人生の階段を上る
「そろそろ四月か…早いもんだ」
家で御札書く片手間にPC触りながらつぶやく優美。
最近は自分の部屋からわざわざ用具一式持ってきてリビングで作業することも多い。
というのも自分の部屋にいると外の様子が見えないわ、
千夏の帰還は分かりづらいわで不便だからなのだが。
「…そろそろ学校の学年も変わる時期か。まあ俺は関係ないけど、千夏は大丈夫かしら。まああの見た目なら無問題か?」
学年の変わり目。
クラスの変わり目。
新しい出会いはあれど友達と別れる可能性も十分ある。
特に優美は結構苦い思い出があったりする。
「…クラスに馴染めねえのは強烈につらいもんがあるんだよなあ…」
忘れもしないかつて高校一年だったころの話である。
高校入ってすぐのせいもあったのか、
とにもかくにもさっぱりクラスの中で友達と言える存在ができなかったのである。
おかげさまで放課になるたびに図書室へと向かう日々が半年くらい続いた。
なお、半年経った後も図書室に行かなくなっただけで事実上のぼっちであったことに変わりはない。
「…まあ、心配しても、まだわかれるって決まったわけでもねえか。最悪SNSあるしな」
つくづくSNSがあってよかったとか思う優美である。
クラス離れようが、学校離れようが連絡ができるのはやっぱり大きい。
「ただいまー」
「む、帰ってきたか」
とまあそんなこと考えていたら千夏が帰ってきたらしい。
最近はちょっと日も伸びてきた感じなので若干心配の種が減った。
「お帰り」
「ただいまー」
「どこ行ってたのさ」
「むふふ、それはちょっと乙女の秘密ということで」
「乙女の秘密ぅ…?まあ、ええわ。とりあえず荷物類置いて来いよ」
「そうする」
まあとりあえず何やら色々買ってきていたようなのでとりあえず置いてくるように促す優美。
ぱっと見た感じいつもの買い物バッグだったような気がするので
まあ普通に買い物してきただけなんじゃねーかと思った。
秘密ってなんぞや。
「つーかなんか買い物してきた割にはいつもより遅いな。なんかあったかえ?」
まあ帰ってきたのでそう突っ込む気もないのだが。
これで帰ってこないなら発狂する自信くらいは優美にはある。
「置いてきた―」
「ん。…ん?」
声に反応して千夏を見上げてみれば手の位置がおかしい。
具体的に言えば両手が後ろにある。
ちょうど優美に見えない位置にこう何か持っている感じだろうか。
「…え、手、何」
「ナンノコトカナー」
「さすがにそれ隠してるうち入らねえよ」
丸見え、
いや厳密には見えているわけではないが丸わかりである。
というか隠す気ないのだろう。
「もしや、先ほどの秘密とはそれか?」
「さーどうでしょうか」
「もったいぶるなや。なんなんやーて」
さすがにこうも目の前でなんかあるのにじらされたら気になる優美である。
そこまでドライにスルーとか無理である。
「見たいですか」
「そりゃもう、そんだけ言われたら気になるでしょう」
「でも後ろに回ってこようとはしないのね」
「後々見てから後悔するものだったりしたらいやだし」
「私から見せてもそれ結局変わらない気が」
「いや俺はともかくお前が見られて困る物だったりしたら俺も反応に困るし」
「たとえば?」
「…性具?」
「…相変わらず頭の中ピンク色一色なんですか優美ちゃんは」
若干引き気味の千夏。
そしてオブラートに包む気もさらさらない優美である。
「別に。ただ見られて困るものって言われてぱっと出てきたのがそれだっただけだ」
「それがぱっと出てくる時点でだいぶ終わってる気がする」
「何を今さら」
「むしろその見た目で言ってると犯罪臭がするよ」
「そうか?まあどうせ聞いてるのお前しかいないから問題あるまい」
「大問題です」
「ピュアだな」
反面こう言ったことをストレートで言えないのが千夏であった。
まあどっちがいいとかはとやかく言うまい。
だいぶこっち来て長いとは言えど元は男子である。
