春の城
「…」
「…」
「暇じゃなあ…」
「暇ですねえ…」
春の縁側で呟く二人。
今日の千夏は珍しく本当にどこに行く予定も無かったせいか、
巫女服である。
「ここに来る前はあんなにも時間がほしいと思ってたんだがなあ…」
「思ってたんだけどねえ…」
「いざこうも時間が有り余るとなあ…」
「何しようっていうね…」
良い天気である。
が、特に予定が無い二人である。
「どうしよっかね…」
「どーしよ」
「ここはお前お得意のどっか行くでなんとかならんのか」
「でも近場で行きたいところってだいたい行っちゃったしなあ…どこ行けばいいんだろう」
「むう…」
「うーん…」
悩む二人。
時間だけならたっぷりある。
「…ダメだ。考えるだけ時間の無駄だな」
「まあ無駄と言うかその時間が有り余りすぎて困ってるんだけど」
「まあそうだけどさすがに唸ってるのだけで時間を浪費するのはアホみたいだし」
「じゃあどうする?」
「こんな時の為のこいつですよ」
そう言って縁側すぐそばにある自分の部屋に入る優美。
戻ってきたらその手には毎度おなじみのPCがあった。
なおコードは部屋のコンセントに挿したままである。
「調べる」
「そだね」
かちかちかちと、手際よく観光地でもないか検索をかけていく優美。
PCの操作はかなり早い。
伊達に中学入学時から毎日触っていたわけではないのである。
なお千夏も優美と負けず劣らずPCの操作速度は早い。
「ふーむ、観光地適当に検索してみたけどそんなに遠くないとこに城があるみたいだな」
「お城ですか?」
「城ですね。山の上にあるっぽい」
「行きます?」
「そのために検索かけたんだし行こうや」
というわけで着替えて外に向かう。
「寒くなくなったから外に出やすくなってきたな」
「そだね」
「歩きだと遠いから電車使うべ」
「はーい」
というわけで駅に向かう。
「というか電車乗るの久々ですわ」
「そうだねえ」
「前お前がなんか買いに出かけた時に来たっきりだから…三ヶ月ぶりくらいか」
「まあそんなに遠出する用事はないんだよねえ」
「お前がそうなのに俺があるわけがなく」
「結局遠出しないというね」
「まあ今回はするけどね」
「おんなじとこ出かけても飽きますしね」
「数回くらいはいいんだけどな。毎回うろうろしまくってもあんまり変わり映えしねえからな。偶には目新しいとこにも行きたいですよねー」
「ねー」
お昼頃の出発だったせいか人はあんまりいない。
「今日は座れたな」
「前回は座れなかったもんね」
「ここも平日の朝とかはぎゅうぎゅう詰めになるのかな」
「だとしたら来たくないですねえ」
「来たくねえな」
そのまま目的地の駅についてしばらく歩けば、
目的地の山のふもとである。
「ついたねー」
「ついたな」
「で、優美ちゃん。目的地ってあれですか?」
千夏が指を指したのはかなり上の方である。
「うむ。予定通り山の頂上にあるみたいだ」
「ここ登ってくの?」
「登る?」
「どっちでも」
「俺はやだ」
「じゃあ聞かないでよ」
「そんな俺のために用意されたものがこちら」
優美が指した先にあったのはロープウェー乗り場である。
「あーロープウェー」
「そ、これ使えば頂上付近までは上がれるからな。これ使って登っていけばよろし」
「それなら楽だね」
「というかこれが無いなら来ようとか言わねえよ。山登りやだし」
「初めからそのつもりだったんですか」
「そのつもりだあね。山を登るのに時間を使いたくはない」
というわけでロープウェーに乗る二人。
「おー、綺麗だ」
「よく見えますね」
「やっぱり山の上からの景色はいいのう」
「まあまだ中腹くらいな気がするけど」
ロープウェーが上に到着するまで数分かかるのだが、
まだ一分くらいしかかかっていないので中腹にすらまだ来ていない。
「というかいっつも思うんだけど」
「うん」
「ロープウェー怖くね」
「そう?何か怖い?」
「なんか突然紐切れたりしないかなーっていっつも思う。あと乗ってるこいつだけ接続外れねえかなとか」
