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一人

「んじゃー行ってくるよー」


「ん。とりあえず気を付けてな。怪我すんなよ」


「分かってます」


「こけるなよ」


「それはちょっと保証しかねる」


ある日の朝。

でけえキャリーバッグ持った千夏と優美が外にいた。

まあ当然と言うか要するにその日が来たのである。

修学旅行。

人によって楽しかったりそうじゃなかったりするあれである。


「それじゃあまた三日後?か?」


「うん」


「んじゃーまあ楽しんできなしゃんせー」


「行ってきまーす」


「行ってらー」


キャリーバッグ抱えて下へと降りていく千夏。


「うわっ」


いきなり階段に足ひっかけてこけかけている。

幸先不安である。


「いってらっしゃーい!」


そして階段の上から声を響かせて手を振る優美。

しばらく会えないので送り出しも全力である。

それに答えた千夏が手を振りかえして道の向こうへと消えていった。


「…ふー行っちまっただ」


道の向こうを見ながら優美が呟く。

なんだかんだ言って色々千夏にゃ依存してるので。


「…さーってと。お仕事お仕事ってね」


そう言うと神社の方に戻っていった優美であった。


「…んー昼間はいつもあいついねえからいいんだけどなー。夜やだなー」


ぶつくさ言いながら掃除する優美。

そう、昼間はいいのだ。

昼間は。

問題は夜である。

単純に怖い。

自分の家だろとか言われそうだが

夜中の神社裏の広めの家に一人とかもうマジ無理。


「しかし連れ込むような友人はいねえしな…こういう時は交流の少なさを恨むね?」


ちゃんとした人付き合いは数えるほどである。

会話はしたことあるけどーな感じの人が大半なのである。


「むう…これ俺千夏に捨てられたら終わりじゃね?やばくね?」


いろんな意味で千夏との付き合いが切れたら終了な気がする。

前の優美を知ってる的な意味合いでも、

単純な友人関係的な意味でも。


「…お、誰か来た」


内心喋れる人来ないかなーとか思ってる優美である。

基本的に喋りたい人なので。


「…あれは」


階段を上ってきた人物。

なにやらどこか見覚えのある顔。

そして変わらぬニット帽。

いつかここに来た受験生の男ではなかったか。


「…あ、どうも」


「あ、はい、おはようございます」


ちなみに現在朝8時くらいである。


「…なんだか、前ここに来たのがすごく遠い出来事な気がします」


「そんな、三ヶ月くらいしかまだ経ってませんよ?」


「はは…結構経ってませんかそれ?」


「ふっ…そうですかね?なんだか時間が過ぎるのが早くって」


実際感覚的な時間の流れはかなり早く感じていたりする。

好きなことやってるからかもしれないが。


「…今日は、ここに、お礼言ってなかったなと思いましてね」


「…お礼、ですか」


「ええ」


「…ということは」


「…はい、受かりました。おかげさまで」


朗らかに笑む男。

つられて優美も少し笑う。


「そうでしたか。良かったです」


「ええ、ありがとうございました」


「…でも」


「え?」


「それはあなたの頑張りですよ。後押しはできても、やっぱり、最後に勝ち残ったのは、あなたの実力ですよ」


「…はは。嬉しいこと言ってくれますね」


「だって、そうでしょ?神頼みだけで世の中回りませんから」


そういう点では神がいたとしても助けてはくれないだろうというのが優美の弁である。

たとえ神と言う存在が実際にいるというのであれば、

きっと相当な気分屋だと思う。


「…また、参拝しても?」


「ええ、どうぞどうぞ」


拝殿の方に向かっていく男の後姿を眺める優美。

男は静かに参拝を終えると戻ってきた。

以前はあった張り詰めた感じが抜けていることからして、

ようやく解放されたといった感じなのだろう。


「…また、来ても?」


「ええ。…いつでもお待ちしてますよ」


「…それじゃあ、また」


「はい」


そう言って去っていく男。

なんだか以前も見た光景である。


「…へー。あの人受かったのか。よかったではないか」


落ちた通知はもらったことがない優美である。

とりあえず高校受験時は一応受けたとこ全部通った。

大学は受験してないので知らない。


「…しっかしなあ。あれだよなあ。受験発表で何が一番怖いかって、友達だけ落ちてるパティーンが一番怖いよなあ」


実際学校ごとの受験番号が連番になってたりすると、

合格発表見ただけで誰が受かって落ちたのか丸わかりである。

合格発表だけは友達と見に行ってはいけない。

下手すると色々死ぬ。


「…あ、いかんいかん。イナリの餌餌」


ふと気づいたように家へと戻る優美。

普段こそ千夏がイナリの世話をしているが、

今回ばかりは仕方ない。


「…おう、すまんな。腹減ったか」


目の前でがっつくイナリ。

朝から何も食べさせてなかった。

そりゃ腹も減る。


「むー、今夜はお前と一緒に寝ようかな?まだ近くに見知ったのがいた方がましだよね?」


イナリは答えない。

いや答えたら怖いけど。


「…どうしよ。ほんとにそうしようかな」


真面目に怖い。

どうしようもないのである。

前住んでたマンションの廊下ですら

夜通るのが嫌だったのである。

こんな広くてしかも神社裏とか冗談抜きで心臓止まりそうである。


「…さ、最悪なんか出てきたら物理的除霊すればいい…よね?」


ここに来てからその手のスキルも一応身にはつけてあるので対抗できなくもないかもしれないが、

下手すると見た瞬間に意識が飛ぶ可能性があるのであんまり使えなかったり。

というか下手にそんなスキルがついたせいで、

偶に見えなくていいものまで見えるので手におえない。


「…ま、まーいいや。なんとかなるさ…はは」


そうして色々やりながら暇をつぶしているうちに気付けば夜である。

普段ならここから二人の会話が始まり、

結構うるさいってものなのだが、

当然相手がいない現状では静まり返っている。


「…リビングに居ればそんなに怖くないな」


優美が嫌いな場所は廊下である。

出たくない。

当然だが、リビングだって真っ暗だったら論外である。


「…もういっそここで寝ちゃおうかな」


座布団があるので寝れなくもない。

季節的に布団がなくても一応寝れそうなので。


「…ダメだ、下手すると外から見える」


リビングは障子一枚で外と繋がっているため、

下手しなくても人影は見える。

障子開けられたら終了である。


「…やっぱ自分の部屋かーはぁ」


内側の廊下を通ると暗くて怖いので、

外の縁側からまわっていくことにする。

こっちはこっちで本殿の裏を通る羽目になるのだが。


「…よっ!」


リビングの電気を消した瞬間に猛ダッシュである。

一刻も早く自分の部屋までたどり着きたいので。

そしてそのまま布団にダイブ。


「…がふっ!腰打ったっ!」


そんなに敷いてある布団も分厚くないので

思いっきり飛び込むとこうなるのである。


「ぐげぇ…いったあ…」


腰さすりながら睡眠モードに入る優美であった。

幸い腰に気がいってたおかげで、

あんまりそのほかに気をやらずに済んだ。

むしろよかったかもしれない。


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