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逃走経路

「今日も何にもない素晴らしい1日だった…ってね」


時刻は夜。

風呂も終えて一般人なら寝るだけ。

二人的には雑談の時間である。

基本的にすぐ寝るとかいう発想はない。

顔合わせて話せば、最悪いくらでも話していられるのである。


「イナリー!待って、止まって!」


「…うるさ」


ドタドタドタと。

廊下をかける音が響く。

今は二人は会話していない。

千夏が狐のイナリの様子を見てくると言って、

一旦席を外しているのである。

そんでもってすぐ戻るかと思ったら、

この始末。

戻ってこないし、

なんか廊下をかける音が聞こえるわけである。

何にもない?そんなことなかった。


「おーい。何してんの」


廊下側に出てみれば黄色い小さな影がぱっと目の前を過ぎる。

その後ろから千夏が来る。


「何してるのさ」


「イナリがーイナリが―」


「イナリがどしたし」


「今日に限って何故か部屋から逃走しているのです」


「あー何、今イナリ逃走中なの」


「そうです」


どうやらイナリが逃げていたらしい。

いつもは部屋にまでおとなしく連れられていくのだが、

今日はまだ遊び足りないのだろうか。


「とりあえずイナリ放置して寝るのはできんのです」


「そりゃそうだわな」


イナリはかなり動き回るので、

下手に放置しているとどこかに行ってしまう。

姿が見えなくなっても帰ってこなかったことは無いが、

やっぱりいなくなると焦るので。


「というわけで優美ちゃんも手伝って」


「狐とか捕まえたことねえぞ」


「私だって無いです」


世の中の何人の人間が狐を手で捕まえたことがあるというのか。


「とりあえずはさみうち作戦で」


「じゃあ私こっちから行くです」


「ん、じゃあ外の縁側の方からまわるわ」


というわけでイナリ捕獲作戦開始である。

勝率は低そう。


「しかしあんな小さくてちょこまか動き回るやつとか捕まえられるもんなのか…?」


とりあえず縁側の方に行ってみれば黄色い影が走ってくる。

この家でこんな色して走ってるのは一つしかない。

イナリである。


「ほっ!…そりゃ逃げられるわねー」


とりあえず手づかみを狙ってみたが無理である。

ちょろちょろ走り回ってる小さいの手づかみとか不可能。


「優美ちゃーんそっち行ったよー」


「過ぎてったぞ」


「駄目じゃん」


「そりゃあれ手づかみとか無理じゃろうて」


「どうしよ?」


「あいつルンバお気に入りだろ。ルンバで釣れない?」


「さっきやった」


「やったのかよ」


「でも今日は何故か逃げてった」


「今日は何。逃走したいデーなのかしら」


「とりあえずどうしよ」


「あいつが止まってるとこにこっそり近づいて―ってやるしかないかもねー」


なかなか長い戦いが始まった。

気配だなんだが察知されてしまうのか、

近づくとすぐに逃げ出してしまうので捕まえるどころか視界にとらえるだけでも

精一杯な面がある。

罠っぽいのも提案してみたが怪我させそうなのでやめた。


「…ふう。もはや逃げ道はないぞ…観念して投降しろっ!イナリ!」


「いや犯罪者じゃないんだし」


「時間泥棒。俺たちの」


「それは間違ってない」


そして数十分にわたる戦いの末に、

優美の部屋まで追い込まれたイナリである。

基本的に閉めきってあるので

脱出するためには障子を開けるか、

廊下に面した襖を開けるかしないといけないので、

事実上の袋の鼠である。


「さてと。お縄頂戴」


ゆっくりと近づく二人。

焦ると股の下をくぐられたりして

確実に逃げられるので慎重に。


「よーしよーしそのままそのまま」


「動くなよー」


障子の方に下がっていくイナリ。

そこに迫る二人。


「よし、これで終わりだっ!」


二人がイナリを捕まえようとするやいなや、

イナリはそのまま身を翻し障子に向かって突っ込んだ。

そう、障子である。

開けられないなら破っちゃえばいいじゃない。

つまりそういうことである。

ベリッっと嫌な音が響いた。


「あぁー!障子破りやがったあいつ!」


「うわ、盛大に破れたね」


それはそれは大きな穴である。

そりゃいくら小さいとは言えど狐が通った後である。

枠の中一つぶんまるごとくらいは破れた。

むしろ枠一つでよく通れたなとか思う次第である。


「はあ…ちょっと休憩していいすか」


「うん」


「じゃあちょっとあと頼んだ」


そう言ってリビングに戻る優美。

何せ障子が破れたのは優美の部屋。

しかも場所が場所なので布団で寝たとき、

ちょうど横に穴が来るのである。


「むう…どうすんのよあれ」


それからしばらく。

千夏が戻ってきた。


「どうだった」


「それが障子破ったら満足したみたいで自分から部屋に戻ってたよ」


「く、なんちゅう悪がきに成長しやがった。あの狐め」


当のイナリ本人は部屋に戻ってくつろぎ中である。

良い御身分である。


「まあとりあえず一件落着なのです」


「障子は全く落着してねえけどな」


「そうだ。あれどうするの?」


「貼りかえるしかないでしょ。あれ補強でなんとかなる範囲超えてるし」


障子紙そのものがイナリに持ってかれてしまい、

一部消失しているので、

セロハンテープとかで直せる状態じゃなかった。

やろうと思えばガムテなら防げそうだが、

見た目悪くなるのでやりたくない。


「…まあ明日新しいの貼るわ」


「そうですか」


「まあ最悪自分で出来なきゃ業者呼ぶけどね」


またネットのお世話になること確定である。

障子紙の貼り方とか覚えてない。


「今日は…しかたねえな。穴あきで寝るわ」


「なんかでふさいだら?」


「そうするわ」


そうして夜。

座布団持ってきてそれで穴を埋めておく。


「…まあ別に風来なきゃいいよね」


そうやって布団にもぐりこむ優美。

が、これだけで済まないのが優美である。


「…」


頭の中をよぎるのは

多数の幽霊妖怪etc…

それらが妄想の力で絡み合って

勝手に優美の内の恐怖度が上がっていく。


「…あー、ちくしょう。昼間怖い話読むんじゃなかった」


なんか空いてる穴から見られてるんじゃないかとか、

そっからなんか出てこないだろうかとか思っちゃうのである。

とりあえず今夜トイレには行きたくない。

怖い。


「はあ…」


結局寝るまで数時間を要した優美であった。

なお当然次の日障子は貼りかえた。

毎日これとかやってられん。


「それからイナリ。お前今日は外出禁止な。じっくり反省せいや」


罰として一日部屋に閉じ込められるイナリである。

さすがに二回目障子破られるのは勘弁である。



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