「いや確かにそれが起こったら怖いけどそんなこと思ってたら何にも乗れないでしょ」
「昔からこういうの乗ったりするとそういう妄想が頭を駆け巡ってやばいんだよね。乗れないわけじゃないんだけど」
吊り橋とかわたっても同じような妄想が頭を駆け巡る優美である。
基本的に足元に地面が無いと似たような事態になる。
「ついたついた。そんなに時間かからなかったな」
「まあ距離自体はそんなにないですし」
「まあそれもそうか」
山のだいぶ上あたりに出てきた。
ここからならそんなに距離もないので歩きで十分頂上を目指せるというわけである。
「家の裏の山は登ったけどここはもっと高いな」
「まあ家の裏の山そんなに高くないし」
「確かにな。とりあえず行こうぜ」
「うん」
そのままかなり緩やかに敷かれている石段を登っていく二人。
本日の二人はスカートではあるが、
そう短くないのと、
石段が緩やかなのも相まって中が見える危険性はたぶん無い。
「昔はこういう石段見ると駆け上がったりしたんもんだがね」
「今はやらないの?」
「ん、なんなら頂上まで競争でもするか?」
「んー?いいよ?」
「ならば行くぞ。ゴー!」
「うわ、ちょっとそれずるい」
そのまま頂上まで駆け上がる二人。
「はあ…はぁ…なんかひっさびさに走った気がするぞ…」
「優美ちゃん疲れすぎ」
「しゃーねーだろ。走り回ること最近してねーんだもの」
「テニスたまにやりに行ってるんじゃないの?」
「あれ短距離走ることはあっても長く走ったりすることないもの。段差もないし」
「運動しよう」
とりあえず城前までやってきた二人。
「相変わらずこういうのって遠目だと豆粒だけど近づくとでかいのう」
「そうだねえ」
「それパシャッとね」
「あれ?カメラ?」
「ちょっと前で自腹で買ってきた。なんかに使うかなーとか思ってさ。買っといて正解だったぜ」
「へー」
「というわけで一緒に撮ろうぜ」
「あ、うん。いいけど、どうやってやるの?」
「自撮り棒は持ってきてないな。というかそもそも家にもねえな」
「タイマー使う?」
「面倒だ。ちょっと適当に人呼ぶわ」
さささっと近くの人に話しかけに行く優美。
普段は自分から話しかけに行くことなどまずないが、
こういう時は早い。
すぐに男性を一人捕まえてきた。
「撮ってくれるってー」
「あ、ほんとに」
というわけで城の前で撮ってもらう。
「はい、笑ってくださーい」
「あいあいさー」
「…」
「…あれ?どうかしました?」
「あ!すいません!撮りますねー。ハイチーズ」
一瞬完全に男性の顔が赤くなって硬直した。
仕方ないかもしれないが。
「ありがとうございましたー」
「いえいえこちらこそ。良い物見せてもらいました」
「え?」
「え、あ、いや、なんでもないです!それでは!」
ささーっと逃げるように去っていく男性。
「どーしたの?」
「良い物見せてもらいましたってさ」
「なんか見せたっけ?」
「さー」
理解できずに城に向かう二人であった。
「お、この時間なら入れるな。入る?」
「どうせだし入ろっか」
「じゃあにゅうじょー」
まあ金はとられたが微々たるものなので気にしない。
「中身コンクリートじゃな」
「まあ改装工事されてるし」
「まあいろいろ展示されてるしそれ見てけばいいよね」
「そだね」
そうして歩いていた優美がある一点で止まる。
「刀ですぞ!刀がありますぞ!」
「いや分かってる、分かってますから」
「いいなー。やっぱり刀はいいわー」
「本当に刀好きよね優美ちゃん」
「く、抜きたい」
「いやさすがにそれは」
「だが触れぬ…家帰ったら模造刀ふりまわそ」
「あぶなっかしいですね」
そのまま最上階へ。
「おーよく見えるわー」
「下の街が全部見渡せるね」
「いやはや晴れでよかった」
「これで霧とか出てたら見えないよね」
「見えんね。やっぱ晴れ最高」
カメラのシャッターを切る優美。
「なんかさ」
「うん」
「こうやって高い場所から景色見てるとさ」
「うん」
「辺り全部支配してみたくなるよね」
「優美ちゃん。発想が魔王じみてるよ」