「さてと話を戻そう」
「優美ちゃんが脱線させたんだけどね」
「脱線させた先にレール敷いていったのはおまえだろ」
「そのレールの上を走っていったのは優美ちゃんだと思うの」
「だってレール続いてるから」
「緊急停止」
「今ブレーキかけてたんだけど再出発しそう」
「いや、しなくていいから。まだ深夜でもないのに」
「了解した。深夜になったら再出発しよう」
「いやそういう話じゃなくてですね」
「まあとりあえずそれは置いといて。結局そのお前の後ろにあるそいつはなんなんだ」
「じゃあお披露目ー」
「じゃかじゃかじゃかじゃか」
「ででーん」
コトリと机の上に置かれたそいつはサイズで言えば
優美の両手に乗るかちょっと大きいかといった感じの箱であった。
綺麗にラッピングされて、プレゼントボックスのような見た目である。
「…このサンタが運んできそうな装飾の箱は一体?」
「プレゼントだよー」
「ん、プレゼント?誰の?」
「え?優美ちゃんだよ当然」
「俺?俺なんかしたっけ?」
優美の頭の中を色々なことが駆け巡るが、
そう大して普段と違うことをした記憶はない。
「…え、まさか本当に覚えてない?」
「ああ、なんだ?」
「優美ちゃん今日誕生日じゃん…」
「あ、…ああっ!そうだった!すっかり忘れてたっ!」
頭の中を飛び回っていた意味不明の羅列がようやく一つにまとまる。
今日は優美の誕生日である。
「ということはこいつは」
「お誕生日おめでとう優美ちゃん。そのためのプレゼントです」
「当の本人が忘れてたのによく覚えててくれたな」
「こういう記憶力には自信あるのです」
「そうかい。うん、ありがとね」
「とりあえず何にしようか今日迷いまくったのです」
「あー…それで買い物行っただけのはずなのに帰り遅かったのか」
「そゆことです」
優美の目が一か所に据えられる。
当然と言うか目の前の箱である。
「…開けていい?」
「どうぞどうぞ」
「ならば御開帳」
ラッピングをはがしていく優美。
なんか崩したくなかったので、
必要最低限以上破らないように注意しながらはがしていく。
「うん、まあ出てくるのは箱やわな」
「その中です」
「開けてみそー」
ぱかっと開けてみれば中から出てきたのはコップであった。
「こりゃ…コップすかね」
「そうです」
「こりゃまたなんで」
「できれば実用的なのがいいかなーと思って。けっこういい感じの選んできたつもりだけど」
「うん。ありがとね。大事に使わせてもらうよ」
「気に入ってくれました?」
「友からのプレゼントにけちのつけようが?」
「ならよかった」
「というわけでこいつは俺専用機にさせてもらおう」
「どうぞどうぞ」
「じゃあさっそく使ってくる―」
と台所にダッシュしかけた優美を千夏が止める。
「ちょい待った優美ちゃん」
「おりょ?」
「もいっこ。これもはいプレゼント」
「これは…ケーキではないか!甘いもの!甘いもの!」
「コップだけだと想定予算を遥かに下回ったから余った分で買ってきました」
「ありがたく頂戴する」
そのまま台所にダッシュしてお茶持って戻ってくる優美。
さっそくコップは使う気満々である。
ついでにケーキも食べる気満々である。
「ふふっ…」
「どったの優美ちゃん」
「いやね。誕生日は幸せね。プレゼントもらえたし。好きな物は食べれるし」
「よかった」
「なかなかこうも幸せなことも無いのだわ」
パクリと一口ケーキ食べて満面の笑み。
全身から放たれる幸せオーラが目にまぶしい。
「ごちそうさまだわー」
「はい」
「おいしかったのだわ。ついでにコップサイズがちょうどいい」
「選んだもの」
「さすがだわ。こりゃ来年も期待」
「ハードルあんまり上げちゃだめよ」
「大丈夫。気持ちさえ伝わってこればなんでも喜ぶのだわ」
「じゃあまた来年もなんか用意するよ」
「ありがとーす」
雑い返事を返しつつも幸せをかみしめる優美であった。




