静かな場所の騒音巫女(★)
挿絵提供 teruruさん http://pixiv.me/pochi-tr
「んー」
「どうしたの」
「いや、カラオケ行きたい」
「行けばいいんじゃない?」
「金が」
「そこは気にするんだ」
「使いすぎましたし」
「自業自得じゃないかな」
「いや、まあそうなんですけどね」
一応一か月に使う分のお金は制限を掛けている。
優美はいろいろ使った結果、上限に到達してしまっている。
「どうしたもんかなあ」
「というか何故それを急に言い出したの?」
「いや…別に深い意味は無いんだけどね。しばらく歌ってないなあと」
優美はもとより無類の歌好きである。
下手しなくても趣味の中では頂点に位置する。
3度の飯よりもとまではいかなくても3度の飯くらいには好きである。
「ああ…歌歌いたいなあ」
「歌ってもいいのよ」
「流石にちょっと」
「そうですか」
「音があんまりないね。ここの生活は」
「確かに」
この家にはテレビが無い。
高台にあるせいで周囲から生活音はほぼ聞こえない。
車の音すら届かない。
なので音が無い時は本当に無いのである。
PCをいじるときもヘッドフォンなので。
「まあとりあえず今日の作業終えてから考えるとしようか」
「ガンバ」
「つか今日は学校ねえのか」
「祝日だよ今日」
「そうかい。カレンダーねえからわっかんね」
「そういえばないね」
「カレンダーくらいは買ってきた方がいいかもしれんな」
「予定組みにくいしね」
「さすがにそのためにPCつけるのもアホらしいしな」
「じゃあちょっと買ってきます」
「よろしくおなしゃす」
そういうわけでカレンダー購入へと旅立つ千夏。
買い物にも優美がついていくことはあんまりない。
神社の中でやることがあるのも理由だが、
やっぱ外出たくないだけである。
「…とりあえずあともう少し書くかなあ」
自分の部屋に戻って御札書きを再開する優美。
正直やりたくないのが本音であるのだが、
やらないと絶対やる気にならないので1日数枚はやっておくのが日課である。
「全く面倒くさい作業だなあおい。墨ってなあ…サインペンじゃいかんのだろうか。だめか」
一人呟いて一人突っ込む。
元々一人っ子であったために独り言は割と多い。
「む、ミスった。…燃やさねば」
失敗した御札を放置しておくと呪われそうなので失敗したものは焼くことにしている。
この手のことについてはもとから結構信じていた節がある上に、
こんなことが起きた今では信じざる得ないので。
「…今日あったかいなあ…」
ぼんやりとそんなことを考える優美であった。
「……ん、はっ!」
ぱっと起き上がって周囲を見渡すと真っ暗である。
「…いかん。寝とった。何時だ今」
時計を見ると夜7時。さっきまで2時くらいであったはずである。
「…あっかん。昨日寝てないのがたたったか。夜更かししすぎたなあ」
昨日寝たのは5時である。
もう昨日と言うか今日である。
「優美ちゃん。ごはん」
「うわ、やっぱもうこんな時間かよ」
「あれ、もしかして寝てましたか?」
「気づいたら意識無かったでござる」
「あるあるですね」
「今日の分終わってねえし」
「まあ、明日でもいいんじゃないでしょうか」
「絶対やらなくなる。今日やらねば」
「あとさ」
「何」
「顔。墨ついてるよ」
「嘘。うわ」
筆でもついたのかは知らないが顔に線が描かれていた。
「ちょ、落ちにくいのに顔面はねえよ」
「というかいったいどういう体制で寝たらそういうことになるんでしょうか」
「俺に聞くな。筆に聞いて」
「じゃあ筆さん。どうしてそうなったんですか」
「筆はただ転がってたら上から顔が落ちてきたと言っている」
「要するに普通に当たりにいったってことじゃないですか」
「まあそういうことだな」
予想以上に汚れていたので軽く顔を洗ってから夕飯である。
「あ、そういえばカレンダー買ってきたよ」
「おっす。あざし」
「壁掛けの」
「でかいなおい」
「安かったので」
「置く場所ががが」
「部屋はいっぱいあるじゃないですか」
「普段いかない部屋に貼ってあってもなあ」
結局部屋の一部を片づけておくことで終結した。
「じゃあちょい風呂はいってくら」
「いってらっしゃい」
「さすがに洗わな顔やばい」
「まだ黒いしね」
「うむ」
「だからって肌傷つけるほどごしごしやっちゃだめだぞ」
「分かってーら」
お風呂場で顔を念入りに洗う優美。
「むう、薄くはなったが落ち切らぬ」
乾いてしまったせいか微妙に洗っても落ちずに残ってしまっている墨である。
