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話し相手

「…ん…むぅ」


のそりと。

もはやおなじみとなった部屋の中で優美が目覚める。

今日はそんなに乱れていなかったご様子。

寝巻も布団も髪も割と綺麗なままである。


「……ああ、そういえば、あいつ今日はいないんだった」


本日は千夏が修学旅行に出かけて二日目。

要するに今千夏はこの家にいない。

妙に静かな感じがなんともいえないかと言われればそうでもない。

というのもどのみち普段から起きるの先なのは優美なのである。

どうせ普段から起きたときは静かであるので。


「…まああいつ起こしにいかなくていいのは変っちゃ変だがな」


習慣になりつつあることがやらなくてもいいのはやっぱりなんとなしに変である。


「…ま、とりあえずあれしようか」


ともかく、千夏がいなかろうが、

朝起きてやることはやっぱり変わらない。

着替えてまずは一掃除である。


「…ここらへんも緑いっぱいになったよなあ」


生えていた桜の木も今では青々とした葉を前面につけていて、

辺り一面緑に覆われている神社。

なお当然と言うか、

それと同時に発生した芋虫被害には苦労した。

そっち方面は千夏が完全に駄目なので。


「…こんなもんでいいかなあ」


そんなに落ちている物もないので、

掃除自体は結構はやく終わる。

まあゴミがたまってたら昼間にまたやるが。


「…ここら辺でいつもならあいつが呼びに来るわけだが…」


まあ前述したとおり今日はいないので当然呼びに来るはずもなく。


「…朝飯か」


さて、

ここで発生する問題が一つ。

優美は家事スキルは0に等しい。

となると千夏の手伝い程度ならいざ知らず、

自分ひとりでやったらどうなるか分かったもんではない。

ネット見ながらならやれそうだが、

時間かかるのでやってられない。


「こういう時これ便利よな」


向かった先は台所の電子レンジ。

冷凍庫から取り出したのは冷凍食品である。

優美が唯一できる料理(?)である。


「…まー腹さえ膨れればそれでいいのさ」


チーンと音がなって取り出せば、

既に食べれる状態である。

楽の一言に尽きる。

こればっかりだと出費がかさみそうだが。


「…しかし朝飯食う時に俺しかいねえのはなんだか変な感じだな」


朝食は毎回二人で食べているので、

ちょっと違和感である。


「…ま、俺もあいつも食ってるときは静かだからあんまり変わらないけどね」


独り言が増えるのは仕様である。

もともと一人っ子だった優美は独り言も結構多い。


「…あとは洗濯か」


いくら優美一人といえど、

洗濯するものはでる。

さすがに三日三晩同じものを着用し続けるとかいうのはできない。

キモイので。


「洗濯かあ…洗濯ねぇ…」


ここでも当然問題発生である。

当然洗濯なんてできないのである。


「洗濯かごにぶち入れとくか…?いやさすがに全部あいつまかせはなあ…」


とはいえどやり方なんて知らないので

ネット頼りである。

あってよかったインターネット。


「…ふう。終わりっと。いやー初めてやったわ」


とりあえず色々つまりながらも

なんとかやり終えた優美。


「…あいついつでも嫁にいけるな。俺無理だけど」


とりあえず千夏は家事は一通りできるというかやっている。

嫁に行ってもそれなりにやってけそうな気がする。

いや実際どうかは分からないが。


「…さてと、何しよっかなー」


やること自体はだいたい終わってしまった。

となるとやっぱ暇である。


「…ま、いつも通りにしてますかね」


そのまま自分の部屋に消えていった優美。

だが当然というか部屋でやれることにはすぐに飽きる。

いかんせん毎日いるので。


「…なんか最近暇ありゃここいる気がするなあ…」


と縁側に出て座ってる優美。

やることは特にないが、

個人的にここはお気に入りである。


「はぁ…」


全力のため息。

一日会話できなかっただけでこれである。

千夏との会話でいろいろ発散してるのである。

実際ここに来る前も、

会話できない日が続くと鬱憤が溜まっていた。


「優美姉。どうしたの」


「ふぇ!?」


意識の外から突然の声掛け。

