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運命に流される

「…」


ぶつぶつぶつと。

リビングにて何かを呟きつつ、

日課の御札書きをしていく優美。

一応耳を澄ませれば聞き取れそうで、

聞き取れない。

なにやらぱっと聞いた感じ呪詛のようなものにしか聞こえないが…


「なに呟いてるの優美ちゃん」


「んー、あ、いやね。ただ書くのも味気ねえかなと思ってさ。こう念を込めてみてる。いや入ってるかどうか知らんけど」


実際に意味があるかは謎であるが、

とりあえずただ書くよりはいいんじゃないかという結論である。

効果があるかも謎なのでそこらへんは半ばノリである。


「ふー、今日の作業終了」


「はやっ。今さっき始めたと思ったのに」


「もう日常業務だしな」


よっぽど体調崩した時以外は毎日書いている。

ここまで続けてしまえば、

もう何も意識しなくても体が動く。


「くはぁー。ああ、そうだ千夏」


「どうしたの」


「お前来週くらいからテスト週間入っちまうだろ」


「うん」


「今日、お前暇か?」


「んー、今日は暇だけど」


「なんならどっか行こうぜ」


「…え」


「なんでそう鳩が豆鉄砲に撃たれたような顔になる」


「だって優美ちゃんの方からどこかに行こうって誘うことまずなかったし」


優美が外に出るのはどうしてもの理由があるときがほとんどで、

特に意味もないが外に遊びに行くということは自分からはあまりしない。

こんなことまずないレベルに珍しいのである。


「いやー、ね?なんかね?ここ数日暇だったからさ?鬱憤晴らし?」


今日は修学旅行帰ってきて次の日である。

さすがに昨日は夜遅くまで語り尽くすようなことはなかったので、

ここ三日間でたまった優美の鬱憤は晴らされていないのである。


「とりあえずなんかね、三日間お前いないとすごく疲れたのよ」


「家事とか?」


「いいや、なんかね、精神的にちょっと落ち着かない。ずっと一緒にいたからさ最近」


実際問題、

ここに来てから長時間二人が離れたのは修学旅行の一件が初めてだったりする。

常時同棲している相手が長い間消えるのはそりゃなんか変な気分にもなるだろう。

ついでに騒ぐ相手もいなくなるわけだし。


「だからですね。お前がいいなら一緒に思いっきりはめ外したいんですよね」


「そういうことですか。私はべつにいいとですよ」


「よっしー。そういうことなら行くぞー」


「え、行くぞってどこへ」


「二人で最高に発狂できる場所…お忘れか」


「いや、想像はつきますが」


「ならばよし。とりあえず着替えてくるぜお」


「いってーら」


ほどなくして、

着替え終わった優美が自分の部屋から帰ってくる。


「じゃーいくぞー」


「おー、ってまだ行く場所聞いてないけど」


「大丈夫、たぶん想像通りだからな。それに行きゃわかるさ」


「いやまあそうだけどね?」


というわけで珍しく優美が先導して千夏を引っ張っていく。


「しっかしあれだな。やっぱ現状お前いなくなると家大変だわ」


「まあ家事やってるのだいたい私だしね」


「洗濯くらいはまあなんとかなったが、料理は無理じゃったよ。というかやる気しなかったよ」


「あ、そういえば三日間どうしてたの食事」


「世の中には冷凍食品とカップラーメンなる便利な物があってじゃな…」


「要するに、チンしたか、お湯注いだかしただけってことですか」


「まあそういうことだな。最悪飢えさえしのげればいいのさ。お前が帰ってきたらたらふく食うから」


「とか言ってどうせ結構食べてたんじゃないんですか」


「ばれたか。まあ普通にいつもの分量くらいは食ってたよ」


優美のいつもの分量とは、だいたい白飯茶碗二杯分と、

それに伴って食べるおかず分である。

幼女が食べるには多そうに見えるが、

本人いわくこれがちょうどいいらしいので問題はない。


「とか何とか言ってたらついたな」


「えーっとここはやっぱりー」


「伝家の宝刀。カラオケだ。やっぱ鬱憤たまったりしてるときはここっしょ?」


「変わりませんね」


「変わらんな」


神社に飛ばされてくる以前からカラオケにだけはさんざん二人で行ったのである。

そこでテストだなんだでたまったイライラを吹っ飛ばすことに定評があった。

ちなみに当然だがカラオケから出た後は延々としゃべり続けるおしゃべりタイムもついてくる。

これまた数時間喋ってるとかざらであった。


「しっかしなんかカラオケひっさしぶりに来る気がするぞ」


「こっち来てから来てないっけ?」


「そうだっけ?忘れたけどだいぶ長いこと来てない気がするな」


かつては頻度が高い時は毎週のように行ったものである。

そして歌いすぎで声がおかしくなるところまでがテンプレである。


「ま、入りましょうや。久々に全てを忘れて発狂するのも乙なものじゃぞ」


「まーそうだね。そうしようか」


「まあ発狂は別にここじゃなくてもするときはしてる気がするけどね」


「たまにおかしくなるくらいはかまわないと思うのよ」


「人目ないならまあ別にいいと思う」


というわけでカラオケボックスにインする二人。


「というわけで入ったわけだが」


「うん」


「俺の今の声って一体全体何が歌えるんだろうな」


「だいたいわかってるんじゃないの?」


「思いっきり声を出してるときと鼻歌感覚で歌ってる時じゃやっぱ違うし。どうせなら声に合ってる曲がいいなー」


だが、そんな優美の心配は杞憂に終わった。

というのも元々優美が女性ボーカル曲を選ぶ割合がかなり高かったので、

今の体だろうが問題なかったのである。

というか声質的に前よりはまってる。

千夏も千夏でそのような感じの曲をレパートリーに大量に持っていたので、

歌うものがないとかいう事態に陥ることの方が大変であった。


「しっかし、ここ来ると何にも変わってねえなあと思う今日この頃」


「別に普段から何にも変わって無くない?」


「それでも見た目も生活も何もかも変わっちまってるじゃん。でもやっぱりお前はお前だわ」


「優美ちゃんも優美ちゃんだよね。というか私はさておき、優美ちゃんは本当に変わったの見た目だけだよね」


「お前も別に見た目以外に大して変わってねえだろ。料理スキルとかも元々のぶつだしな」


ちらっと千夏を見て続ける優美。


「やっぱなんだかんだ言ってお前とのつながりは切れそうにねえな。ははっ」


「ここまでの付き合いになると誰が予想しただろうか」


「むしろ今の状況に至っても付き合いが続いてるってどういうことなの。運命?」


「もうここまで来ると運命かもしれんね」


「じゃあもう結婚するしかないな」


「どうしてそうなるんですか」


結局3時間以上歌い続けた二人であった。


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