「しゃあねえ。何日かすれば取れるっしょ」
「でも落としとかないと。顔だしそこ」
「いつの間に来たんですか」
「今の間」
「あ、はい」
さりげなく千夏も風呂場に参戦する。
別に二人で入る程度なんとも思っていない。
「というかですね」
「なんだ」
「少しは体隠そう」
「隠す意味があるのか」
「いやこう一応人目がですね」
「さっきまで一人だったし」
「今私いるでしょ」
「お前だし」
「いいんですか」
「かまやしない」
「いやでも今の体の事考えましょうよ」
「慣れたんちゃいますか」
「慣れたけど。慣れたけど。恥ずかしくないんですか」
「全く」
「変わってないのね」
「うむ」
優美は全く体を隠していない。
前からこうだったが、今の体のことを考えるといろいろ不味い気がする。
が、本人はなんとも思ってないので問題である。
「というかどうしたし。いつもは二人で入らんのに」
「絶対顔適当にやるなと思いまして」
「正解。さすがだな」
「まあ、優美ちゃんなら適当になるだろうしね」
「うんうん。そしていつの間にかちゃんがデフォ装備になっとる」
「今の見た目にはこっちのが合うし」
「やっぱり小さい子扱いですかそうですか」
「姉と慕ってもいいのよ」
「さすがにねえよ」
その後、千夏にじっくり洗われた優美であった。
「…いかん、起きてもうた」
その日の夜である。
深夜4時くらいに優美は目が覚めてしまった。
だいたい昼間爆睡してたのが原因である。
「…続き書こうか」
昨日やれなかった分の御札を書く優美。
それが終わるころにはすっかり脳みそが目覚めてしまっていた。
「…うごご。こんな時間に起きてもすることがないではないか」
千夏はまだ寝ているし、PCを付ける気にもならない。
まさしく何もやることが無かったのである。
「…もういいや。掃除始めよ」
本気でやることがなかったのでさっさと着替えて掃除を開始する。
どのみち今から2度寝できるほどの眠気は飛んでしまっているので。
「…相も変わらず静かだなあ。朝なのも相まって」
ざっざと箒を使いつつそんなことを一人呟く優美。
「…♪…お、意外と響くね。いいねこれ」
軽く発声練習する優美である。
意外と声がよく通るこの場所であった。
そしてそれがわかってしまった以上もう止まらない。
「♪~♪~」
最初こそ鼻歌であったがだんだん音がでかくなっていく。
周りが見えているのは最初だけである。
というかそもそもまず誰もこの時間はこないのでそこらへんの遠慮は無しである。
「♪~♪~♪~」
よく通る声が辺りに響く。
歌自体はもとからわりとうまかったので音が外れたりすることは滅多にない。
既に今の声の音域も把握している感じ、影でこそこそ練習していたのかもしれない。
「んー。いいねぇ。くく、もう一曲やろっかなー」
ちょっと乗ってきた優美の動きが上がってくる。
少なくとも箒の動く勢いは早くなってきている。
若干足の動きもステップのようなものが混ざり始めている。
「♪~♪~」
結局歌いながら掃除し続けいつも以上の勢いで掃除が終わっていく。
歌を歌っていたりすると仕事の勢いが上がるのはわりと前からである。
特に掃除など、あんまり頭を使わない方面のことについては勢いが倍増する。
「ふー。おお、もうだいぶ終わってしまった。やっぱ歌は良い物じゃ」
汗をぬぐう優美。
テンション上がって小踊りというか結構ガチ踊りであった。
「…何してるの」
「うひい!?」
そんな優美に声をかける影が一名。
千夏である。
そりゃあんだけ歌っていれば気づくもんである。
「い、いつの間に」
「ちょっと前?」
「頼むからいきなりやめて。まじやめて。心臓止まっちまう」
相変わらず怖いものは怖い優美である。
今回に至っては、誰かいるのを一切想定していなかったので余計である。
「それで、どうしたんですかこんな朝早く」
「いや、眠れなかったので掃除してたんですが」
「ほう」
「なんか調子乗ってきたので歌ってました」
「聞こえたよ」
「起こしたか。すまぬ」
「まあ、別に早起き悪くないし」
「しかし早すぎるだろうしな」
「まあ5時だしね」
「しかし」
「ん?」
「よく通る声で安心した」
「そう?」
「これで声死んでたら死んでた」
「大事なんですね」
「死ぬほど大事」
歌命の優美にとっては死活問題であった。
「それで」
「おう」
「なんで踊ってたの」
「…言うな。言わないでくれ。というか忘れてくださいお願いします」




