよ恋人にせよ、付き合ってくつもりならいずれ向き合うべき話だろ。ちゃんと考えて答え返してやりなよ」


「…罪悪感もあるんだよ。だって中身男だよ?いいのかなって」


「あいつはお前が好きなんだろ。男女関係ねえとは言えないけど、たぶんそれを知ってもあいつは受け入れると思うがね」


「…ちょっと、考えてみる」


「そうするべきさね」


お茶をすする優美。


「…それにしても」


「何?」


「頭、スパークしたっしょ?真面目に言われると」


「…うん、なんか全身硬直して大変だった」


「だろ。忘我自失。なんというか乙女みたいな反応になるのも仕方ない気がするね」


「…衝撃だったね。前はノリで来たから流せたけど、マジな空気だとそれもできないし」


「というかよく今までことごとく回避してきたと思うよ俺は」


どんな顔して茂光に会えばいいのか、

分からなくなる千夏であった。


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