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夏の入り口

「うげええええ…」


じとーっと。

長く長く終わりが見えない雨がしとしととずっと降り続ける。


「くっそ、雨は嫌いだ。じとじとじゃねえか」


季節はそろそろ夏になるかといったところ。

優美的には夏は好きである。

だが日本の夏の入り口にあるのは梅雨。

じとじとべたべたで最悪である。

いや雨が好きな人もいるかもしれないが、

少なくとも優美は嫌いである。


「がーくそっ!髪まとまらねえぞ!」


湿気まみれなせいか、

髪が跳ねまくっている優美。

ふだんは綺麗にまとめてるのもあって、

本人的にも気に入らない。


「…ったく。雨に切れてもしかたねえけど腹立つ」


ところどころで跳ねてる髪が気に入らなかったので、

今日はポニーテールにしていない優美である。

千夏に時間があれば髪の手入れもしてもらえるというものだが、

いかんせん今日は普通に学校でそういうわけにもいかない。

優美自身はその手のことはさっぱりだし。


「…むう、なんだか髪が普通に垂れてるのが変な感じだな」


ここに来てからと言うもの

風呂に入るときくらいしかポニテをとくようなことがなかったので

日中もずっと髪がそのままなのは変な感じであった。


「ただいまー!」


「ん、お帰り」


そうこうしているうちに千夏が帰還した。

少々足元が濡れている気がする。


「濡れたか」


「結構降ってるしねー」


「喋ってきたんじゃねーのかこの中で」


「あ、ばれた?」


「ばれたもなにも時間的にそれしかあるめえよ」


学校が終わって帰ってくるまで約40分。

その時間をオーバーしたらどこかでしゃべってるのが基本である。

雨だろうが雪だろうがその辺は変わりなしである。

まあ遅くなってくると連絡するが

さすがに多少遅くなる程度で連絡するほどでもないだろう。

そこらへんは信用である。


「あれ?優美ちゃん、髪」


「ん、ああ。髪跳ねまくっててまとめる気がね…あれだったらちょっと髪とかして」


「自分でやればいいのに」


「いややったんだけどなんかうまくいかねーかんな。この手のことはお前の方が得意っしょ」


というわけで久しぶりに千夏に髪を任せる優美。


「…なんかちょっと懐かしいなあ」


「…何がよ?」


「いやだってさ、ここに来てからすぐの時はこうやって毎日優美ちゃんの髪をいじってたなーってさ」


「ああ、そういえばそんなこともあったな。あの時はまだ何もかもさっぱりだったし」


「まあ髪いじるの好きだからね。自己流だったけどわりとすぐにできるようになったね」


「来てから数日でツーサイドアップみたいな髪型になってた時はさすがに驚いたがな」


「だってあの時は学校にまだ行ってなかったし時間はあったからね。暇あれば髪いじってたもの」


「最近はレパートリーも増えた気がするしな」


「ネット環境も整ったからねー。最悪分からなければ調べれば出てくるし?」


「でもやっぱりツインテかツーサイドアップだよなお前は」


「まあね。好きだし」


優美の髪をとかしながら話す千夏。

なんだか楽しそうなのはやっぱり好きだからだろうか。


「というか優美ちゃんも大概ポニテ好きだよねー」


「ポニテはアイデンティティ」


「というかなんでそんなに好きなの?」


「ん…これといった理由は特に。刀が合いそうってのはあるけど」


優美個人的には刀持ったポニテキャラは大好きだったりする。

イケメン風美少女とかだと特に。


「じゃあ逆に聞くけどお前はどうなのさ」


「え?」


「ポニテだのツーサイドアップだの好きじゃないか。なんでよ?」


「可愛いからだけど?」


「なんちゅー身もふたもない回答かて」


「え、だって可愛いじゃないですか。可愛いは正義ですよ?」


「いやそうだけどさ、確かに」


「可愛ければよいのです」


「あー、人のこと言えないけどまだ精神状態男だよね?己を可愛くすることに抵抗ないのか?」


「え?全く。むしろもっとしたい」


「その割り切りは尊敬するわ」


そこいらで千夏が手を止める。


「だいたいこれで髪は整ったんじゃないかな」


「ん、あー確かに。綺麗になってるわ。あんがと」


「いいよ。髪いじり好きだしね」


「じゃあまあ縛るのはもうできるからもういいよ」


「えーご褒美頂戴」


「え、いいけど。何?」


「髪を結ばせてくださいよ」


「…それご褒美になるの?」


とりあえず千夏本人が所望しているので優美的には断る必要もない。

慣れたとは言えど、

髪いじりに関してはとても千夏にはおっつかない。

やってもらった方が仕上がりも綺麗なのである。


「んー、じゃあよろしく」


「はいはーい」


というわけで髪を結ぼうとする千夏。

と、そこで手を止める。


「ねーねー優美ちゃん」


「なんでしょうか、若干猫なで声で」


「ツーサイドアップ試していいですか?」


「俺でか?」


「そうそう」


「何故に」


「いや、ちょっと見てみたくなったから。普段はあんまりこういう機会ないし」


「好きだなお前も大概に」


「大好きですので」


「んー、まあいいよ?別にポニテ好きだけどやってないと死んじゃう病とかじゃないし」


「やったー!じゃあちょっと待っててください。ゴム足りないし」


「あ、はい」


というわけで自分の部屋に行って即戻ってくる千夏である。

しかもダッシュで。

どんだけ好きなのか。


「はいじゃあぱっぱとやっちゃいましょうねー」


「え、えっと優しくしてね?」


「いやなんかそれ違いませんか」


「文面だけ見てると犯罪臭がする」


「大丈夫。絵面は美少女二人組だから」


というわけでささっと髪の毛をいじる千夏。

もはや慣れたものなのかあっという間に完成する。


「はい終わり―。おー結構いいんじゃないでしょーか」


「ん、ああ、うん。女の子だなうん」


「それは元々でしょ」


「まあそうなんだけどね。ただ個人的にポニテよりもこういう髪型のほうが女の子してる感じになる」


「そうなの?」


「いやまあだってさ。江戸時代の武士とかでもたまにポニテみたいにしばってるやついたけど割と見れるじゃん」


「うんうん」


「でもツインテとかツーサイドアップは無理じゃね?」


「まあ確かに」


「って考えるとこっちの方が女の子してる感じにゃなるよ俺は」


最近こそ特に違和感はないが、

最初期のころとかは女装してる感じがしばらく抜けなくて困ったものである。

髪の毛も同じであった。


「しっかし、あれだな。ロリだね。すっごい」


「うん。可愛い」


「顔が幼いからこういう髪型だと余計」


「大丈夫。優美ちゃんはいつみてもロリだから」


「それ褒めてるの?褒めてるんだよね?」


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