足りないもの
「にょあーまた雨かー」
朝起きて外を見やればまたも雨。
梅雨なので仕方ないと言えば仕方ない。
「掃除は…晴れた日でいいよね…」
結構降ってるので濡れそうである。
そこまでして掃除に命を掛けてはいない。
「…どうしよ、ちいと買い物しようかと思ってたのに」
いっつも使ってた墨がそろそろなくなりそうなので買いに行こうかなとか思った矢先のこれである。
まあやる気がそげるそげる。
「むーどうしようかな…あ、そうだ電話して帰りに千夏に買ってきてもらえば…」
「ただいまー!」
「…あ、駄目だわ」
あっさり帰ってくる千夏。
一足か二足くらい遅かったようである。
「あれ、どうしたのそんな微妙な顔して」
「…いや、ちょいと買ってきてほしいものがあったから帰るついでに買ってきてもらおうかなとか思ってたんだけど帰ってきちゃったから」
「それなら今から行ってくるよ?」
「いいよ。こんな雨の中もう一回外に押し返すのもあれだし行ってくる」
「んーでも私家に居ても暇だしなー」
「まあ普段ならこの後外で子供と遊んでるか、どっか行ってるかだもんな」
「こういうとこ雨は嫌だね」
「全くだね。外に出るのが億劫だ」
「優美ちゃんは元々でしょーが」
「いやまあそうだけど」
「というわけで私もついていきます」
「いや待て。何がどうなってそうなった」
「だって暇だし。優美ちゃんが外に行くならついていきたいなーと」
「別にいいけど。いつも通り買い物いくだけよ?」
「いいのいいの」
「んー、ならまあご自由に」
というわけでしとしと降る雨の中外に出ることにした二人。
「…というかさ、すっげー今さらなんだけどさ」
「うん」
「…傘、一本しかない?」
「うん」
「…どしよ」
「というか気づいてなかったんですか」
「うん…いかんせん学校無くなったせいで雨の日に外に出るくらいなら次の日でいいやみたいになってたせいで全く無かったね今まで」
「まあ雨の日は確かに私もどっかに行くこと少なかったし優美ちゃんを連れてくこともなかったけど」
「でもまさか傘が一本だとは」
「しかもこれ倉庫に放り込んであったかなり古い奴だったりするっていう」
「まーじでえ。全くこっちに気をまわしてなかったわ」
雨の日はそもそも優美は外に出ない。
仮に出ることがあったとしても、
次の日に回すか、
どうしてもの時は夕方くらい、
即ち千夏が帰ってきてから思い出したかのように
近くのコンビニに行くのである。
こんなだったので一本でも使いまわしでなんとなってしまったのである。
「そういやだいぶ前に倉庫あさった時に、傘一本はあったから大丈夫だなとか言ってたなそういや…」
「買うの完璧に忘れてたねー」
「一本で事足りてたからなずっと」
「ついでだし傘も買う?」
「せやな。というかそっちの方が重要な気がしてきた」
「今までよく一本でまわしてたよね」
「奇跡的にこうやって一緒に雨の日に外に出るってことが無かったからな」
「まあ今日こうやって出るわけですけど」
「んー、でも傘一本だしなー。やっぱお前待っててくれん?ぱっと行って帰ってくるから」
「え?大丈夫でしょ二人でも」
「でも傘一本ですぞ?」
「相合傘状態になれば問題ない」
「え」
「なんでそんな意外そうな顔するんですか。傘一本で二人いるならそうするしかないじゃないですか」
「いや、どうしてその発想に至るし」
「だって普通に二人くらい入れそうだよこの傘。男二人はきつそうだけど女の子なら」
「いやまあ入れそうだけども、相合傘ですよ?」
「そうだよ?一本で二人はいれてお得です」
「いや恋人同士でやるもんじゃないの相合傘って」
「別にそうしないといけない決まりなんてどこにもないのです。というわけでいくですよ」
「あ、ちょ、ま」
というわけで何故か相合傘状態で外に行く羽目に陥った二人。
というのも気づいていなかったのが悪いのだが。
「…さすがにちょいと恥ずいなこれ」
「そう?」
「いやさすがに見知った仲のやつが隣でも若干恥ずかしいですよ?」
「私的には可愛い女の子と一緒にいる気分になるからいいですよ?」
「というか、これ傍から見たら完全に姉妹だよねえ」
「今に始まったことでもないよ」
「まあそうなんですけどねえ…」
実際一緒に歩いてると
今日は妹ちゃんも一緒かい?
的なことを偶に言われたりするのである。
めんどくさいので否定しないが。
そのせいで余計な勘違いされるのだが。
「…ん」
「どうしたの?」
「あ、いや、あじさいが咲いてるなーってさ」
「ああ」
ちょっと足を止める二人。
「梅雨の癒しだわ」
「そうなの?」
「まあこういう花はわりと昔っから好きよ?」
「まあ綺麗ではあるけど」
「んー家の横の方で咲いてたの思い出すわ」
「咲いてたんだ」
「ああうん。小学校のね。通学路の方の道でさ。こう、フェンスの裏みたいな場所で咲いてた」
「へー」
「小学校のころは梅雨の時はそれ毎日見て登校してたからな。別にそう思い入れあるわけでもないけどそれは思い出すね」
別に家で育てたりしていたわけではないが、
登校時に嫌でも目に入れることになるので記憶にはよく残るのである。
なお中学校に上がった偶に通る道だったので、
小学校卒業後もそこそこ見ることになった。
「花とかにとっちゃ梅雨は恵みの季節なのかね」
「どーなんでしょ。水多すぎても枯れちゃう気がするけど」
「うんまあ確かに。まあ多すぎると人間にも被害来るけどな」
「まあね。洪水とか」
「下手すると町中が水で沈むしな」
「というかこの辺ってそういうの大丈夫なのかな」
「どーなんだろ。少なくとも俺たちの家は沈まなそうだよね」
「あそこ沈んだら辺り一面が沈んでるよね」
「ということは仮にそんな事態になったらうちにみんな避難してくるんだろうか」
「どうだろ。でもそうなりそうだよね」
「…非常食とか少し多めに常備しといたほうがいい?」
「というかうちにそういうたぐいの物ってあったけ?」
「ねえな。買う?備えあれば憂いなしってね」
「じゃあついでに買う?できれば必要になってほしくないけど」
「まあ最悪賞味期限来る前に食べればいいしな。買ってくか」
「そういえばどこ行くの?」
「ん、近くの文房具屋にする予定だったけど色々他に見る物あるならスーパーいこうず」
「じゃあそっち行きましょうか」
「せやな」
というわけでスーパーに行った結果、
当初の予定に無かったものまで購入してしまった二人であった。
「…文房具店とかってなんかよく見ると面白そうな物って結構あるんだよなあ…どう考えてもいらんもの買ってしもうた」
「私もなんか勢いで服買っちゃった」
「お前のそれはいっつもだろうが」