変な声が出てしまうのも仕方ないとしてほしい。

ぼーっとしてたせいで人が近づいてきたのにも気づかなかったのである。


「あ…翔也君か」


そこにいたのは優美に告白してきたあの少年であった。

ちなみに純清翔也(すみきよしょうや)という名前である。


「どうしたの?はぁーってため息ついて?」


「んー、ちょっとね。千夏がいなくてね。今」


「え?ちー姉が?」


「うん。千夏修学旅行に行っちゃってね。今ここ私しかいないの」


「そうだったんだ…」


「おかげさまで話す相手もいなくてね。嫌になっちゃう」


さらっと言っているが結構千夏がいないことによるダメージは大きい。

元から親友であったが故にそのつながりかたは並みではないのだ。


「なら…」


「?」


「それなら、僕が、優美姉の話し相手になってあげる!」


「え…」


「…ダメかな」


「…ううん。全然そんなことないよ。ありがとうね」


「うん。だってなんか優美姉元気無さそうだったから」


「え。そんなふうに見えた?」


「うん」


実際若干黄昏てたのは事実である。


「…こっち来なよ。立ちっぱなしだと疲れるでしょ?」


「え、いいの?」


「いいのって何を今さら。ほらほら遠慮なんていらないから」


「じゃ、じゃあ」


優美の隣に座る翔也。

こうやって見てみるとまだ優美の方が背が高そうである。


「うーん、何話そうかなあ。こういうのって話そうと思って考えちゃうとなかなか話すことが出てこないんだよねー」


「じゃ、じゃあ優美姉が普段なにしてるか聞かせてほしい」


「ん?いいよ?いいけどつまんないと思うよ?」


「でも聞きたい」


「んー、そうだねえ。じゃあ私のことちょっと教えてあげようか」


というわけでぽつぽつと話し始める優美。

話題はなんであれ話せるのはいいことである。


「くく、あの時の千夏は最高だったよ。いろんな意味でね」


「…優美姉。ちー姉と仲良しなんだね」


「んー、まあそれは否定しない、かな?すっごく昔っからの付き合いだからね?」


「どれくらい?」


「んー…少なくとも6年以上」


年月的には7年目だが、

ここに吹っ飛んできた際にできた空白の6ヶ月は数えないことにする。


「へぇ…でもちょっと意外」


「ん?どうして?」


「優美姉とちー姉。もっと長いこと一緒にいるかと思ってた」


「どれくらい?」


「…10年以上」


「あはは、それはないよ。千夏と会ったのは中学校だからねえ」


と、そこでふと気が付いたことを一つ。


「…そういえば翔也君」


「なあに優美姉」


「私たちがここにいるのっていつ知ったの?」


「え…?ここに来た時にたまたま見かけて…」


「それっていつの話?」


「僕が小学一年生の頃の話」


「小学一年…三年前か」


当然だがありえない。

ここに優美が来たのがそもそも一年経っていない。

都合よく世界が改変されているようである。


「ちなみに初めて話したのは?」


「去年の秋くらい」


「…あ、そこは普通なのね」


子供たちがここで遊び始めた時期と一致する。

二人ともここに元からいたようにはなっているようだが、

交流自体は最近始まったものと認識されているようである。


「…さてと、じゃあ次は君の番」


「え?」


「えじゃないでしょー。まさか私にばっか話させる気じゃないでしょーね?」


「え、でも僕何話したらいいか…」


「そんな難しいことじゃなくても、ほら、君の学校のこととか聞かせてよ」


「え、でもつまんないよ?たぶん」


「でも聞きたい」


「…それさっき僕が言った」


「それでも聞きたいんですー!」


「…ぷふ。優美姉なにそれ」


「あはは。いや別に?なんとなく?」


「あはは、変な優美姉」


「それで、聞かせてくれる?」


「うん」


結局その日は夕方まで喋り続けた二人だった。


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[気になる点] 危ない!出会いの矛盾。①小学から②姉妹ではない疑惑 付き合いが6年以上で中学の時、千夏さんが現在高2と?
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